第23話:再び舞台へ
いつもの音楽室、ディレクターK氏からのメッセージを蓮君が読み上げた。
「8月の上旬に、東京のデパートで商品の紹介と子供向けのイベントをやるようだ。
なんでもあの寸劇が人気で、一つ作っておいてくれってさ。」
お次は脚本ね。でも、
「うーん、子供向けかぁ。どうしようかなぁ。」
「まぁ、陽菜ちゃんなら、大丈夫。
楽しいお話を書いてよ。」
「ふっ、民は我らの力を欲しておる。」
蓮君、急に話に入ったと思えば、それ、何キャラなのよ。
「またあのCMの曲とのコラボでもいいし、全く別の話でもいい。
まっちゃんらしさが出ればいいんじゃないか?」
「まっちゃんらしさかぁ……。
まさにそれを作っているのが、私達なんだよなぁ……。」
「ところで、今回は、商品の紹介とか、あるの?」
「そうそう『夏のギフト』だそうだ。」
「……水ようかんとか?アイスとかかな?」
蓮君も、陽菜ちゃんも、具体的にはよくわからないって。
「それじゃ、ネットで注文な。届いたら、みんなで作戦会議だ。」
「うん。」
仕方がないので、私達は『夏のギフト』について調べた。
「ここは、ほら、彼の出番でしょう。」
「あ、くまちゃんね。」
加奈ちゃんが嬉しそうに話した。
もともとは加奈ちゃんの話し相手だったから。
くまちゃんの胸元のライトが、ゆっくり点滅した。
「加奈ちゃん、陽菜ちゃん、こんにちは。
今日はなにをお手伝いしますか?」
「くまちゃん、抹茶を使った夏のギフトって、何かな?」
「そうだね、クッキーやラングドシャ、フィナンシェなんかが人気だね。」
「あ、焼き菓子だった。」
「手土産にするから、軽いものが良くて、あんまり大きくない8枚から12枚入りがよく売れているね。」
「そっかぁ、この時期のイベントだから、そういうのがいいのね。」
「焼き菓子は日持ちするし、一個ずつ詰められているから、食べやすいよね。
ほら、お土産をあげる相手も、そんなに人数多くないでしょ?」
「先にお土産を買ってから、帰省する人向けなんだ。」
デパートには夏休みだから、子どもを連れたお母さんが多い。
ゆっくり選んでもらうために、子供向けイベントをやるんだね。
「うーん、物を売るって、こんなことまで考えるの?」
小さい頃、デパートに家族で行った時に見たイベントは、こうして考えられていたんだね。
家に帰ってからも、私は脚本づくりに悩んでいた。
何かいいアイディアは……。
「ねえくまちゃん、抹茶って、どうやって作るの?」
「抹茶用の茶葉は、普通のお茶と違って、日陰で育てます。
お茶の畑に、覆いをかけて、日の光が当たらないようにしています。」
「それはどうして?」
「日に当たると、うまみ成分のほかに、渋みや苦みの成分もできてしまうからです。」
そっか。
まっちゃんは日の光が苦手。
だからまっちゃんは、色白なのかな?
色白美人は、ちゃんと日焼け対策。
ん? それって帽子? なんか茶娘かぶってた!
「夏は帽子をかぶりましょう」
そのあとくまちゃんが、日本の歌「茶つみ」を教えてくれた。
「夏も近づく 八十八夜
野にも山にも 若葉が茂る
あれに見えるは 茶摘みじゃないか
あかねだすきに すげのかさ」
おお、すげのかさ
茶娘まっちゃん(CVカナ)
みんな~、元気かな?
今日はね、暑い日の過ごし方のお話をするよ。
まっちゃんはね、日差しが大の苦手
だからね、こうして笠をかぶっているんだよ
まっちゃんが生まれたところではね。
お茶の葉っぱに日が当たらないように
大きな大きな、日陰を作っているんだよ。
おいしい抹茶が、できますようにって。
みんなも暑い日にお外で遊ぶときには
帽子をかぶってね。
頭がくらくらしちゃうからね。
約束だよ?
今回は、子どもたちに語り掛けるようにゆっくりと話をしてもらおう。
なんか加奈ちゃんが、歌のお姉さんになったみたいだ。
茶娘まっちゃんのテーマも、最後のところを、
「おいしいお菓子を 召し上がれ」
こう変えてもらおう。
加奈ちゃん、蓮君、ここから先は、頼んだよ。
お父さんが帰ってきた。
最近のお父さんは、帰りが早くなった。
「陽菜、いるか?
今大丈夫なら、ちょっと降りてきてくれ。」
リビングでは、お父さんが待ち構えていた。
抹茶の焼き菓子とともに。
「もう、お父さんってば、またこんなに買ってきて。」
確かに昨日私が頼んだものだ。
クッキーやラングドシャ、フィナンシェを食べてみたいって言ったけど、もう商品紹介じゃなくなっちゃったし。
「どうだい陽菜、役に立ちそうか?」
うっ、商品紹介から、熱中症対策に変わったって、言えなかった。
「ありがとう、楽しみにしていたんだよ。」
ここはホントだから、セーフ。
「お父さん、紙袋いっぱいにお菓子を買ってきて……。
ホント、娘には甘いんだから。」
「いいじゃないか……今までできなかったんだから。
デパートの地下を、ぐるっと一周廻って来たんだ。」
「……まぁ、いいわ。
一緒にいただきましょうか。
焼き菓子は、長持ちするからね。」
お母さんがちょっと呆れていた。
おねだりしたの、焼き菓子でよかった。




