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第22話:想いを、かさねる

 

「迫先生を精霊召喚していい?」


 そう言って蓮君が音楽室の教材室にいる先生に声をかけた。


「珍しいな、蓮君が僕に声をかけるなんて。

 どうしたんだい?」


「これ、桜井さんの詩に曲を付けるんだけど……。

 聞いてもらっていいですか?」


 蓮君は、私の曲をピアノで弾いて見せた。


「まぁ、いい曲にはなっているけど、歌詞が強いからね。

 伴奏にはこれくらい静かでもいいけど、曲全体の印象が物足りないね。」


 蓮君は、ただ黙って聞いていた。


「それじゃ、僕からアドバイスを二つ。

 一つは、曲に盛り上がりを付ける。

 この曲は、語り掛けるバラードになっているね。

 最初から最後まで、静かできれいなんだよ。

 でも、歌詞はいじりたくない。

 そんな時は……。」


 そう言って先生もピアノを弾き始めた。

 蓮君は席について、メモを取っていた。


 先生は1番と2番の間に、ちょっと元気な間奏を入れた。


「ここは蓮君の腕の見せ所だろう?

 一度盛り上げて、静かに着地して、2番に入る。」


 だいぶ曲の感じが変わった。


「それで、ラスト。

 2回目の、『わたし 飛べるから』

 ここは前と音階もリズムも踏襲しないで、歌い上げる。

 ここは加奈さんの歌唱力を信じよう。

 彼女ののびやかな声を生かすなら、こうだね。」


 迫先生は、歌の最後の部分をちょっと変えて、高い声がのびやかに響くメロディにした。


「どうだい、だいぶカッコよくなったろう?

 とはいえ、よくここまで作ったね。

 いい出来だと思うよ。」


「はい、ありがとうございます。

 参考にさせていただきます。」


 蓮君が先生にお礼を言った。

 丸々意見をもらうのかと思いきや、『参考にする』って。


「それじゃ僕も蓮君と桜井さんを信じて、プラスワンの提案をしよう。」


「先生、まだあるんですか?」


「まあ、これは作り込みというか、好みでもあるんだけど。

 蓮君、この前の授業を覚えているかい?Sus4の話。」


「はい、お祈りの和音ですね。」


「この曲のエンディング、ラスト2小節に入れてみてよ。

 祈るようなメッセージのこの曲にいいんじゃないかな。

 それをバックに、ピアノの階段アルペジオ、最後に高音の和音。

 こんな風にね。」


 迫先生は、今の説明を実演して見せた。

 これには加奈ちゃんがすぐに反応して、


「教会でお祈りしてるみたい。

 かっこいい。」


 蓮君はちょっとそれが面白くなかったみたい。

 でも加奈ちゃんの蓮君への「できるよね?」という無言の圧がすごかった。

 蓮君は加奈ちゃんに、ガッツポーズをして見せた。


「では、賢者ヒナさんにお願いです。

 この曲は、サビが最後に2回続きます。

 歌詞としてはそうしたいのだけれども、音楽的には、平坦で終わってしまう。

 そんな時に効果的なのが、これ。」


 迫先生は、サビの部分に高音の別のメロディを口ずさんでいた。


「オペラやミュージカルでたまにやる手法なんだけどね。

 ちょっと難易度高いんだよ。

 蓮君、それでもやってみるかい?」


 先生、明らかに勇者を挑発していた。

 蓮君は黙ってうなずいた。


「サビの部分に、別の意図を持った歌を重ねるんだよ。

 賢者ヒナ、この曲は誰に届けたい、聞いてもらいたい?」


 この場合は……ママからの返事。


「ママたちみんなです。」


「それじゃ、この曲を聞いた、ママたちの声を頼むよ。」


「え? 曲に入れるのですか?」


「もちろん、旋律に重ねて、ハーモニーを作るのさ。

 オブリガートって言うんだ。」


 私にはこの提案のイメージがわかなかった。

 でも、やることはわかった。

 きっとママたちは、この曲を聞いて『ありがとう』って言いたくなるに違いない。


「蓮君、君は独りじゃないよ。

 だから仲間の力を信じるんだ。

 君らしい曲を、頼むよ。」


 そういうと、迫先生は光の彼方(音楽教材室)へ帰っていった。


 蓮君は大きなため息をついた。


「なんかいろいろ気を使っちゃって、損した。

 結局、こうして立ち直るんだから。」


 加奈ちゃんには、わかっていたみたい。

 蓮君が不安だったことを。


 さて、私も頑張らないと。



「ねぇお母さん、これ読んでみてよ。」


「なぁに、いきなり。」


「ね、いいから、早く。」


 家に帰ってから、私は夕食の支度していたお母さんを呼び止めた。

 早速、私の書いた『頑張り屋のママへ』を読んでもらった。


「もう、お母さんを泣かせて、どうするのよ。」


「実はね、ママたちからの、お返事を歌詞に込めたいんだよ。」


「それじゃ、お母さんにはちょっと難しいかな。

 だってこのお話の『当事者』なんだから。」


 そうだった。


「でもね、陽菜がこうして、優しくしてくれるの、本当に嬉しいよ。

 ようやく幸せな日々が来たって感じかな。

 ちゃんと『愛してる』って言えたから。」


「うん、そうだね。

 私も幸せだよ。」


 お母さんは、ちょっと涙もろくなった。

 いいよ、お母さん。

 今まで泣けなかったんだから。


「子育てって、大変なんだよね。」


「そうよ、でも、同じくらい、幸せかな。

 私達はね、ママになっていくんだよ。

 いろんなことがあって、おどおどしながら。

 それでもこの命を守りたいって思うんだよ。

 そのためなら、すべてを捧げてもいいってくらいにね。」


 私にはまだ、よくわからなかった。


「あなたもいつかきっと、ママになる日が来るわ。

 その時に、ちょっとだけ、思い出してほしいの。

 ちゃんと愛されていたってね。」


 なんだろう、胸の奥が、温かくなった。

 私まで、お母さんの泣き虫が、うつったみたい。


「ほら、泣いてないで、お仕事があるんでしょう。

 子供たちが待っているわよ。

『賢者ヒナ』のお話をね。」


「もう、お母さんまで、そう言うのね。」


 私は部屋に戻って迫先生からの挑戦に取り組んだ。

 この曲を聞いたママは、どう思うのか。

 お母さんの言葉を、一つ一つ振り返ってみる。


 重ねるところは、ここ。

 繰り返しのサビ、8小節。


 寄り添うように、言葉を重ねていく。



※ 頑張り屋のママへ 大好きって言わせて

  あなたの涙に やっと気づけたから

  いままでありがとう いつまでも そばにいて

  きっと 大丈夫 わたし 歩けるよ


※バッキングパート

  あなたも いつかは ママになる

  すべてを 捧げても 愛を 守りたい

  ありがとう しあわせな 日々を

  きっと 大丈夫 あなたなら 飛べるよ


 ふぅ、これでどうかな?


 タイトル:バッキングパートの歌詞

 To:加奈ちゃん、蓮君

 CC:精霊(←ごめんなさい)


 誰よ、先生たちのグループに精霊なんて名前つけたの。



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