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第14話:名乗りを上げる、わたしたち

 

♪ まっちゃ まっちゃ まっちゃ チャチャチャ

  まっちゃ まっちゃ チャチャチャ


1.茶娘まっちゃん さわやかに

  ほろにが ちょっぴり 届けます


  きょうは プリンに かくれんぼ

  大人の味ね ちゃっぷりん


  まっちゃ まっちゃ まっちゃ チャチャチャ

  まっちゃ まっちゃ チャチャチャ



  甘くて でもほろ苦い まるで 恋してるみたいね



  まっちゃ まっちゃ まっちゃ チャチャチャ

  まっちゃ まっちゃ チャチャチャ


2.茶娘まっちゃん さわやかに

  ほんのり 甘さも 届けます


  きょうは クッキー かくれんぼ

  やさしい味ね ハイ どうぞ


  まっちゃ まっちゃ まっちゃ チャチャチャ

  まっちゃ まっちゃ チャチャチャ


「はい、OK。

 加奈、お疲れ様。

 フルコーラスはこれでいいよ。

 ちょっと休憩したら、CM用行くからね。」


 音楽室に広がる、楽しい音楽。

 加奈ちゃんの可愛らしい声。

 もう、『茶娘まっちゃん』になり切ってるよ。


 その後、無事にCM用のうたも収録して、私達の出番は終わった。


「なんだか、すごく緊張したね。」


「そうだね、初めてのことをするって、ドキドキするよね。」


 そう言って二人で蓮君の作業を見守っていた。

 蓮君は、この歌のデータから、作品に仕上げていくって言ってた。

 録音だけじゃ、終わらないんだね。

 もうヘッドフォンを付けて、没頭していた。


「行こうか、陽菜ちゃん。

 アイツああなると、もう誰の声も聞こえないから。」


 もうすぐ下校時間になる頃だった。

 蓮君は……迫先生と出来栄えのチェックをしていた。


「ほら、そろそろ帰らなきゃ。

 女子たちには、先に帰るように言っておくよ。」


 蓮君は、まだ何かやっているようだった。

 私はヘッドフォンを付けた蓮君に手を振って、加奈ちゃんと一緒に音楽室を後にした。



「ただいま。」


「あら、今日は遅かったのね。

 なにかあったの?」


「学校で、『茶娘まっちゃん』の歌を作っていたの。

 蓮君っていう男の子が、あっという間に曲を作って。

 それで、下校時間まで収録していたんだよ。」


「昨日作詞して、もう歌を作っちゃたの?」


「そうなの。

 蓮君と加奈ちゃん、すごいでしょう?」


「そうね、出来上がったら聞かせてくれる?」


「うん。」



 それから二日ほど、蓮君は学校に来なかった。


「自宅学習とキャリア教育の時間なんだって。」


 真剣に音楽家を目指しているなら、蓮君にとっては、就職活動なんだね。


 学校に来ない蓮君のことを、加奈ちゃんは心配していた。


「アイツ、没頭すると何もしなくなるのよ。

 ご飯を食べないこともあって……。」


「え? そうなの?」


「だから昨日、ちょっと覗きに行ったんだ。

 ヘッドフォン付けて、集中してた。 

 ……まぁ、生きていたけどね。」


 生きていたって? 

 それだけ夢中になっているんだね。



 夜、タブレットに蓮君からメッセージが届いた。


「できたぜ、相棒。」


 件名だけで、添付ファイルが4つ。

 エントリーシート、CM1、CM2、フルバージョン。

 CC:精霊……これ絶対に怒られるから!


「くまちゃん、これ、私の携帯に転送できる?

 そうしたら、くまちゃんのスピーカーで、みんなで聞くことが出来るから。」


「それなら、陽菜ちゃんのタブレットのメールを、自分の携帯に転送してごらん。

 僕はそこから添付ファイルを、再生リストに入れておくから。」


 パパも帰って来た。

 リビングのテーブルの上に、くまちゃんがちょこんと座っていた。


「みんな揃ったね。それでは、『茶娘まっちゃん』のテーマ、発表します。

 くまちゃん、お願いします。」


「それでは、CM1から。」


 そう言ってくまちゃんは、CM用の曲を2回、流した。


「おいおい、これを陽菜たちが?

 嘘だろ……これじゃ代理店に頼んだものと、同じくらいの出来じゃないか。」


 本当にかっこよく仕上がっていた。


「それじゃ、『茶娘まっちゃん』のテーマ曲、行きます。」


 耳慣れたリズムから、急に大人っぽいアレンジと、加奈ちゃんののびやかな声……。


♪ 甘くて でもほろ苦い まるで 恋してるみたいね


 その後、ラテンのドラムの音が鳴って、また軽やかなリズムに戻った。

 転調して、ちょっとイメージが変わって、手拍子が入って、同じ曲の繰り返しじゃなくて、ちょっとカッコよくなった。


「かっこいいよ、ここ。

 アレンジャーに頼んだの?」


 パパが前のめりで聞いてきた。

 すごく出来がいいって、ほめていた。


「ううん、蓮君が作ったんだよ。」


 私は、蓮君たちと仲間になれて、ちょっと誇らしかった。


「でもね、陽菜。

 やっぱりこの歌詞がすごいと思うの。」


「そうだね。

 この癖になりそうなリズムを作っているのは、この歌詞だね。」


「ふふっ、本当に子どもたちがテレビの前で踊るわよ。」


「陽菜、頑張ったね、とてもいいよ。

 パパはそれだけで、抹茶のプリンをたくさん買ってあげたい気分だ。」


 そう言って、パパもママも笑ってくれた。

 それが一番、うれしかったの。



 それから1週間後、私達は校長先生に呼ばれた。

 先生は封筒を開けると、ゆっくりと取り出し、中の手紙を読み上げた。


 弊社コンテスト、『茶娘まっちゃん』のテーマ曲募集にご参加くださり、ありがとうございました。


 先日の会議で、桜花スクールの生徒さんによるコンテスト応募作品は、大変優秀でしたので、この作品を最優秀賞とし、CMやイベントで採用することとなりました。


 つきましては、CM完成の発表と表彰のため、制作発表会に参加していただきたく、お伺い申し上げます。


 なお、契約等の手続きの都合上、保護者の皆様のご出席も併せてお願い申し上げます。


 皆様のご参加を、心よりお待ちしております。


「おめでとう、よく頑張りました。

 京都のホテルで、制作発表会が行われます。

 学校としては、君たち3人だけでは、ちょっと心配なので、親御さんに一緒に行ってもらうこと。

 学校からは、白井先生に引率をお願いしようと考えています。」


 一緒にいた白井先生が、


「まずは君たちのご両親に報告を。

 それから学校もできる限りのことを応援する予定です。

 まずは先生からも『おめでとう』と言わせてくれ。」


 そう言って、ちょっぴりに泣いているように見えた。



「僕の親は、来ないだろうな。

 だって、僕が音楽やること、反対しているからな。」


「おじさん、喜んでくれるといいな。」


 加奈ちゃんが慰めるように言った。

 でも私は、


「そんなことないよ、だって蓮君言ったじゃない。

『娘が名乗りを上げる瞬間を見届けるのだ。

 これ程幸せなこともあるまい。』って。

 それって、きっと蓮君のお父さんも一緒だよ。」


 蓮君がきょとんとした。

 加奈ちゃんが驚いていた。


 私がはっきりと蓮君に意見したから……。


 ……だってくまちゃんも、そう言ってたもん。


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