表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

第9話:突然の妊娠と、別れの報告。


ある朝。

私は、少しだけ体が重く感じていた。


(……あれ?)


会社に向かう電車の中で、つわりのような吐き気がこみ上げてくる。

でも、まだ信じられなくて、私は無理やりコーヒーを口にした。


(気のせい、だよね……)



だが数日後。

私はついに、体調不良で午前休をもらい、産婦人科へ向かった。


待合室で震える指で渡された検査表を開いたとき、そこには確かにこう書かれていた。


「妊娠6週目」

「双子の可能性あり」


——私のお腹の中に、命がいる。


しかも、ふたりも。


私はその場で、泣きそうになった。



夜、私は耕助さんを自宅に呼んだ。


玄関のドアを開けたとき、彼は「どうしたの?」と不安げに言った。


私の目を見て、すぐに気づいたようだった。


「……まい。もしかして」


私は、震える声で答えた。


「……赤ちゃん、できた。ふたり。双子……だって」


耕助は絶句したあと、私を強く、強く抱きしめた。


「ありがとう……ありがとう。本当に……ありがとう」



その後。

彼はすぐに会社に“ある報告”をした。


まず上司に「香坂さんと付き合っていること」、

そして「彼女が妊娠していること」、

さらに「結婚を前提に交際していること」を。


部長は頭を抱えた。

でも、耕助はさらに言った。


「実は……会長は、僕の祖父です」


「……は?」


部長の顔が固まったのは言うまでもない。



実は灥耕助の“灥”という名字は、祖父である会長の“龍水グループ”創業家の旧姓だった。


耕助は一時的に芸名や身分を隠して入社していたが、

それも「30歳までに社会経験を積め」という祖父の命による“約束の職歴”だった。


「結婚と妊娠を機に、会社は一度辞めます。

でも、30歳になったら……戻ってきたい。社員としてでも、経営側としてでも、また香坂さんと一緒に働きたい」


その言葉に、会長もただうなずいた。



妊娠の報告をした翌週、私たちは上司の前で正式に交際と結婚前提の意志を表明した。


社内での“極秘交際”が終わり、

それと同時に“退職と育休”という、まったく新しい日常が始まろうとしていた。


「会社には、君の名前は出さない」


彼は言った。


「Flare★Starを卒業するかどうかも、今はまだ結論を出さない。

けど、結婚は報告する。

……“名前は出さない”って条件で、ニュースになると思う」



数日後。

Flare★Starの公式サイトに、こう掲載された。


【KOSUKE、結婚のご報告】

この度、Flare★Starメンバー・KOSUKEが結婚したことをご報告いたします。

お相手は一般女性の方であり、詳細は控えさせていただきます。

皆さまの温かいご声援に心より感謝申し上げます。


その投稿には、驚きと祝福の声が飛び交った。


「推しの幸せなら嬉しい」

「でも名前非公開ってことは……」

「もしかして、身近な人……?」


SNSは荒れた。

でも、メンバーのリーダーが自らライブ配信で言った。


「KOSUKEが選んだ人は、彼をずっと支えてくれた人です。

本当に、幸せになってほしいと思っています」


その言葉に、私は画面越しに涙を流した。


(ありがとう……ありがとう、みんな)



そして、月日が流れた。


私のお腹はどんどん大きくなり、

耕助さんは仕事の合間を縫って、検診にもすべて付き添ってくれた。


そして、出産当日。

帝王切開による計画出産で、私たちはふたりの命と対面した。


ひとりは男の子。

もうひとりは女の子。


私は彼の手を握りながら、泣いた。


「……ありがとう、耕助さん。来てくれて……いてくれて、ありがとう」


「俺のほうこそ。君と、家族を作れて、本当に幸せだ」



育児は、想像を超える大変さだった。

夜泣き、ミルク、オムツ、寝かしつけ、そして家事。


それでも、私たちは互いに支え合い、笑いながら乗り越えた。



■香坂眞衣の心の声・出産の日のメモ:


「会社では恋を隠し、

仕事ではプロとして振る舞い、

家ではママとして、妻として……

全部、本物だった」


「——あなたに、恋してよかった」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ