第104話 境界を越える者
スマホを触っていないのに、目の前にゲーム画面が現れた。
慌てて画面に触れてみると――普通に操作できる。
脳内で『スマホの電源を切る』イメージをすると、
ゲーム画面はふっと消えた。
再現性を確かめるため、もう一度『スマホを操作しゲームを起動する』イメージをする。
すると、またゲーム画面が現れる。
……どうやら、本当に俺の意識だけでオン・オフができるらしい。
「これはスゴイな……すごいよね――って、セリフィア!?」
少し興奮してセリフィアを見ると、その眼から涙がこぼれていた。
彼女が泣く姿なんて初めて見たので、心臓が跳ねる。
「ど、どど、どうしたセリフィア!?」
「……すみません。
感動してしまいまして……さすがです。マスター。」
目じりを拭いながら微笑むセリフィア。
いや、どこに感動ポイントがあったんだ……?
驚くポイントくらいしかなかった気がする。
「マスターが、私の推論だけで、すぐに超越魔力を使えたことが嬉しくて……
それと、私たちの可能性が増えたことも……とても嬉しくて。」
「あ、うん。ありがとう……って、セリフィアたちの可能性? 何か分かったの?」
セリフィアは一度息を整え、いつもの落ち着いた表情に戻る。
そして、まっすぐに俺を見る。
「はい。私たちは現状、普通の人間ではありませんよね……
マスターも感じられている点があるのでは?」
「それは…………まぁ、うん。」
普通の人間じゃない。
そう感じる瞬間は、確かにあった。
特にホテルで一緒に過ごしていた時、実感してしまった。
彼女たちはトイレに行かない。
一緒に飲んで、食べて、俺は何度もトイレに行った。
だがセリフィアも、ルミナも、カリーナも、カグヤも、ミレイユも――
誰一人としてトイレに行かない。
酒を飲んでも排泄欲が湧かないのだ。
確かに飲んだはずなのに、食べたはずなのに、誰もトイレに行かない。
血やその他の体液は存在しているのに、トイレには行かないのだ。
人間ではありえない。
俺は、この現象はおそらく『ゲームキャラだから』という点が影響していると思っていた。
ゲーム内で、プレゼントアイテムに『ケーキ』などの食べ物があったりするが、それは愛情度に変換される扱いだった。
だから、彼女たちが食べたものは、人間とは違い、愛情度を稼ぐ何かしらに変化しているんじゃないかと、うっすら思っていた。
彼女たちが食べ物を食べても、身長や体重も変わらない……だから検証でも大丈夫な気がして遠慮なく……オホンっエホンっ! んんっ、したりしたのだ。
「……『ゲームキャラ』だな。と感じる点はあった……かな。」
「はい。だから私は、マスターが『人間』の鷹司さんに惹かれた可能性もある……そう思っていました。」
……そうなの?
……いや。
そうかもしれない。
お金に困ってない状況になったし、俺もいい歳だ。
友人のように――自分の子供を……少し、夢見たかもしれない。
セリフィアたちでは叶えられない。
そんな夢を。
「……そうかも……しれない。」
後ろめたい気がしてセリフィアを見られない。
「ですが、今……マスターが完全に『ゲーム』と『能力』を別の物と認識しました。」
「……ん?」
「つまり、マスターの能力から生まれた私たちも、これから『ゲームキャラ』ではなく、別の存在に、マスターと同じ存在に成り得るということです。
……ふふ。これから要、検証ですね。マスター。」
つまり……
……そういうこと?
いや、ここは大事なことだ。
大事な事ほど、有耶無耶にせず、曖昧にせず、齟齬がないように、しっかりと確認することが大事。
「確認なんだけど……俺と、子供が作れるかも? って話で合ってる?」
「はい。その通りです。
私たちがゲームキャラから、マスターと同じ人間のような存在に成っていれば可能性はあります。戸籍などは容易な話ですから、私たちも同じ立ち位置に立てるのです。
これからたくさん検証しましょうね。マスター。」
「よかった……って、なんかサラっと言ってるけど、戸籍って簡単な問題なの!? すごい難しそうな気がするんだけど!?」
セリフィアが首を傾げる。
「ここは『魔石を取れる人間が力を持つ』世界ですよね?
私たちの能力を見せつけた上で『戸籍がないので用意してくれる国に行きます』と言えば、慌てて用意してくれると思いませんか?」
「……それは…………そうだね!」
他国に行かれるくらいなら、特例で戸籍くらい作るだろう。
それを言いやすそうな伝手も、もう手に入っている。
あれ? ……なんか一気に、俺の目的だった
『面白く、楽しく、セリフィアたちと過ごす』
これが叶えられそうな気がしてきたな。
なんだか、バラ色の未来が見えてきていやしないか?
「コホンっ!」
セリフィアが、わざとらしく大きな咳をする。
「興奮して脱線してしまいました。すみません。」
「あ、うん。こちらこそ?」
脱線したっけ?
あれ? そもそも何の話してた?
「マスターが鷹司さんに流され過ぎという話から、マスターの弱点の話になり、そこから脱線が始まりましたので、その続きに戻りますね。」
「あ……そっか。お説教中だった。」
「お説教だなんて、そんなことないですよ?」
首をコテンと傾げ、困ったような顔をするセリフィア。
あざとい。これは絶対わざとだ。
だが良し。
美少女がやると、とても絵になる。
つい二度、三度と頷いてしまう。
「今、マスターの弱点と思われていたスマホもゲームも、もう弱点ではありません。
ですが敵が多いと判明した以上、防衛を考えないのは危険です。」
「あー、うん。確かにそれは大事だわ。」
HP0になっても復活アイテムがあるとはいえ、4~5回連続で殺されるような状況もあり得る。
「まず、防衛として『誰か一人は常に召喚しておく』ことを推奨します。
私もお側でお守りしますが……ヨウコ・カゲヌイなども控えさせると良いかと。」
「ヨウコ・カゲヌイ……」
脳内スマホ操作でゲーム画面を起動する。
それを見たセリフィアが拍手しているが、とりあえずキャラクター画面へ移動し、名前でソートをかける。
ヨウコ・カゲヌイ
ヨウコ・カゲヌイ パジャマバージョン
2種類がヒットしたので、ノーマルをタップしてみる。
ミニスカート忍者装束の黒髪ボブ。
どこか気怠そうな表情の少女が表示される。
「あ~……ニンジャか。」
「そうですね。忍者のヨウコさんです。」
否。
セリフィアよ。それは否である。
これは忍者ではない。
ニンジャである。
そう思いながら『編成』をタップしてみる。
すぐに俺の横に気配があり、目を向けると。
大口を開けて欠伸をしているヨウコの姿があった。
「……おあようごじゃいます。」
完全に寝ぼけている子の反応だった。




