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1-01 Me et eam falsam accusationem fugae

 フランシス・キールは国家転覆を企てた罪を着せられ、逃亡する。

 追っ手の兵士たちに捕まりそうになった瞬間、ラビットツインテール・バニーカチューシャ・黒いキャットスーツという変わった格好をした少女に抱きかかえられ、幽霊船フライング・ダッチマンと呼ばれるド派手な宇宙艦に乗せられる。

 しかし、彼女、ハンナ・ベルモットは宇宙一の賞金首であり、彼女の仲間もトップクラスの賞金首が揃っていた。


 “助けを求める人の声が聞こえる”彼女たちと関わるなかで、どうして彼女が賞金首トップクラスの犯罪者たちを助けるのか、理解していく。


 次々と“人助け”をしていくうち、フランシスとハンナたちは宇宙を騒がす大事件に巻きこまれ、ハンナが“人助け”を始め、フランシスが“拾われる”キッカケとなったアンドロメダ帝国に行きつく。


 宇宙を騒がす賞金首(アウトロー)たちのドタバタ☆コメディ、今、ここに開幕!

「だれか、助けてくれ……」


 遠くには明らかに殺気立っている兵士がいるのに気づいたから、音を立てないように物陰に隠れた。

 ったく、人気が少ないはずの道を逃げていたはずなのにな。


「だれがこんなことを企てやがったんだ」


 呼吸を整えながら、なんでこんな状態になったのか、何時間か前の出来事を思い返した。


『キール大佐、国家転覆を企てた罪により、国家防衛隊からの除名ならびにアルタイル共和国での五十年間の懲役を命ずる』

 そう宣ったのはだれだったか、今では思いだす気もないが、そんなことを企てた記憶なんてない。むしろ、僕は国家転覆をはかったヤツの討伐を行うはずだったのに。

 そう、いわゆる濡れ衣というやつだが、釈明というか、弁明を聞いてくれる連中ではない。だから、着の身着のままそこから逃げだした。捕まりたくなんてない。

 もちろん逃げきれることなんてできずに、薄暗い路地に追いこまれている。


 あとどれくらいこうやって逃げおおせられるか。

 そう思ったのに、後ろから先ほどとはべつの集団の足音が聞こえてきた。そっと見ると、明らかに僕を追っている兵士たちと目があってしまった。


「やべ」

「おい、いたぞ!」


 ロックオンされてしまったので、慌ててそこから逃げだす。

 しかし、前方からも先ほどの兵士たちがこちらに来ているのが見える。


「諦めるしかない、か」


 今なら“国家転覆未遂罪”と“逃走罪”であわせてデネブ自治国に行き先が変更になるか、七十年の刑期に延長されるか。

 ま、どちらにしてもテキトーにやり過ごすしかないな。

 そう思った瞬間、いきなり爆音がして土埃が周囲一帯を覆う。僕も宙を舞った細かい土と、硝煙の臭いにむせてしまった。


「さ、どいて頂戴。大切なクライアントが困っているじゃない」


 そんなハイテンションな声とともに僕は浮遊感を味わった。


「ナニモンなんだ?」


 僕を追っていた兵士たちが呆気に取られていた。

 そりゃそうだろう。

 助けられた側の僕でさえ、絶賛困惑中だ。なにせ三十歳一歩手前の男が、少女と呼べるくらいの年齢の女性にお姫様抱っこされている状況にどうツッコメばいいのか、困っているのだから。


「私は、困っている人を手助けするボランティアのお姉ちゃんだよ☆ 彼が救いを求めたから、保護しているのさ!」


 そんな僕たちを尻目にニッコリ笑う少女。

 僕は彼女にあなたに助けなんて求めてないと言いたかったが、言える状況ではない。


「あの髪色とバニーカチューシャ、どこかで見覚えはないか?」

「黒いキャットスーツを身にまとい、犯罪者を掻っ攫っていく集団……」

「ま、まさか!」


 兵士たちはようやく正気をとり戻したようだ。

 一方で赤髪の少女は自分の正体がバレたことに気づき、やべと笑いを引っこめた。


「なんだ。もう気づかれちゃったのか。フランシスくん、舌噛まないように気をつけてね」


 どういうことだとツッコミたかったが、無理だった。

 なぜならその刹那、彼女は僕を抱いたまま急加速したからだ。

 はじめて見る彼女はこの土地の人間ではない(・・)

 けれど、迷うことなく目的地に向かっていっている。そんな彼女のもとから逃げだすことはできなかった。


 アンタレス国最大の港にたどり着いたとき、残念なことに僕たちを捕まえる気満々の兵士や、野次馬根性あふれる民衆であふれかえっている。


「はいは〜い。良い子のみんなは動かないでちょうだいね☆ 一歩でも動いちゃうと、クッキー生地みたいにくりぬかれちゃうわよ」


 しかし、そんなことお構いなしに、そう言いながら中央をかきわけていく彼女。

 目の前に居座っているクジラのようなド派手な宇宙艦に向かっていく姿は、まるで宇宙映画祭のトム賞(レッドカーペット)女優のようだと僕は感じた。もちろんあちらでカメラを回している役どころは、こちらでは銃器を構えている兵士たち。

 そんな輩たちから彼女を守るべく睨みを効かせるのは、仲間だろう面々。宇宙艦の前に整列している彼らはライフルやらバズーカ砲を担いで鋭い視線で牽制している。そのおかげか、僕たちにだれも手出しをしてこなかった。


「よぅし、搭乗完了。ハッチ閉めて頂戴」


 “クジラ”の口から艦内に全員が入ったあと、赤髪女が号令をかける。全国民が僕たちに一切手出しできない状態をあざ笑うかのように、彼女と仲間たちは整列して彼らの見送りをする。

 浮遊した直後、下を覗いてみるとアンタレス国の荷電粒子砲軍団がこちらに照準を合わせているが、バズーカ男が二、三発、打ちこむと、すぐにおとなしくなった。


「さ、逃げるわよ」

「次の目的地は」

「まだ決めてない。というか、まだだれも助けを求めてない(・・・・・)んだから、私たちはその声を求めてさまよい続けるわよ」


 スキンヘッドの大男に艦長と呼ばれている赤髪の少女。

 この男に限らず、全員がキャットスーツを着ているという異様な光景だったが、彼らにとっては日常茶飯事らしい。

 彼女は今『まだだれも助けを求めてないから、さまよい続ける』と言った。ということは、だれかが助けを求めれば彼らは動くのか。そして、僕の呟きに応えてくれたのか。


「さすがは幽霊船フライング・ダッチマンの船長だぜ! 承知だ。とりあえず、鉱石の補給もかねてスピカ共和国でも目指すか」

「その前に水の補給も必要だし、なんなら大喰らいのロバートのおかげで尽きそうな食料の確保もしなきゃならないんだよ。一番いいのはデネブ自治国だと思う」


 バズーカ砲を担ぎながら操舵している筋骨隆々でスキンヘッドの男は、背後から青白い顔をしたコックっぽい少年にそう小突かれてしまった。どうやらこの男はロバートというらしい。


「そうね。どうせ幽霊船フライング・ダッチマンの修繕部品を調達しなきゃいけないから、ジョンの言うとおりにデネブ自治国に行って、なにかしら“人助け”をしましょうか」

「ラジャ」


 僕のときもそうだが、どうやって“助けを求めている人”を見つけるんだろうか。純粋にそう疑問に思ったけれど、今はそれ以上にこの面々のことが気になっていた。いや、操舵士の大男もコックっぽい少年、それどころか、この船に乗っている八人(・・)全員どこかで見た記憶があるのだけど、どこだったか。

 とはいえ、聞きだしにくいから、それよりもずっと気になっていたことを尋ねることにした。


「そういえば、なんで僕の名前を知っているんですか?」

「うーん、テレパシー?」

「違います、たまたまですよ。通りすがりの兵士たちが読んでいたのを聞こえただけです」


 赤髪女はカッコよく言ったつもりだったんだろうけど、後ろからヌメっと現れた金髪の女性にさらりと嘘だと暴露されてしまった。

 なんかこの赤髪女と一緒にいるだけで疲れてくるな。


「はあ、そうですか。で、あなたは現在進行形で逃亡している僕を捕まえて、なにがしたいんですか。稀代の賞金首、ハンナ・ベルモット」


 僕は、彼女の名前をはじめて呼んだ。

 その瞬間、艦内の空気がピリリと固まった気がした。


「あなたたちもなんで、この女に従っているんですか? 一緒にいれるだけで共謀罪になるんですよ?」


 宇宙刑法第九百九十九条・共謀罪。

“この法律が適用されるところにおいて犯罪を共謀する、若しくは罪を犯したものとともに行動をした場合、共謀罪を適用できる”

 続けて乗艦員たちにも問い詰めたが、ロバートもジェームスも、メアリーもお前はバカかという表情で僕を見てくる。


「さて、ここにいる連中全員合わせたら、賞金は何ルドになるんだろうな、ジェームス」

「知らないね。でも、ハンナについていけば間違いない。だって、ここにいる全員、指名手配されたところをハンナに助けだされたんだから」


 ジェームスの言葉に僕は固まらざるを得なかった。

 どうりで見覚えがあったんだ。毎日、通っていた詰所に貼られた手配書を、僕は見ていたんだ。


「俺はスミトモと一緒に銀行強盗、エドワード・ウォッカ・Jr.は不正献金、ジョンは医療過誤、アンは無線傍受と改ざんだっけ」

「うん。赤裸々に語られる他人のヒミツがいろいろと聞けて楽しかったな。で、メアリーは政治家専門の美人局(つつもたせ)、そしてジェームスは集団食中毒」

「で、ハンナはアンドロメダ帝国皇太子の殺人未遂」


 いや、なんというか。

 宇宙賞金首ランキングトップテンのうち、七人も揃っているじゃないか。

 逃げたい。


「ちなみに、今、ここで私たちから逃げだしても、あなたには共謀罪が加わるだけですわよ?」


 背後からメアリーと呼ばれた色気がダダ漏れオンナが、僕の心の声を読みとったのか、しだれかかってきた。


「そうだな、坊主。ここにいりゃスリル満点、だけども、助けを求めたものにとっては、一番安全安心な場所さ」

「ええ、ロバートの言うとおり。ここはかなり居心地はいいわよ? ということで、今更だから諦めて頂戴☆」


 この乗艦員のうち最年少ながら宇宙賞金首ランキングトップ、アンドロメダ帝国元伯爵令嬢ハンナ・ベルモットは、ダブルピースをしながらウィンクしてきた。


「お前が言うなぁ!!!!」

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