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第7話:誰かの中の『わたし』

 

「おはよう。」と加奈ちゃんが私を見つけて駆け寄ってきた。


 私もちょっと元気を出して、

「おはよう」って言ってみた。


 加奈ちゃんはすぐに笑顔を返してくれた。

 ちょっと、ほっとした。


「国語の『魂の一首』に挑戦してみた?

 私、全然ダメ。

 そんなの、思いつかないよ。」


「私は、ちょっと頑張ったかな。」


「へぇ~、ちょっと教えて?」


 加奈ちゃんと蓮君がモデルだから、恥ずかしくて言えないよ


「それはその……まぁ、お楽しみというか?

 ドッキリというか?」


「え~、何よそれ。

 そうだ、くまちゃんに聞いてみよう。」


「なにそれ、反則。」


「ふっふー、元主人の特権よ。

 ねぇくまちゃん、陽菜ちゃんが書いた短歌、教えて?」


「音声認識の結果、本人ではないと判断しました。

 プライバシー保護に抵触します。

 本人の情報は第三者に提供することはできません。」


 それを聞いた加奈ちゃんは、少しがっかりしていたけど、ちょっと自慢気に、


「やっぱり『うちの子』は優秀だね。」


「え? 今は『私のうちの子』だよね。」


「……そうだった。」


「加奈ちゃん、卒業、おめでとう。」


「……それ、今言う? くまちゃん。」


「あはは、だよね。」


 気が付けば二人で笑っていた。

 友達とこうして笑い合えるのは、久しぶりだった。


「それで? 今日はどうするの?」


「また一緒に回ろうか。」


「うん、そうだね。」


 加奈ちゃんがくまちゃんを持ち上げて、


「姫様、勉学も大切ですじゃ。」


「加奈ちゃん、その通りです。」


 くまちゃんまで一緒に参加しているから、おかしくて。


「だからぁ、それ何キャラよ。」



 授業が始まる前には、


「くまちゃん、おやすみなさい。またね。」


 こうしてくまちゃんには、お昼寝してもらう。

 授業中におしゃべりして、びっくりしないように。



 国語の授業が始まった。


「さて、魂の一首は、なかなか力作が揃いましたよ。」


 先生がそう言って、スクリーンにいくつかの短歌が映し出した。


「うーん、いいね。

 けど、みんなに読んでもらうには、自分だけがわかっている言葉から、みんながわかる言葉に変えていかないとならないんだよ。」


 そうして、みんなの作品を読んでいった。

 作者の名前が出ているもの、ペンネームで笑いをとる子もいた。


「次は、『改心した勇者』の作品」


 われ思う 正義の果ての 成敗は 敵から見れば 狂気の沙汰か


「うん、いいね。

 ちゃんと客観視できてるね。

 ただやっつけるだけのRPGに、シナリオつけたくなるってやつだね。

 レベル上げのモンスター成敗に飽きてきたプレイヤーの嘆きかな?

 ゲームバランスが悪いと、こうなるよね。」


 先生、ゲームにはまっていたんだ。


「それでは、先生の一押しの一首。

『とく名』さんの作品。」


 誰にもわからない世界 ただ一人

 幼馴染は 僕の手を取る


「もうね、最初の『誰にもわからない世界』って、

 五・七をつなげて、独特の世界観出しているでしょ?

 その後の改行ね。

 これ、見せに来ているから。

 で、その後、『幼馴染』に特別感があるんだよ。

 最後、孤独から救われるんだね。

 いや、やられた。」


 私は自分の作品をそんな風に言われて、恥ずかしかった。

 けど、ちゃんと伝わったことがうれしかった。


「まぁ、『とく名』さんを知っている人なら、これが誰のストーリーなのか、わかるんじゃないのかな。」


 これを聞いた加奈ちゃんが、顔を真っ赤にしていた。

 それからこっちを見ていたので、頑張れって、ガッツポーズしてあげた。


「まあ、アイツは国語が苦手だから、この教室に来ていないでしょ?」


「ふふっ、わかんないよ。動画見ていたりして。

 だって加奈ちゃん、蓮君に白井先生の授業の動画見るようにって。」


「あ。」


 ますます加奈ちゃんが、真っ赤になった。

 わかりやすくて、可愛いよ、加奈ちゃん。



 お昼休みに、加奈ちゃんと蓮君のところに行った。

 この前『とく名』の女の子が、私だって、言えてなかった。

 蓮君に、急に泣き出したことを謝ろうと思った。

 それで、加奈ちゃんについて来てもらうことにした。


「蓮君、またここでボッチ飯?」


「ボッチ言うな。孤高の天才と呼べ。」


「はいはい、またわけのわからないことを。」


 いつもの二人?なのかな。

 蓮君の声が、ちょっとだけ、上ずっていた。


「あのね、蓮君。

 言いたいことがあるんだけど、いいかな。」


「この前蓮君、この子泣かせたでしょ。」 


「加奈ちゃん違うの……その、びっくりしたというか、感激したというか……。」


「な、俺様の天才的な感性に触れたんだ。」


「ちょっと黙って待っていなさい。

 陽菜ちゃん頑張って言葉にしようとしてるんだから。」


「あのね、『とく名』って、私なの。」


「え?」


 二人の間の空気が、ちょっと固まった。

 でも、


「そっか、君がそうなんだな。

 あのあと投稿、なくなったろ。

 ……心配してたんだよ。

 家出したいとか、一人になりたいとか書いていた。

 その後、死にたい……だったから。

 あの子、もういないんじゃないかって、思ってた……。」


「私は、その時に、死んだんだよ。」


「ええ? まさかの幽霊?」


「違うの、心がね。

 でも、蓮君が曲を作ってくれたってわかって……。

 それに、加奈ちゃんが仲良くしてくれて、

 くまちゃんがいてくれた。

 もうちょっとだけ、

 頑張ってもいいかなって、思ったよ。」


「僕はそのまま、ラウド系のデス系の歌詞を書くのかと思った。」


「こらぁ、ここ感動するところ。」


 加奈ちゃんは私のことを、ギュってしてくれた。


「そうなると、白井先生の授業に出て来た『とく名』さんも、桜井さんだな。」


 加奈ちゃんがまた、真っ赤になってうつむいた。

 それを見た蓮君も、ちょっと恥ずかしそうに、でもこう言ったの。


「感謝してるぜ、相棒。」


「だから、それ何キャラよ。」


 二人とも、声を上げて笑った。

 もちろん私も、楽しく、温かく友達と話せた。


 こんな日が来るなんて……。

 私は自分でも、びっくりしていた。

 今日のことは一生忘れられない思い出になった。


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