深夜のコンビニにて 【月夜譚No.307】
深夜のコンビニのレジでぼーっとする。アルバイトの先輩は奥にいるし、客は一人もいないので、店内放送だけが無意味に流れている。
この時間帯なら客もあまり来ないから楽だろうと思った彼だったが、暇は暇で結構辛いものがある。
「……らっしゃいやせー…………?」
自動ドアの開く音に顔を向けた彼は、入ってきたものに目を丸くした。
小学校低学年くらいの二人の子どもだ。一人は青の絣、もう一人は花火柄の白い浴衣を着ている。
そして、顔にはそれぞれ狐と狸の面を被っていた。
こんな深夜に子どもがコンビニにいるということ自体がおかしいが、その恰好が更に不可思議さを醸している。
子ども達はカラカラと下駄を鳴らしながら店内を歩き、チョコレートのカップアイスを二つ、レジに持ってきた。戸惑いながらも応対してやると、きちんと小銭を出して会計を済ます。
大人としてやるべきことはやらねばなるないと、彼は子ども達に訊いた。
「……えーっと、お父さんとかお母さんは?」
「いないよ」
「なんでこんな夜中に来たのかな?」
「おまつりだから」
絣の浴衣の方が外を指差す。
見ると、街灯しかなかった道路が厭に明るくなっていた。
そこには、身体は人間なのに頭が動物のモノ、人の頭だけが浮遊しているモノ、もはや生き物ですらないだろうというモノ……大小様々な影が提灯を携えて漫ろ歩いている。
「じゃーね、おにーさん」
「あ、ああ……」
彼は出ていく子ども達に手を振り返すことしかできなかった。
(…………このバイト、やめよ)
心の中でそう呟いた彼は、そこに突っ立ったまま異形の行列を見送った。
翌朝レジを開けると、二枚の木の葉がお札に交じって入っていた。