表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

第7話:恋と仕事と、すれ違いの距離。


「……おはようございます」


「……おはよう」


いつもどおりの挨拶。

でも、私たちの間には、誰にも知られてはいけない“指輪”がある。


週明けの朝、私はいつも通り出勤し、デスクに着いた。

そして、隣の島にいる灥耕助さん――いや、“耕助”は、やはりいつもと同じように、クールで自然体だった。


(……すごい。あんなふうに何食わぬ顔でいられるなんて)


私はというと、正直、全然慣れなかった。


キスも、プロポーズも、指輪までもらった。

でも、会社にいると、何もなかったようにしなきゃいけない。


(これが“秘密の社内恋愛”かぁ……)


嬉しさよりも、緊張のほうがずっと強かった。



午後の打ち合わせでは、プロジェクトの成功を祝って、社外イベントが立ち上がることが決まった。


「Flare★Starの名前を借りて、若者向け商品PRを仕掛けたいっていう案が出てるんだ」


上司のその一言に、私は一瞬手が止まった。


(……まさか、彼がそこに関わることになる?)


でも、表情に出してはいけない。

私たちには“ルール”がある。

会社では、恋人ではなく、ただの同僚。



打ち合わせが終わったあと、耕助さんがチャットを送ってきた。


【今日、君の家に行ってもいい?】

【カレー作ってくれるって言ってたよね】


【了解。買い出ししてから帰るね】


そんなやりとりも、職場ではLINEではなく、個人端末の中にある共有アプリを使って、極秘で。


(……この関係、誰かにバレたら終わりだな)


わかってる。だけど、私は彼と一緒にいたい。

この選択が間違っているとは、どうしても思えなかった。



その夜。

私はスーパーで食材を買い、少し遅れて帰宅した。


部屋に入ると、耕助さんが既に来ていて、キッチンに立っていた。


「え、来るの早くない……?」


「待ちきれなかった。……君に会いたくて」


そんなセリフ、反則。

私は彼の背中に抱きついて、ぎゅっとした。


「……子どもが欲しいって言ってたよね?」


私が唐突に言うと、耕助さんはスプーンを止めた。


「……うん。言った。俺は、君との家族が欲しいって思ってる」


「でも、芸能活動、どうするの?」


「今はまだグループがあるし、すぐには難しい。

でも、もし君が本当に望んでくれるなら……考えてるよ。

どこかで区切りをつけるかもしれない」


「そっか……」


私は小さく呟いて、耕助さんの背中に顔を埋めた。


「子どもは、今すぐじゃなくていい。でも、将来の約束がしたい」


「約束するよ。絶対に、幸せにする」


その夜、私たちはふたりでカレーを食べ、映画を観て、

そして……ゆっくりと、静かに、愛を確かめ合った。



翌日、私は社内で他の女性社員たちの視線が気になるようになっていた。


(……やっぱり、どこかでバレかけてるのかも)


給湯室では、例の後輩・白井紗英が近くにいた。


「香坂さんって、最近なんかキラキラしてません?恋してるんじゃないですか〜?」


「そ、そんなことないよ。たまたま調子がいいだけ……」


苦笑いしてかわしたけど、胸の奥では警報が鳴っていた。


(この距離感、どこまで守れるんだろう)



その夜、ふたりで会ったとき、私は彼に言った。


「私……ちょっと怖くなってきた」


「何が?」


「この関係。バレたらどうなるんだろうって。

仕事も、あなたのキャリアも、壊れちゃうんじゃないかって」


耕助さんは私の肩を引き寄せ、真っ直ぐに見つめた。


「何があっても、俺は君を守る。

だから、怖がらなくていい」


その言葉に、私は救われた。


でも、現実はそう甘くない。



社内イベントが始まり、彼の正体が外部に知られるリスクも徐々に高まっていく。


まだ、誰にも言えない。

だけど確実に、私たちの関係は“未来”に向かっている。



■香坂眞衣の心の声・夜のメモ:


「秘密にしてるってことは、

誰にも祝福されない恋なのかもしれない」


「でも私は、この人と家族になりたい。

その想いだけは、嘘じゃないから」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ