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風味織(ふうみおり)~焦げついた執念は、世界を香らせる~  作者: 乾為天女


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第16話_道に迷って、焦げパスタ

 2025年11月6日、イタリア・パルマ郊外。

  授賞式の翌朝、チーム〈風味織〉は次の研修先であるフィレンツェへ向かうため、レンタカーで南下していた。

 「このまま高速A1で行けば昼前には着けるって……ナビ通りじゃなきゃダメか?」

  運転を任された祐輝がぼやきながら、地図とナビを交互に見比べている。

 「え、ちょっと道違う? えっ……森入ってる?」

 「森というか丘というか……完全にローカルルートだろ、これ」

  車はいつの間にか細い農道に入り、周囲はオリーブ畑と林ばかりになっていた。

 「まさかの“未舗装ルート”? ナビさん、どうしてそっち選んだの……」

  裕美が苦笑しながらタブレットを見つめる。

 「ま、たまには“迷う旅”も悪くないよ。ピンチはスパイス、ってな!」

  オスカーが明るく言ったその直後――

  車が止まった。

  原因はパンク。

  近くに修理できそうな店もない。バスも通らない。

  ――そうして、11時。

  全員、畑の石垣に腰掛け、しばしの“空腹と焦燥”タイムに突入した。

  健斗が静かに立ち上がった。

 「よし、何か作ろう」

 「えっ、ここで?」

 「焦げついた時間を“料理に変える”チャンスだ」

  視線の先には、農道脇の廃屋になったような石造りの小屋。そして、その横に、まさかの“石窯”。

 「嘘だろ……まだ使える……?」

  丈が窯をのぞき込み、煙突を叩く。

 「煙道は生きてる。……火、入れてみるか」

  そうして始まったのは、迷いの中の“即席昼食”。



 オリーブ畑の傍、小さな石窯。そこに落ちていた枯れ枝と、車内に残っていた携帯用スパイスと保存食材――。

 「インスタントだけど、ペンネとトマトソースある! あと、昨日のチーズの切れ端も!」

 「ピクルスもある。酸味のアクセントにはなるぞ」

 「この石窯、温度管理はきついけど、火力は申し分なしだ」

  健斗が炎を睨みながら、鉄鍋の上でソースを煮詰めていく。

  ――そして、問題は起きた。

  ペンネの茹で加減に注意を払っていたはずの祐輝が、薪のくべ方を誤って火力を上げすぎたのだ。

 「やべっ! 下、焦げたかも!」

  鍋底からわずかに漂う、焦げたトマトの匂い。

  全員が顔をしかめた。

 「もう……だめ?」

  裕美が小さな声で問う。

  健斗は、黙ってソースをかき混ぜ、味見をした。

  ――そして、ふっと笑った。

 「この焦げ、“迷いの味”って感じがするな」

 「え、それってポジティブなの?」

 「試す価値はある。“焦げ”って、火との対話でしか得られない味だろ?」

  そう言って、彼は焦げの部分も含めてペンネと和えた。

  最後に少量の水を足し、チーズとピクルスの酸味で“焦げの角”を取る。

 「迷って、焦げて、でも、最後に笑える味」

  即席で作り上げたその皿は――

 【“迷いのパスタ・アル・フォルノ”】

  皿の縁には焦げの香り、中心には甘酸っぱいトマトソース、そして底には濃密な旨味の層。

 「うまい……! ほんとに“焦げ”がいい仕事してる」

 「過ちを隠さないって、むしろ味になるんだね」

  そう言った里実の顔は、ほんのり赤くなっていた。

  夕方、近所の住人が通りかかり、工具とスペアタイヤを提供してくれた。

  別れ際に、老婦人がこう言った。

 「料理を作れる人は、どこでも帰れる場所を作れるのね」

  その言葉に、誰かが静かに頷いた。

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