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第16話:そらへ

 

 ADさんが、午後から収録する会場を案内してくれた。


「さて、ここが収録のスタジオだよ。

 まずは京都工業茶製造協会の紹介、それから三人の表彰式の予定。

 次に『茶娘まっちゃん』の紹介をして、CMを流す。

 その間に支度をしてもらって、『茶娘まっちゃん』のテーマ曲の披露だよ。」


「テーマ曲は生歌ですか?」


 蓮君が聞いていた。


「まあ、歌入りデータはもらっているから、それを流す予定だけど……。

 やってみたい?

 演奏はそれで流すとして……。

 カラオケデータ、持ってる?」


「はい、あります。」


「それじゃ、ディレクターに聞いてみるよ。」


 ホテルの会場にセットされた移動スタジオに、照明や音響などの機材とともに、撮影カメラが配置されていた。


 その後ろにある、関係者用のパイプ椅子の列があった。


「ここにはスポンサーさんや、報道関係者が座るんだよ。

 あ、お母さんたちと先生は、あそこね。」


 スタジオから見ると、少し高い位置にある小部屋。照明のスポットライトや、音響の機械が置いてあるところだった。


「まぁ、今日はあそこは使わないから、一番よく見えるところで見てもらうんだよ。

 そこなら、思わず声を出しても、聞こえないしね。」


 会場のスタッフが一斉に挨拶をする声が聞こえた。


「おはようございます。」


 気合の入った声だった。

 私たちも一緒になって挨拶をした。


「おう、今日の主役三人組だな。

 今日はよろしく頼むよ。」


「こちらが今日担当してくれる、チーフディレクターのK氏だ。」


「桜井陽菜です、よろしくお願いします。」

 続いて、加奈ちゃんと蓮君も自己紹介した。


「ほう、君たちが桜花スクールの勇者パーティね。

 自己PRに書いた『勇者蓮』は君だね。」


「はい、蓮です。」


「そうか、楽しみにしているよ。」


 ディレクターKは、さっと振り返り、背中を向け、手を振って去っていった。


「ちょっと蓮、自己PRにはなんて書いたのよ。」


「ちゃんと作詞:賢者ヒナ 作曲:勇者蓮 歌:魔導士カナって書いたぞ。」


「だからそれ、何キャラよ。

 もう、ここでそれ言うかな。」


「ほら、ちょっとしたあいさつ代わりにな。」


「あはは、もう遅いよね。

 ねぇ加奈ちゃん、面白そうだから、この際乗ってあげようよ。

 大丈夫だよ、コンテスト用には、ちゃんと書いてくれてあったから。」


「なら、いいんだけどね。」


 加奈ちゃんがプリプリ怒っていた。

 でもそのおかげで、ちょっと緊張がほぐれたかな。


「君たち、今野から聞いたよ。

 ちょっとリハーサルやってみるんだって?」


 本番30分前、緊張と高揚が入り混じる空気の中、

 突然、ディレクターK氏が口を開いた。


「ねぇ、ライターさんがいるなら、ちょっとショートコーナー、やらない?」


「うん、カナいいね。

 せっかくアクターさんいるからさ、1コーナー作ろうよ」


「蓮君、いいだろう?

 これ、プロ用の器材ね。

 好きにしていいから、音、頼める?」


 矢継ぎ早に私たちに話してきた。


「面白そうだから、やってみようよ。」


「よし、それでこそ勇者様たちだ。

 ではヒナ、3分でいい。

『茶娘まっちゃん』の物語を書いてよ。」


 続いて加奈ちゃんには、


「今日は今野に任せていい。

 ちょっといたずらっぽいの、頼むよ。」


 最後に蓮君には、


「今日は君の感性に委ねる。

 まぁ本番じゃないし、お好きにどうぞ。

 好きだろ? そういうの。」


 私は『茶娘まっちゃん』と『くまちゃん』を登場させて、小さなラブストーリーを書いた。


 加奈ちゃんが今野さんとセリフ合わせをしていた。

 蓮君が、ちょっと自信なさそうな様子だった。


「やべ……即興は好きだけど、今日のこれは……ムリかも……。

 俺、やっぱりボッチの……」


 そこに、ゆっくりと蓮君のお父さんが入って来た。


「おい、蓮……。

 やるからには、半端は許さねぇ。

 見てみろ、お前の夢のために、ここにいる全員が力を貸してくれてるんだ。」


 蓮君は、辺りを見回して、ちょっと気後れしたのか、下を向いていた。


「お前、今さら『ボッチ』とか言って、何甘えてんだよ。

 お前は一人じゃない。

 でもな、一人前でもまだねぇ。

 だったらせめて……。」


 お父さんが蓮君の肩をがっしり掴んだ。


「勇者蓮なんだろ? 立てよ!」


 それから蓮君は、顔を上げた。

 拳を突き出して、グータッチした。


「ああ、任せておけ。」


 その眼にはもう、迷いはなかった。



 ♪BGM:ラテンリズムの「チャチャチャ」

 陽菜:脚本/加奈:声/今野:アクター/蓮:即興演奏


まっちゃん(CV加奈):

     こんにちはっ♡ 私、まっちゃん

     普段はお茶の葉っぱの陰に、かくれんぼしてるの。

     でもね、今日は見つけてほしかったの。

     だって、伝えたいことがあるんだもん。

     それは『恋』の味!

     お抹茶みたいに、ちょっぴりほろにが……

     でも、あとから甘〜くなるやつ!


くまちゃん(朗読):

     ……あなたのことを見ていると、

     抹茶の香りがするんです。

     最初はドキドキ、次はほろにが、

     でも最後は、ぽかぽか甘い……。


 SE:ホイッスル


まっちゃん:

     見てるよ?だって君、ずっとお茶みたいに香ってたもん。

     まっちゃ、まっちゃ、チャチャチャ♡

     恋の味って、知ってる?


陽菜ナレーション

     恋の味は、お抹茶みたい。

     ほろにがくて、だけど心に残る甘さがあるのね。


 SE:イントロ♪ まっちゃ まっちゃ まっちゃ チャチャチャ〜


まっちゃん:

     ほら、心が躍りだす。


くまちゃん:

     好きだ~、この味。


二人で(デュエット):

     ♪ まっちゃの味は 恋の味


 BGM:ティンバレス、フィルイン。エンディング



 報道関係者が驚いた。

 収録30分前のドラマを、固唾を飲んで見守っていた。


「おい、即興で寸劇って……そんなレベルじゃないぞ、これ。」


 拍手の中、ディレクターが椅子から転げ落ちた。

 もう言葉は、抑えきれなかった。


「……おいおい、こいつらほんとに化けやがった!

 ……後でエディット頼むわ。本編のあと、番外編でドキュメンタリー行こう。」


 そして一言。


「……ひよこども、ちゃんと飛び立てよ。

 ようこそ、こちら側へ。」


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