表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/29

第24話:チームの「ちから」

 

 今日の午後は、自習の申請をした。

 音楽室で、8月上旬のデパートイベントの打ち合わせと、私の書いた『頑張り屋のママへ』の仕上げのためだった。

 今日は精霊の召喚もある。

(これ、絶対怒られるやつ。でも先生嬉しそう。)


「歌詞もらったよ、陽菜ちゃん。

 私もう、お母さんと一緒に泣いてた。」


「賢者ヒナよ、よくやった。」


 いきなり、そのノリなのね。


 迫先生が、蓮君の曲の仕上がりを、首を長くして待っていたって。

 でもその前に、バッキングパート、誰が歌うの?


「陽菜ちゃん、一緒に歌わない?」


 え? ムリムリ!

 今まで音楽の授業は、歌えなくて成績が悪かったの。


「大丈夫、私と一緒だから。」


「あのね、楽譜とか、読めないの。」


「それは大した問題ではない。

 何回か練習すれば、加奈の歌とひとつになる、気持ちのいい歌い方が出来るようになる。

 本来歌とは、そういうものだ。」


 もう、蓮君まで。


「それに、毎回というわけではない。

 賢者ヒナの歌声を、この機械に取り込んで、伴奏の一部にする。

 カラオケにあらかじめ、歌声が入る仕組みだ。」


「それならね、安心でしょ?」


 何が?


「曲の一部、ほんの8小節の出番だ。

 それにひなの声は、高くて……その、きれいなオレンジ色で、魅力的だ。」


 ここまで待たされていた迫先生まで動き出した。


「それじゃ、歌唱指導はこっちでやっておくよ。」


 もう、観念するしかなかった。


 それから私は、迫先生の指導の下、バッキングパートの練習をした。


 人前で歌うの、恥ずかしい……。


「そんなに緊張しなくてもいいよ。

 歌で語り掛ける……そんなつもりでいいからね。」


「はい……。」


 ちょっと音程が高めだけど、無理のない音域だった。

 蓮君、いつの間に私の声のこと、考えていたんだろうか?


「はい、それじゃ合わせます。

 陽菜ちゃんは、このマイクを通して歌ってね。」


 蓮君のピアノ、加奈ちゃんの歌が溶け合って、優しい世界を作っていく。

 私もそこにそっと寄り添うように歌った。


 気持ちいい。


 ハーモニーって気持ちいいんだね。


「すごいよ陽菜ちゃん。私と息ぴったり。」


「聞いていて、すごく自然だった。

 こっち側に、来るかい?」


 あ、それは遠慮しておきます。


「それじゃ、カラオケはできた。

 加奈、行ける?

 デモ音源、作るよ。」


 加奈ちゃんと蓮君が息ぴったりの演奏をしていた。

 最後に私のバッキングがちゃんと入っていた。


「ああ、こういう風に聞こえるんだ。」


 加奈ちゃんの声と、私の声が溶け合っていた。

 蓮君の伴奏、新しいアレンジ、あの後修正したんだね。


 曲のデータはすぐに『スタジオJet』に送られた。

 ここからはプロが音源に仕上げるんだって。


「わかっていると思うが、ライブでやるときにはカラオケは使えない。

 その時はまた、歌を披露してもらうから。」


 どうかその日が、来ませんように。



「それじゃ、寸劇の打ち合わせしようか。」


「ねぇ、君たち。

 それなら白井先生も『精霊召喚』してあげてよ。

 彼、ものすごく楽しみにしていたからさ。

 出来上がったら、校長先生も見たいって言っていたよ。」


「え? そうなんですか?」


「だって君、CC:精霊にしちゃったでしょう?

 あれ、校長先生が作ったグループなんだよ。

 だから、職員はみんなこのことを知っているんだよ。

 英語の先生チームなんかね、視聴覚室で流すって。」


「……『精霊』作ったの、校長先生だったんですか?」


「ほら、そうすれば生徒たちが、気軽にメッセージをくれるだろう?

 人に言えない悩みも、精霊になら、ね。」


 蓮君がふざけて、


「『精霊召喚』、白井先生……。」


 迫先生、電話で白井先生を呼んでいた。


「桜井さん、台本読ませていただきました。

 私からのアドバイスはね、せっかくお菓子屋さんとのコラボなんだから、ちょっと役に立つネタがないかと思いましてね。」


 白井先生は、私が書いた台本を印刷して持っていた。

 しかも……赤ペン入れてある……。


「熱中症対策やるなら、塩分補給も入れて欲しいかな。

 この時期、そういうスイーツやお菓子、飴なんかも売れるでしょう?」


 あ、ディレクターさんも言ってた。

 スポンサーさんへの気遣いも大事ね。


「あ、ちょっと待って。

 今書き加えるから。」


「ディレクターK氏には、もうこれで大筋は了解をもらっている。

 相変わらず『ぶっ飛んで』いるってさ。

 さて、勇者パーティのお出ましだ。」



 『寸劇:夏の日の過ごし方。』


 茶娘まっちゃん(CV:魔導士カナ/演技:今野誠二)

 脚本:賢者ヒナ/音楽:勇者蓮 


タイトルコール(ヒナ):

     茶娘まっちゃんの小さなお話、始まるよ


 SE:ティンバレス・フィルイン

 BGM:チャチャチャのループ


茶娘まっちゃん:

     みんな~、元気かな?

     今日はね、暑い日の過ごし方のお話をするよ。


     まっちゃんはね、日焼けが大嫌い

     だからね、こうして笠をかぶっているんだよ


 SE:ホイッスル

 (まっちゃん、くるっと回って、菅笠を見せる)


茶娘まっちゃん:

     まっちゃんが生まれたところではね。

     お茶の葉っぱに日が当たらないように

     大きな大きな、日陰を作っているんだよ。

     おいしい抹茶が、できますようにって。


 SE:ティンバレス・フィルイン

 (まっちゃん、ちょっとダンス)


茶娘まっちゃん:

     みんなも暑い日にお外で遊ぶときには

     帽子をかぶってね。


     でないと、頭がくらくらしちゃうからね。

     約束だよ?


 SE:ホイッスル+ティンバレス

 BGM:『まっちゃのチャチャチャ(夏Ver.)』


♪ まっちゃ まっちゃ まっちゃ チャチャチャ

  まっちゃ まっちゃ チャチャチャ


1.茶娘まっちゃん さわやかに

  しおあじ ちょっぴり 届けます


  まっちゃに お塩を 一つまみ

  おいしいお菓子を 召し上がれ


  まっちゃ まっちゃ まっちゃ チャチャチャ

  まっちゃ まっちゃ チャチャチャ



「その、抹茶とお塩って、ホントにあるの?」


「ほら、天ぷらについてくるでしょう?

 あれ、上手く使えないかなって。」


「おいおい、商品開発までするのかい、君たちは。」


 ソフトクリームに抹茶塩、ありかも……。


「それも含めて送っておくよ。

 そうしたら、子どもコーナーの後ろに、試食できるようになったりして。」


 ふふっ、それ、できすぎだよ。

 でも、このチームで力を合わせれば、何でもできる気がしてきた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ