表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

第6話:プロポーズと、ふたりだけのルール。


週が明けた月曜日。

社内の空気は、少しだけざわついていた。


——原因は、明らかだった。


誰かが噂している。

「灥さんと香坂さんって、ちょっと仲良くない?」

「この前のライブ行ったって言ってたし」

「もしかして、社外でも会ってる……?」


そんな声が聞こえるたび、私は自分の心臓が縮むのを感じた。


(バレたらどうしよう……)


でも、何より怖いのは――**「距離を取られること」**だった。


耕助さんと、もっと一緒にいたい。

もっと、知りたい。

この気持ちは、もう止められなかった。



午後、社内に一本のメールが届いた。


——「プロジェクト契約、正式に再締結が完了しました」


この知らせに、部内全員がホッとした。

特に私は、心から解放された気持ちになった。


(よかった……これで、ひとつ乗り越えた)


上司からの呼び出しを受け、私は会長室へと向かう。


「香坂くん。よくやった。今回の契約、君がいなければ破談だった」


会長は笑ってそう言ってくれた。そして――


「特別賞与を出すことにしたよ。80万円ほど」


「……えっ」


目を見開く私に、会長は言った。


「君がそれだけの価値を生んだということだ。自信を持っていい」


(……報われたんだ。私の努力が)


感謝と安堵の気持ちで胸がいっぱいになった。



その夜。


私は耕助さんからのメッセージで呼び出された。


【今夜、会社の裏手にあるテラスで待ってる。ちょっと、話がある】


オフィスの裏手にある、小さな中庭のようなテラス。

夜の風が涼しくて、灯りはほとんどない。


私はドキドキしながらその場所へ向かった。



耕助さんは、ライトポールの下に立っていた。

白いシャツの袖をまくり、月明かりの下で誰よりも美しく見えた。


「来てくれてありがとう。……ここ、社内の人間、ほとんど知らないんだ」


「どうしたんですか、こんなところで……?」


「君に話したいことがあるんだ」


彼の表情が、少しだけ真剣になった。


「……俺、芸能活動を始めて、長い間“誰かを好きになる”ことを避けてきた。

自分を推してくれる人の夢を壊したくなかったから」


私は黙って、ただ聞いていた。


「でも、会社で君を見たとき、本気で思った。——“この人だ”って」


「え……?」


「香坂さん。俺、君のことが好きだ。

最初に声をかけたときから……いや、多分、それ以前から。

LIVEで来てくれてた時も、目を奪われてた。だから、言うよ」


そう言って、彼はポケットから何かを取り出した。


小さな箱。それを、私の前で開いた。


中には、きらめく指輪。


「……俺と、結婚してほしい」


「……っ……!」


私は何も言えなかった。

こんなに急に、こんなにまっすぐに、想いを告げられるなんて思ってなかった。


「まだ籍は入れなくてもいい。俺はグループの活動があるし、君の仕事もある。

でも、これだけは伝えたかった。——君のこと、本気で愛してる」


「でも……でも……芸能人と会社員なんて、そんなの、うまくいくわけ……!」


私の言葉を遮るように、彼は一歩近づいた。


「君が不安に思うこと、全部わかる。でも俺は、そのすべてを乗り越えるつもりでここにいる」


彼の手が、私の手に重なった。

その指先が、私の指にそっと指輪を滑り込ませる。


「仕事中は、いつもどおりに過ごそう。

誰にもバレないように。……でも、家では、ふたりでちゃんと愛し合おう」


私は、涙があふれそうになるのを堪えながら、頷いた。


「……わかりました。私も、耕助さんが……好きです」


「ありがとう」


彼は、そっと私を抱きしめた。



その夜、私は彼の家を訪れた。


互いの家を交互に行き来する“ふたりだけのルール”が、今、始まった。


ソファに並んで座って、映画を見て、何度もキスをした。


画面の中の恋よりも、

ずっと甘くて、現実で、愛おしいキスだった。



■香坂眞衣の心の声・夜のメモ:


「好きになってはいけないって、ずっと思ってた。

でも今は、もう、そう思わない。

——この人と、生きていきたいって、心から思ってるから」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ