表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/11

第4話:LIVE会場で、推しに恋をした。


翌週、私は年に一度の“ご褒美”を迎えていた。


──Flare★StarのLIVE。


私はこの日のために、ずっと前からチケットを確保していた。

彼らのチケットはプレミア。運良く当選した時は、思わず泣きそうになったくらいだ。


(まさか……あの中のひとりと、会社でキス未遂になるなんて。夢にも思ってなかったけど)


けれど、今日は会社も仕事もすべて忘れて、ただの「ファン」として彼を見に行こうと決めていた。



会場は東京ドーム。

ドームの外はすでに人・人・人……。


隣にいたのは親友の里英りえ


「ねえ、で?来てるの?耕助くん」

「……たぶん、うん。たぶんまだグループにいると思う」


私はそう答えながら、胸の奥がざわざわしていた。


「いーじゃん!会えるだけで神回でしょ?

会社にいるとか、奇跡なんだから。推しと同じ空間だよ?しかも同じ給湯室!」


「……それ言わないで」


私は思わず顔を両手で覆った。



そしてLIVEが始まった。


ステージの照明が落ち、7人のシルエットが浮かび上がる。

歓声と共に、私の心臓が大きく跳ね上がった。


(……やっぱり、いた)


その中に、確かにいた。

KOSUKEとしての、耕助さん。


黒と赤を基調にしたライブ衣装。身長の高いシルエット。クールで、でもたまに優しく微笑む表情。


(これが、私の“推し”。そして今は、会社の先輩……)


ステージの照明が何度も交差し、レーザーがドームを駆け抜ける。

ファンたちのペンライトの海。その中で、私は完全に言葉を失っていた。


この1時間半の間、彼は私の“推し”で、ステージの“王子様”だった。


(やっぱり……好きだ)


私は再確認してしまった。



LIVEの終盤、彼らが客席に手を振りながら回る時間がやってきた。


私は前列にいたわけではない。けれど、ある瞬間、KOSUKEの視線がこちらを掠めた気がした。


(まさか、目が合った……?)


心臓が痛いくらいに高鳴る。



LIVEが終わり、握手&撮影タイムへ。

コロナ以降の“対策仕様”とはいえ、ファンにとっては夢のような時間。


1人ずつレーンに並び、ガラス越しの簡易ブースで短い会話とハンドサインを交わす。


私は心の中で何度も深呼吸した。


──そして、彼の番が来た。


「……来てくれてたんだ」

低い声が、耳元でささやかれるように届く。


「……ありがとう。LIVE、どうだった?」


私はガラス越しの彼に、微笑んだ。


「最高でした。ずっと応援してます」


「……そう。良かった」


一瞬、彼がこちらを見てふわりと笑った。

会社では決して見せない、アイドルとしての笑顔だった。



握手が終わり、私たちは出口へと促された。


隣で歩いていた里英が言った。


「……で?どの人が耕助くんだったの?」


「……あの人。KOSUKE。私の推しだった人」


「……マジで?え、やばいじゃん。

会社に戻るの、どうすんの?毎日顔合わせるの、死なない?」


「……もう死にそう」


私はぼそっと返しながら、ずっと胸の奥が震えていた。


(推しがそこにいた。私は、あの人を今でも好きで──)


(だけど、私は“ファン”じゃなくて、“社員”として彼と向き合ってる)


自分の中で、何かが変わろうとしていた。



■香坂眞衣の心の声・LIVE帰りのメモ:


「私は、ステージの彼を見て思った。

やっぱり私は、彼のファンで……でも、それだけじゃ足りなくなってる」


「もう戻れない。

これは“恋”だって、自覚してしまったから」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ