第26話:しあわせの「かたち」
「さて、勇者パーティ。いい加減名前を付けたらどうだ?
これは君たちの初MVになるんだから。」
「そうだな。
勇者パーティ『暁』はどうだ?」
「まったく、どこのファンタジーアニメよ。
ちゃんと私達らしいのを、考えるのよ。」
私達らしい……桜花スクールチーム
「それなら、勇者パーティ『桜花』はどう?」
「ちょっと陽菜ちゃんまで……本当に、それでいいの?」
「うん、そうしよう。」
「それじゃ、ユニット名は勇者パーティ『桜花』でいいな。
本番3回の後も、『頑張り屋のママへ』を歌ってくれってさ。
ちゃんと自分たちのユニット名と曲名を紹介しろよ。」
「え?」
「スポンサーからの、リクエストだ。
お前たち、こういうイベント、増えるかもな。
ママたちだけじゃなくて、スポンサーの心もがっちりだ。
ついでに財布も掴んどけよ。」
それから、私達は、子どもたちのイベントを進めていった。
朝一番に緊張する場面があって、みんなで乗り越えて……。
それがあったから、本番の緊張がちょっとほぐれた。
加奈ちゃんの声も、今野さんの演技も、みんなのびのびして、楽しそうだった。
蓮君も音響のスタッフさんに、いろいろ教えてもらえて、うれしそうだった。
子供たちの反応も、まずまずだった。
茶娘まっちゃんの子どもたちへの声掛け、
『みんなも暑い日にお外で遊ぶときには帽子をかぶってね。』
これにはかわいい声で、「はーい」とお返事があった。
相変わらずCMソングは大人気。
イベントならではのサビを聞いた子供たち、
♪ 甘くて でもほろ苦い まるで 恋してるみたいね
そこはきょとんとしていたけど、すぐにチャチャチャのリズムにノリノリだった。
今野さんの動きに合わせて、子どもたちもすぐに引き込まれた。
さすがです、今野さん。
今日も『茶娘まっちゃん』、かわいいです。
それぞれのステージの後は、ママたちからの応援メッセージとか、差し入れとか……本当に人気者になった気分だった。
抹茶塩アイス、とってもおいしかった。
もちろん、今野さんにも食べてもらった。
だって『中の人』って、大変だから。
私のお母さんたちは、ステージが終わると、帰りの時間まで、お茶会をしていた。でも、蓮君のお母さんだけ、3時のステージまで見て、飛行機で帰るそうだ。
「加奈ちゃん、陽菜ちゃん。
この子をここまで連れてきてくれて、ありがとうね。」
「蓮君も、頑張っていました。」
「そうだよおばちゃん、蓮だって、頑張ったんだよ。」
「この子、ボッチって言っていたでしょう?
誰もこの子の持つ力を信じていなかったの。
でもね、加奈ちゃんと陽菜ちゃんが、こうして仲間として信じてくれたから、この子も頑張れたんだと思うの。」
「それは……私も同じです。」
「『頑張り屋のママへ』、すごく素敵だったわよ。
きっと三人が力を合わせて作ってくれたんだって、思ったわ。
これからも、この子をお願いね。」
そう言って蓮君をギュって抱きしめた。
「なんだよ、いきなり……。」
そう言いながら、蓮君もうれしそうに目を閉じていた。
「勇者蓮、そう名乗ったからには、勇者でいなさいね。
あなたにはもう、仲間がいるのですから……。」
そう言って蓮君のお母さんたちは、一足先に帰った。
イベントが終わって、片づけをしていた。
私たちも少し手伝った。
「お疲れさまでした。」
ディレクターK氏は、
「『頑張り屋のママへ』、ちゃんと届いたな。
舞台も安心して見られたぞ。
どうだ、お前らこのままプロになったらどうだ?」
「いえ、僕たちは、まだまだです。」
「そうか、勇者パーティ『桜花』よ。
また、次のステージで会おう。」
そう言って、帰っていった。
その日の夜は、お父さんが迎えに来て、そのままご飯を食べてから家に帰ることになった。
「陽菜は、久しぶりだよね。
デパートのレストランで食事をするのは。」
「本当にそうね。
まだ陽菜が小さいときに、お子様ランチを食べていたわよね。」
「そうそう、そのあとプリンアラモードも食べるって、聞かなくて、お父さんが半分食べたんだよ……。」
「幸せだったわよね……。」
「今も、これからもだよ。お母さん。」
私はもう、忘れてしまっているけど、確かに幸せに育った思い出は、二人の間にあった。
「そうよね。」
お母さんが笑っていた。
お父さんも笑っていた。
わたしもいっしょに笑ったの。
ねぇくまちゃん。
しあわせに「かたち」があるなら、こういうのをいうのかな。




