第103話 セリフィアの推論
「おそらく、マスターの能力は――」
「……俺の能力は?」
セリフィアは、珍しく言い淀んでいた。
「……マスターの能力は『ゲームの具現化』ではありません。
どう言えばよいのでしょう……ダンジョンの力を使える人間――『超越者』。私はこれが能力ではないかと考えています。」
セリフィアから放たれた言葉が、俺の中に綺麗に落ちてこない。
ピンボールのように脳内でガンガン跳ね返りまくっている。
セリフィアの言葉が腑に落ちないという珍しい感覚を覚えながらも、なぜ腑に落ちないのか疑問に感じた点を口にしてみる。
「俺の能力が『ゲームの具現化じゃない』っていう点をハッキリ言っているけど……だとしたら、なぜ具現化できているんだろう?」
「はい。なぜこの結論に至ったのかご説明しますね。」
「あ、いつもながら助かる。」
教師と生徒役になるのは、なんだかもう定番な気がするな。
「これまでダンジョン内で見てきた人間も、私たちが『魔力』と言っているエネルギーを微量ながら持っている人がいました。ただ、彼らの魔力は体内で循環しているだけです。外部とは繋がりません。」
「ふむ。」
「ですが、マスターは違います。マスターの魔力は外部と繋がっているのです。
しかもその魔力構造は、ダンジョンの魔力構造と一致しています。」
「……えっ?」
俺、そんなことになってるの?
「魔力が空っぽだったマスターという『器』にダンジョンの魔力が流れ込んだ。
その結果、マスターはダンジョンのエネルギーを使えるようになった――イメージとしては……『置くだけで充電できる装置』が分かりやすいでしょうか?」
俺の動揺を無視して説明が続く。
「置くだけで充電できる装置がダンジョンとして、普通の人間の場合はダンジョンに入ってもダンジョンのエネルギーを受け取ることができません。
ですが、マスターはエネルギーを受け取ることができるようになった。
それがマスターの得た能力の本質です。」
「お、おう……」
なんか分かるような、分からないような説明だ。
「でも……ダンジョンのエネルギーを使えたとして、それが、なんでゲームの具現化に繋がるんだ?」
「ダンジョンのエネルギーを使えるようになったマスターは、現実外の法則に触れる存在になりました。
ですがそのエネルギーは『形がなく、ルールもなく、使い方も分からない』。
人間の脳では処理ができない『超越魔力』です。当然、持て余します。」
それは、持て余す自信しかないな。
こちとら普通のオッサンぞ?
「マスターは無意識のうちに、『毎日触っていて』『ルールを理解し』『キャラクターや性能を把握し』『概念を理解していた』ゲームの形式でダンジョンのエネルギーを具現化したのです。
持て余した超越魔力を扱う『器』として、最も慣れ親しんだスマホゲームという形式を採用した。」
……やべ。
なんかしっくりくる。
納得できてしまいそう。
「つまり、ゲームは能力の源ではなく、超越魔力を『理解できる形』に翻訳するためのシステムでしかないのです。」
「だから……通信がなくても起動したり、合体した魔石ゴーレムみたいな仕様にない存在が生まれるのか。」
「はい。『ダンジョンのエネルギーを使える』――『ダンジョンと同じようなことができる』。
それがマスターの能力だと思います。
人を超えた存在。ダンジョンという境界を越え、私たちを具現化させた存在。
だから『超越者』と考えました。」
「……セリフィアは、それで納得してるのか?」
思わず眉間に皺が寄る。
セリフィアはそんな俺を見て、ふっと微笑んだ。
「マスターは、いつでも私たちを気にしてくださるんですね。」
セリフィアの推論でいくと、セリフィアたちは『本来存在していない』『想像上の産物』という存在になる。
俺の能力が生み出しただけの、偶然の産物。
そんな立ち位置。
「納得もなにも、私たちは『今ここに存在している』。それが全てです。
こう、なんと言いますか……ただ、マスターが『お父さん』でもあると思うと……なんだか、こう……アレですが。」
あ。はい。
そっちは、まぁ、はい。
そうですね。
検証しちゃってるもんなぁ。
「んんっ、お父さんはやめとこうね。
俺はセリフィアの『マスター』の方が落ち着くわ。」
「オホン。そうですね。」
少し照れながら咳払いをするセリフィア。
落ち込んでいる様子もないので、ホっとした。
「と、まぁ。こういった理由から、マスターはスマホが無くても、ゲーム画面を具現化できるのではないかとも思っています。
鷹司さんが『スマホやゲームを弱点』と確信しているのは、むしろこちらの利点になるでしょう。」
「まぁ、俺がスマホを使わずにゲーム画面とか開けたら、セリフィアの推測に説得力が出てくることになるんだろうなぁ……試す価値はあるんだろうけど、どうやったら出来るんだろうなぁ。」
脳内でスマホを操作し、ゲームを起動するイメージをしてみる。
「あ。」
「ん?」
セリフィアの声に意識を向けると、
目の前にゲーム画面が開いていた。
「あ。」




