第17話:それ、本番だった!
ディレクターK氏の声が聞こえた。
「みんなお疲れ、会場あったまったから、そのまま行くよ。」
「え? なになに?」
私と加奈ちゃんは、ちょっと混乱していた。
でも蓮君は、満足そうに、ニコニコ笑っていた。
「MC、アドリブで頼む。
今の流れを消すなよ。」
「はい、ただいま即興劇を披露してくださったのが、今回のコンテスト、最優秀賞の受賞者、『桜花スクール』の皆さんです。」
会場から拍手と歓声が沸いた。
受賞者というよりも、さっきの寸劇に対して、拍手が多かったのかな。
ADさんが席に着くように促した。
「それではただいまより、京都工業茶製造協会主催、『茶娘まっちゃん』イメージソングコンテスト、表彰式を行います。」
会場から拍手が沸いた。
でも、さっきよりは落ち着いた雰囲気だった。
「最優秀賞は、『桜花スクールチーム』の皆さんです。」
「……よかった。普通に紹介されたよ。」
加奈ちゃんが小声でほっとしていた。
協会長さんが紹介され、私達三人の前に立った。
私たちも立ち上がり、礼をした。
「ほう、打ち合わせなしで、『動ける』か。」
「表彰状、『桜花スクールチーム』殿。
あなた方の制作した作品は、非常に優れており、本コンテストの趣旨に基づいたものであると評されました。
よってここに栄誉をたたえ、これを表彰いたします。
令和7年7月11日
京都工業茶製造協会 会長 荻原仁」
「京都工業茶製造協会、会長より、表彰状の授与でございます。」
蓮君が一歩前に出て、両手で受け取った。
「続いて、副賞の授与です。」
「副賞として、京都工業茶製造協会より、金一封が授与されます。」
蓮君が加奈ちゃんをつついた。
加奈ちゃんは蓮君の真似をして、副賞を受け取った。
「さらに、協賛の京都製菓製造協会様より、副賞として、抹茶のお菓子、1年分が授与されます。」
蓮君が、私をつついた。
私も蓮君の真似をして、副賞の目録を受け取った。
「以上で表彰式を終わります。
続きまして、選考委員長からの講評をいただきます。
京都市観光協会山野辺様、おねがいいたします。」
「まずは、『桜花スクールチーム』の皆様、おめでとうございます。
最優秀賞受賞の要点は、CMに起用される音楽ということでした。
抹茶のイメージから、伝統美や優雅さを主張する作品が多い中、親しみやすい音楽とキャッチコピーが印象的でした。
抹茶から、チャチャチャのリズムを発想するなど、他の作品とは一線を画しておりました。
今回の趣旨を最もあらわした作品ということで、受賞につながりました。
これはテレビの前で踊るお子さんが増えるだろうということで、選考委員一同、楽しみにしています。
本当に、よく頑張りました。」
「それではここで、CMの発表に移りたいと思います。」
会場が暗くなり、舞台奥のスクリーンにアニメーションの『茶娘まっちゃん』が映し出された。
CM①、CM②が流れている間、ADさんが蓮君と加奈ちゃんに、
「次、曲紹介の後、実際に歌ってもらうよ。」
蓮君も加奈ちゃんも、力強く「はい」と返事をしていた。
ADさんがボードでMCさんに指示を出した。
「次、曲紹介、生歌で。」
舞台中央にマイクが設置された。
音響機材が運び込まれ、蓮君がスタンバイした。
いよいよ私の言葉が、加奈ちゃんの歌に乗ってみんなに届く。
♪ まっちゃ まっちゃ まっちゃ チャチャチャ
まっちゃ まっちゃ チャチャチャ
1.茶娘まっちゃん さわやかに
ほろにが ちょっぴり 届けます
きょうは プリンに かくれんぼ
大人の味ね ちゃっぷりん
まっちゃ まっちゃ まっちゃ チャチャチャ
まっちゃ まっちゃ チャチャチャ
甘くて でもほろ苦い まるで 恋してるみたいね
まっちゃ まっちゃ まっちゃ チャチャチャ
まっちゃ まっちゃ チャチャチャ
転調して2番に入るころには、会場から手拍子が鳴り響いていた。
人を引き付ける音楽、魅了する歌声。一つになるリズム。
いつの間にか三人の作品は、会場を虜にした。
舞台上では、今野さんの渾身の「チャチャチャ」ダンスを披露していた。
あ、この振り付け、絶対子供たちが真似するやつだ。
曲の披露が終わって、一言インタビューがあった。
蓮君はリーダーとしてコメントしていた。
「僕たちは、フリースクールに通っています。
ちょっと生きづらさを感じながら、でもちゃんとつながっていたい。
そんなことを許してくれる、学校です。
そこで仲間と出会いました。
みんな生きづらさを抱えていました。
僕も一人ぼっちだと思っていました。
でも、表現する力が、仲間の結束になりました。
僕たちのつながりが、みんなのつながりになりますように。」
会場から温かい拍手をもらった。
「以上を持ちまして、CMの制作発表会を終了いたします。
本日はお忙しい中、多くの皆様にご臨席いただきまして、誠にありがとうございました。」
私達三人も一緒に立ち上がって、お辞儀をした。
それから三人は椅子から立てないでいた。
「終わったね。
すっごく緊張した。」
そんなことを言っている間に、ママたちが会場に入ってきた。
加奈ちゃんのお母さんは、加奈ちゃんを抱きしめて泣いていた。
蓮君のお父さんは、グータッチをしていた。
ママは、私の手をそっと握って、
「頑張ったわね、陽菜。」
「私も、ずっと怖かった。でも……今日、みんなで一つになれた気がした。」
そう言って私もちょっと泣いていた。
「あ、空っぽ。」
加奈ちゃんが副賞の中身を見ていた。
「それはですね、あとで銀行に振り込まれるからですよ。」
会社の人が、慌てて説明してくれた。
「ですよね。」
みんなで顔を合わせて笑った。
蓮君のお父さんも、目に涙をためながら、大声で笑っていた。