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エンドロールのあとで

画面が暗転し、ゲームのエンドロールが流れ始めた。色あせた写真風のスチルがスライドショーのように下から上へと流れていく。


冒険に出たあの日の写真。ヒロインの女の子と出会ったときの写真。師匠に剣の修行をつけてもらったときの写真。敵の幹部と対峙する写真。主人公に叶わぬ想いを寄せていた負けヒロインの悲しそうな表情の写真。他愛もない道中の日常風景の写真。ラスボスを倒した満身創痍の写真。


最後は画面いっぱいに、主人公の勇者と結ばれたヒロインの結婚式の写真が映る。花びらのシャワーが舞う中で、お祝いに駆けつけてくれた仲間たちの姿、照れくさそうに笑う主人公、幸せそうな笑顔のヒロイン。


エンドロールは終わり、画面が暗転する。そして不穏な映像が流れ始めた。


青い光が灯る石造りのトンネル。ネズミが走り、ところどころ苔が生えた退廃的な雰囲気だ。突き当たりのドアは嫌な音をたてて軋みながらゆっくりと開いた。部屋の中心には静かに涙を流す負けヒロインが立っていた。足元には血が乾いたようなどす黒い色の魔法陣が描かれている。



「私の声に応える魔性の者よ、私の願いを叶えなさい。対価は私の魂!」


揺るがない意志をこめた声だった。

足元から漆黒の炎が立ち上り、負けヒロインを取り囲む。


「我が叶えよう」


炎に取り囲まれた魔法陣の中に、突然男性が現れる。黒い髪に切れ長の目、金色に光る瞳、青白く血色の悪い肌、口元から見える尖った牙。


「魂が対価となれば、そなたは永劫苦しむことになるぞ」


「…………かまわないわ」


男は満足気な笑みを浮かべて、負けヒロインの細い首に噛みついた。牙が深く刺さり、血が流れる。


そこで映像は終わった。画面はまた暗転し、数秒後にはゲームのデータを選ぶ最初の画面に切り替わった。


いまクリアしたのは恋愛要素が強めの大人気RPGだ。王道ファンタジー3部作の1作目のリメイクで、ファンの中でも一緒に冒険するヒロイン派と、冒険の支援をしてくれた貴族のご令嬢である負けヒロイン派で度々論争が起きている。


冒険したヒロインこそ結ばれる相手だという意見が優勢だが、娘の婿にと期待され支援してくれたのに貴族のご令嬢と結ばれなければロマンス詐欺じゃないかと主人公とヒロインの行動に納得できないという意見がある。


そしてこのリメイク版でご令嬢は、政略結婚ではなく好きな人と結ばれることを期待していたのに、親からの支援だけ受けてヒロインと結婚する主人公に絶望し、主人公への愛情は憎悪へ転じ、闇堕ちするのである。2作目、3作目のリメイク版では裏ボスとして君臨する予定だそうだ。


ファンは負けヒロインとの結婚を選べるルートの追加を求めていたのに、なぜ闇堕ちさせて裏ボスとして再登場することにさせたのか、開発者は頭がおかしいんじゃないかとSNSで話題になった。



これは前世の記憶である。

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