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9/11

血の効果

 あんなに恥ずかしい事があったばかりでも、ウォルフはいつもどおりおはようのキスをしにマリアの部屋にやってきた。


 なかなか寝つけず寝不足のマリアは眠いまなこをこすりながら出迎える。


「おはよう」

「おふぁようございます」


 呂律も回らないマリアに、ウォルフは笑った。


「眠そうだな。昨日は眠れなかったか?」


 ニヤけた表情のウォルフに、マリアは無言でじとっとした視線を送る。


「昨日のマリーの様子で、気になることがあるから血を舐めてもいいだろうか。指先でいい」


 無言のまま右手を差し出した。ウォルフがマリアの人差し指を咥える。ぷつ、と牙が刺さる感覚はあるが、痛くはない。ウォルフはマリーの指先から滲む血を舐め取る。仕草がずいぶん官能的に感じるのは心が穢れたのだろうか。


「………なるほど」


 何がなるほどなのか、この歩く18禁め。


「マリーがあんなに扇情的な表情で血を舐め続けた理由がよくわかった。吸血鬼にとって、異性の吸血鬼の血はかなり強力な媚薬みたいなものだ。吸血鬼も生殖繁殖可能なのかもしれない」


 ウォルフはこれが性欲か、なんて興味深そうに呟いた。あの血に夢中になった感覚を覚えているマリアは、寝起き早々襲われるのではないかと気が気でない。


 そっと顔色をうかがうと、ウォルフは眉間にシワをよせ始めたあと「血が足りない。出かけてくる」そう言い残して足早に屋敷から出ていった。


 森に消えていくウォルフを見送り、襲われなくて良かったと安堵する。


 寝不足だがウォルフの血を飲んだからか、体の調子がとても良い。空腹を感じないのは、血を飲んで体が満足しているからだろうか。


 その日ウォルフは帰ってこなかった。一緒に暮らし始めて初めてのことだった。


 翌日、何事もなかったかのようにおはようのキスをしに部屋にやってきたときには、ウォルフの顔色がいつもより良くなっている気がした。いったいナニをしてきたのだろう。


「帰ったのに気づきませんでした」

「すまない。舐めただけであんなに強力とは思わなかった。むしろマリーはあのときよくあれだけで済んだな」

「血をもらって満足したからかもしれません。昨日は空腹にもならず、体の調子も良かったので」

「まだ吸血鬼になったばかりだから、必要量が少ないのか。昨日は久々に大量の血を飲んだ。うっかり飲みすぎて殺したかと思ったくらいだ」


 なんだ、本当に血を飲みに行っていたのか。強力な媚薬だと言って外出したからてっきり卑猥なことをして来たのかと思っていた。


「たくさん血を飲むと、顔色が良くなるのですね」

「そうかもしれないな。普段は最低限しか飲まないから。最近はマリーに合わせて加熱した血液で、生き血ではなかったのもあるだろうが」 

「血を飲むと体調が良くなるのも、加熱したものより生きたままのを飲むほうがいいことも良くわかったのですが、今後血を飲む練習はどうしましょう。私としては、野ウサギや野鳥がいいのですが」

「僕で練習していいんだよ?」

「いや、前みたいになりたくないです」


 強力な媚薬とわかっていて進んで飲むつもりはない。


「僕としては襲ってくれていいんだが」

「そういうことは恋人や夫婦ですることでしょう」

「なら恋人になろう。夫婦でもいい。人間はどうやって恋人関係になるんだ?」

「それは、愛し合っている男女が想いを伝えあってなるものではないでしょうか。貴族の結婚はまた別ですが」


 ウォルフはマリアの手を取り片脚を立てて膝まづいた。手の甲に恭しくキスをする。


「僕はマリーを愛している。マリーは?」


 真っ直ぐ見つめられて、赤面する。ウォルフといると顔が熱くなってばかりだ。


「………答えられません」


 ウォルフのことは嫌いではない。でも愛しているかと言われると自分の感情がまだわからない。それは失恋した主人公への未練からではなく、恋に前向きになれない自分の問題だ。


 好意を向けられているのも分かっていた。その好意からのウォルフの行動に喜び、居心地の良さも感じている。ウォルフはマリアを大切にしてくれている。ウォルフのことを大切に想うようになるのも時間の問題だろう。


 けれど今はまだ答えられない。同じ想いを返してあげられない。


「断られないだけ良しとしようか」


 悲しそうに笑うウォルフ。そんな顔をさせたいわけじゃないのに。


「でも、私はウォルフのことを、大事な人だと思ってます」


 今はそう伝えるので精一杯だ。


「本当?」

 

 コクン、と無言で頷いた。ウォルフは嬉しそうに笑みを浮かべた。


「スキンシップ増やしていい?」

「それはちょっと」


 18禁になるから。

いちゃいちゃはR指定との戦い

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