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劇的なビフォアフ

 マリアは人間の頃、水と風の魔法を得意としていたが、吸血鬼となったことで闇と血の魔法が扱えるようになり、得意ではなく基礎しか出来なかった火と土の魔法の威力も劇的に上がった。ゲームのようにステータスは見れなかったが、魔法の威力からして80〜レベルカンストぐらいはありそうだ。光は全く使えないが、問題ないだろう。


 この世界で基本となるのは火、水、風、土の4属性であり、光や闇といった特殊な属性はごく一部のみが扱え、血属性は種族限定の属性だ。吸血鬼が血の扱いに特化しているように、エルフは植物、ドワーフは金属、獣人は身体強化に特化している。

  

 新たに手に入れた力、これを活かせない手はない。


 まず雑草は風魔法の刃で切り落とす。土魔法で土を掘り返し、雑草の根と石を丁寧に取り除く。集めた雑草は闇属性の腐食魔法で腐らせ腐葉土として活用出来る。


 本当は馬糞を発酵させた肥料も混ぜ込みたいが、今は手に入らないので後回しだ。


 花壇の土をふかふかにしたら、次は庭木の剪定だ。二階のバルコニーまでの高さの庭木は、脚立に登って葉が密集したところを切り落としていく。ハサミでは手に負えないのでここは魔法で切断した。細かいところはハサミで調整する。


 切り落とした枝は、集めて細かくしてウッドチップにした。植物のマルチング材として作ってみたが、あまり量ができなかったためどこに使うかは保留とする。


 ツタの這う洋館というのも素敵だが、生い茂りすぎて廃墟感を演出しているので外壁からツタを取り除き、水魔法を高威力で放出することで外壁を高圧洗浄していく。外壁が終わったらそのまま庭園の石畳で出来た小道や玄関前の道などもすべて高圧洗浄で土埃を綺麗に落としていく。薄いグレーかと思っていた道も、もとはダークブラウンだった。


 スッキリした庭園と、綺麗になった外観。まるでリフォームしたかのように美しくなった。これで廃墟と思われることは無いだろう。


 庭園に何を植えるかはまだ悩んでいるが、土を再生する土作りから始める必要があるので少しずつ決めていこう。バラは絶対に植えるとして、四季に合わせて色々な花が咲くようにしたい。


 マリアとしての人生は、貴族令嬢としてどこにでも嫁げるようにと教育された。家の管理も夫人の役目だ。季節の花や花言葉についても学んでいる。庭園でお茶会を開き、花に囲まれて客をもてなすのは夫人の役割でもあるのだ。


 マリアの家は、家を継ぐ予定の長男と、騎士団に所属する次男、貴族同士の繋がりのため伯爵家へ嫁いだ長女、末っ子のマリアは貿易商の御曹司と縁談の話は出ていたが、夏の避暑地からの帰りに盗賊から襲われた際に主人公達に救われ恋に落ちた。世界を救う旅をする彼らを父が気に入り支援するという話になったが、父なりに娘の恋を応援してくれたのだろう。


 ゲームでは父の領土が海に面した辺境であり、水門の管理も我が家で行っているため船旅するにはうちの許可が必要だった。そして支援する名目でうちの船を提供したのだ。


「うちの娘は花嫁修行しておくから」「娘を頼むよ」なんて笑顔で言われて庶民ではとても手に入れられない豪華な船をもらって送り出されながら、ヒロインと結婚した主人公が批難されるのも当然だと言える。


 主人公がヒロインと結婚すると報せを受け、マリアがショックを受け立ち尽くしていたとき、父が手紙を握りしめ憤怒の表情を浮かべていたことを思い出した。


「そういえば、あのとき初めてお父様が激昂する姿をみたのかしら」


 あの小僧、と憎々しげに呟いた父の声。血の気が引いて倒れそうな私に駆け寄ってくれた母の姿が脳裏に浮かんだ。


「家族のみんなは、どうしてるのかしら」


 誰もいない庭園で、ひとりポツンと言葉がこぼれた。


 きっと両親はマリアを探し回っているだろう。吸血鬼となって、二度と会うことはないのだろうが。恋は報われなくても、私には大事な家族がいたのに。今になって後悔の念が押し寄せる。


 深夜の庭園で、ひとり膝を抱えて座り込みひっそりと泣いた。


 しばらくして落ち着いたあと、泣き腫らした目をどうしようかと途方に暮れていると、屋敷の玄関が開く音がした。静寂な森の中、ドアの軋む音はよく響く。


「さっきから座り込んでいるようだが、気分が悪いのか?」


 心配して様子を見に来たようだ。


「ホームシックです」

「なるほど。目もとを冷やすものを持ってこよう。ついでにお茶でも淹れようか」


 泣き腫らした姿に慌てることなく気遣ってくれる。彼の対応に大人の余裕を感じる。


「ありがとう。あのハーブティーをリクエストしてもいいですか?前ご馳走してもらった、お花の香りの」

「ああ、任せなさい」


 綺麗になったばかりの庭園に、古ぼけたテーブルセット。そこに置かれたハーブティーと砂糖菓子。以前吸血鬼はニオイのきついものが苦手か聞いたから、自分でハーブティーでも飲んで試してみるといいと買ってきてくれたものだ。


 用意してくれたタオルで目もとを冷やしながら、何も言わずに付き添ってくれる彼に話しかける。


「もう家族には会えないんだと思ったら、涙が出てしまって。でももう落ち着きました。ありがとうございます」


 人間を吸血鬼にすることはできても、人間には戻せない。吸血鬼は慰めのつもりでマリアに声をかける。


「僕を家族みたいなものだと思えばいい」


 マリアは彼の気遣いに冗談のつもりで返事をする。


「家族ということは、私は妻ですね」


 彼は目を大きく開いた。そしていつも青白い顔の血色がよくなる。


「妻っ……僕の!?」


 いつも落ち着いた彼が激しく動揺する。

 彼が飲んでいたコーヒーが気管に入ったようで、咳き込み始めた。


「大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫。……少し、驚いただけだ」


 なんとなく気まずいまま、お茶会は終わった。



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