第10話 人の噂も七十五日……っていうよね
「うーん…………マズイよなぁ。」
色々と衝撃的なルミナパンチの後、全てを忘れ『わぁい♪ 美少女と遊べるぅ♪』と浜辺追いかけっこをしたり、まったり散歩したりキャッキャウフフを満喫した。
ルミナと色々話もできたし楽しかった。
そこまでは良かったけれど、その後『メシを食いに行こう』とダンジョン出た途端ルミナ、消えるんだもんな……
速攻でダンジョンに戻って画面から呼んでみたら問題なく再召喚できたけど、ルミナも「ダンジョンの外に出れません……」とションボリよ。
「ご主人様のお部屋に行ってみたいですわ……」って言われたから色んな考えが過ってテンションも上がって、しっかりプラン考えての、ご飯のお誘いをしたのに……一気に冷静にさせられたわ。悲しい。
でも、まぁ『俺に好意を持ってくれる美少女と会える』ってだけで、俺がダンジョンに行く理由には十分だ。
俺はこれまで以上にダンジョンに入り浸るぜ!
「って、違うわ。」
報道とかネット界隈で俺たちの情報が扱われてるのが問題だったんだ!
誰か知らんがネットにルミナがモンスターを瞬殺する動画を流したヤツがいるんだよな……
テレビの報道なんかは一般人だから一定の配慮……まぁリスク回避の為だろう配慮でボカされてるけど、ネットの動画だと俺個人の特定はできないにしても、ルミナが美少女ってことだけは遠目でもハッキリわかってしまう。
なにせルミナはゲームキャラクター『ルミナ・ノワール』だからな。
特筆に値するだけの特徴が盛りに盛られているし。またその特徴が濃い。
『漆黒のロングヘア。毛先にかけて淡い銀色』とか現実にいないだろ。しかも絶妙に綺麗にしか見えない色なんだぞ?
そして何より美少女。
そんな美少女がダンジョンなのに、なぜか扇情的な水着姿というオマケまで付いてる。
そんなキャラクターだけでも話題になるだろう人物に加えて、安心安全のはずの10級ダンジョンで、滅茶苦茶おっかないイレギュラーモンスター出現。
恐怖をまき散らすイレギュラーモンスターが現れた瞬間に、特徴ありすぎの美少女がワンパンで撃破するんだから話題にならないはずがない。
むしろこれで話題にならなかったら、そっちの方が面白いまであるレベル。
……イレギュラーモンスターなぁ。
どう考えても、このイレギュラーモンスター出現の原因は俺なんですよね。
ルミナに「デイリークエスト消化して~」のお願いで出てきたんだから、ほぼほぼ確実だろ……いやぁ、イレギュラーモンスター出現させちゃってすみません! ごめんなさいねぇ! ……なんて世間に言えねぇ。
『イレギュラーモンスター出現させられますよ』なんて能力の発信なんてデメリットしか思いつかんわ。
つまり、黙っとくしか選択肢はない!
ただイレギュラーモンスターが出たことで、『10級ダンジョンでも安全ではない』と公式見解が発表されることになり、中高生がダンジョンで部活動を出来なくなってしまったのは、本当に心苦しい。ごめんなさい。
いや、でも……だからと言って、ネットに動画を発信したヤツは中高生でも許さんぞ? 肖像権とか知らんのか? 俺は動画出演許可なんて出しとらんし、ルミナについても許可する気は毛頭ない!
ネットに流れている動画が、なぜかイレギュラーモンスターが出現するところから撮影されていたのは、どうせ絶世美少女ルミナの水着姿を盗撮でもしてただろうことは容易に想像できる。
「うん……痛み分けと言うことで!」
痛い思いをさせてしまった。
けれども俺も痛い思いをした。
トータルイーブン! ってなんねぇかなぁ……
「はぁ……こういう時は切り替えが大事だな。
今更どうにもならんことは、もうどうにもならん。」
頭を切り替え、これまでの事や既に起きてしまったことは一旦全て諦める。
そして、これからについて考える。
現状、事実として『10級ダンジョンでも危ない』という認識が生まれてしまった。
国の対応は相変わらず遅いので、今のところダンジョンに入る事に問題は起きていない。
現段階でダンジョンで部活動が行われていないのは、学校側が自粛しているだけであって、ルール的にはまだ部活動を行うことは可能な状態だ。
ただ10級ダンジョンが危険視されることで起こり得る問題として『素人』や『素人に毛が生えた程度の探索者』の入場制限・規制がかかってしまう可能性があるんじゃないだろうか?
イレギュラーが1件。
たった1件。
だけれど……それがよりにもよって『10級ダンジョン』更に『部活動ダンジョン』だったというのがマズイ。
子供関連の事件なんかは政治家の人気取りの標的にされて、規制がガンガン進められかねない。
『子供の未来の為』とか美辞麗句を飾りやすいからな……そういう言葉は政治家やマスコミが大好きだ。普段は気にもしないくせに。
仮に規制が入った場合『素人』にカテゴライズされる俺がダンジョンに入る事は難しくなってしまう。
――俺はダンジョンに入りたい。
いや、むしろ入るべきだ。
彼女たちを召喚できる俺は、召喚しない限り完全に素人。
だが、逆に召喚さえできてしまえば人知を超えた力で戦えるのだ。
前人未到のダンジョンだろうが、それは人間の力では前人未踏という話であって、彼女たちの力を使えば結果も違う。
更に俺はイレギュラーモンスターも呼び出せるのだ。
イレギュラーモンスターから未知の資源、高価値の魔石なども手に入れられる可能性がある。
だから俺はダンジョンに入るべきだ。
ということは『規制が入ったとしてもダンジョンに入れるようにする』為の行動が必要になる。
「免許取るか……」
日本において10級ダンジョンは無免許でも入れるが、その他の多くのダンジョンに入る場合、免許が必要となる。俗にいうダンジョン免許だ。
ダンジョンに入ることに免許が必要な理由は『国民の死亡リスクを減らす』というのが大きく、理解も得られやすい。
免許制にすることで国が探索者を把握・管理できるという側面もあるだろうけれど、それも、ある意味当然だ。優秀な探索者の確保は国力に関わってしまうのだから。
――このダンジョン免許は、いくつかの種類がある。
1級ダンジョンに入るには、D1免許。
2級ダンジョンに入るには、D2免許。
このD1とD2免許は、ほぼ国家資格みたいな感じだったと思う。
国を代表するような有名探索者が持ってるイメージだ。
3級ダンジョンに入るには、D3免許。
4~6級ダンジョンはD6免許。
7~9級ダンジョンはD9免許。
当然、免許の数字よりも大きい数字の級数ダンジョンは全て入れる。
「D9……いや、ここはもうD6免許あたりをとるか」
ダンジョンに入らないという選択肢がなく、無免許でダンジョンに入ることが難しくなる可能性がある以上、免許の取得は必要になるだろう。
スマホで免許取得の情報を探すとD9免許も、D6免許も筆記試験と実技試験に合格しなくてはならない。ただし、どちらの免許においても高校を卒業していれば面接が筆記試験の代わりになるらしい。
となると課題は実技試験になる……
「実技試験って召喚無しで……イケるかなぁ?」
実技試験と聞くと『モンスターを倒す』とか、そんな試験を想像してしまう。
格闘経験などがない俺が彼女たちの力なしでモンスターを倒すのはハードルが高い。
なにせ、俺はダメージスコアたった2桁の人間でしかないのだ。
気になったので『D6免許』『実技試験』のキーワードで検索してみると、すぐに試験内容と思われる内容が表示されたので目を通す。
「……あ~……ね。」
思わず溜息が漏れた。
25m走、障害物競争、持久力試験、模擬戦闘、緊急判断――そんな単語がツラツラと並んでいる。
戦うというよりも、アラフォーのオジサン的には、むしろ体力的な問題の方が大きそうだ……持久走とか苦手過ぎる。
日常的に運動を心がけているワケでもなく、週末に10級ダンジョンを冷やかすのが趣味のオジサンなんだ。自信のある項目など一つたりとも無い。
――だが、実技試験の内容的には『やる気』と『根性』で、どうにかなる内容とも思えないでもない。
なぜ、ハードルが低いであろうD9免許ではなく、より難しそうなD6免許の情報を集めて検討しているのかというと、6級ダンジョンに入れるようになると、ダンジョンだけで生計を立てる事が出来るといわれているからだ。
つまりD6免許を取りさえすれば、ダンジョン探索を専業にしたプロ探索者の道が開ける。
有り体にいえば会社勤めをしていない無職であっても、世間体が整うのだ。
つまり……分かり易くいうなれば、D6免許さえ取れれば、毎日ダンジョンに入れるということ!
もう仕事に行かずに毎日、美少女たちとキャッキャウフフしてても大丈夫っ! そういうことだ!
『D6免許取得=美少女たちと楽園で遊び放題』
こう認識すると努力する気持ち……そしてD6免許を絶対に取得してやるっ! そんなヤル気しか生まれてこない。
というか、もういっそのこと今から会社も辞めて試験に向けて毎日努力するべきなのでは?
それくらいした方が背水の陣で覚悟が決まって必死になって努力するかもしれない。
……そんで、まぁアレだ。
免許試験対策として大人しくトレーニングとかして、しばらくの間、表に出なけりゃ、その内ネットの話題も落ち着くだろ。うん。
彼女たちの強化とか愛情度とかはダンジョンに行かなくてもスマホがあればできるからな……
よし! 免許の取得を目指す! これしかないな!
俺の意思は固まった!
…………だけど、一応?
見落としとか怖いし。別の意見がないか、ナベ辺りに相談してみるかな。




