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教会の剣  作者: フラックス・S
第1章
7/12

第3話前編サイドストーリー ルカくん?ルカちゃん?

教会の剣本部と第3支部は割と近く、両方ローマ市内にあります。


 

 現場から戻り、情報を整理した後マリア達は空いた時間を使って第3支部を練り歩いていた。

 中央庭園を歩いているときキアラは、なぜか猫を連れた銀髪で透き通るような肌の美しい少女を見かけた。少女の髪は太陽の祝福を帯び星空のように輝いていた……黄金の双眸そうぼうは神秘を宿し、その物憂げな佇まいはこの世を憂う天使のようだった。そして彼女の髪に小さく添えられた黄金の髪留めは美しく輝いていた。あまりにも幼く、その場から浮いていたため迷子だと思ったキアラは声をかけた……


「お嬢ちゃん、迷子?お父さんとお母さんは?」

「……?」

 少女は首をかしげながら立ち尽くした。マリアはなぜか笑いをこらえながら2人を見つめていた――これから起こる光景に期待していたのだ。


「お父さんは仕事、お母さんはもう死んだ……」

「ああ、ごめんね悲しいこと聞いちゃって……じゃあお父さんはどこかな?」

 キアラは身をかがめ、できるだけ少女の目線に合わせた――その心遣いがマリアの笑いを加速させた。

「お父さんは教会の剣本部にいる」

 それを聞いてますますキアラは混乱した。マリアは相変わらず腹を抱えながら口を塞いでいた。


「マリアさんも手伝ってくださいよ。迷子なんですよこの子!」

「わ、わかぁりましたぁあっは。ええとおじょうちゃんん?お父さんはどこかなー?」

「マリア、何やってる?」

 少女は少し機嫌悪そうに言い、このときやっと感情をあらわにした。

「そろそろですねーではお嬢ちゃん、お名前をフルネームでどうぞ」

 マリアはマイクを向けるジェスチャーをした。


「――ルカ・ロマーノ」

 それを聞いたキアラの顔がみるみる赤くなっていった。

「る、ルカ・ロマーノって聖者の薬指で轟雷ごうらいの冠の所有者じゃないですか!!ごめんなさい私てっきり……」

「まぁぱっと見、ただの女の子にしか見えませんよね」

「私キアラ・デアンジェリスって言います……新人で勘違いしていました」


 轟雷の冠……それは無窮むきゅうの聖者の5つの奇跡のうち雷の奇跡を体現するもの。無窮の聖者の黄金の眼差しはあらゆる悪を見据え――轟雷によって撃ち抜いたという。所有者の頭を飾るこの触媒は黄金の冠であった。しかし所有者によって形を変える――効率を求めた彼の場合は髪留めであった。空が見え視線の通っているとき、相手に轟雷を落とし撃ち滅ぼすとされている。その威力は無窮の聖者の聖遺物のどれよりも優れているが、身を守る性質が無いため歴代の所有者は鎧などを着ていたといわれている――しかし彼はそういったものを付けるのを好まなかった。


 ルカからすればキアラは意味不明なことを言っていた……彼はすべて本当のことを答えたが意思の疎通が取れず――結局何の勘違いか分からなかったが、どうやらここの新人だということは分かったようだ。

 ルカから見るマリアは相変わらずだった――特筆すべきことがないのだ。彼からすれば散歩するだけのはずだったのに不思議なのに絡まれたという感覚だった。


「何の用?」

「成り行きで話しかけちゃったんで用はないんですけど、ルカはいつこっちに来たんです?」

「3日前ぐらいから……ソフィアが死んだって聞いて……ただ、本部の仕事があったから遅れた」

「まぁ、指の1人が殺されたんでそりゃあなたも動きますよね」


 ルカから見てソフィアは優秀な密偵という印象だった――おせっかいなところを加味してもその評価は高かった。戦闘能力は指の中では低かったが、テンプル騎士団に襲撃されたのなら風来の歩みで戦線離脱できたはずだと彼は考えていた。

 おかしい、誰かが何かを仕組んでいる。急にセクター3が絡んできたのも偶然ではないだろう……そうルカは考えた。沈黙が続いたが彼はお構いなしだった。


「……あのルカさん?」

 キアラがしびれを切らして尋ねると琥珀と黄金の双眸が再びお互いを捉えた。

「なんだ?」

「猫ちゃん好きなんですね!私も猫飼ってるんですよ」

「――そうかそれはいい、猫は好きだ……わずらわしくない」

「そうそう、それにモフモフでかわいいし」

「だが気分屋で見ていて飽きないんだ」

「甘えん坊なところもかわいいんですよね!」


 ルカは久しぶりに世間話が3分以上続いたことに気付いた――彼の基準で見ればこれは悪くない結果だった。

「驚きましたね……こんな感情的なルカは初めてみたかも」

 マリアは驚いていた。普段の彼であれば要点だけを話して立ち去っていただろうからだ。


「そうなんですね!楽しんでもらえてよかったです」

「――楽しんだ?」

「……猫ちゃんの話楽しくなかったですか?」

 キアラはルカに何か期待するような目で見ていた。

 彼は生まれてから今に至るまで感情というものがとぼしかった。故に父から何度も祈りの意味を教えられたが――理屈としてしか理解できなかった。これが感情の兆しならばとても興味深い……そうルカは思った。


「もう話すことない……」

「ん、私達もそろそろ行きましょうか」

 マリアも去ろうとしたがキアラがルカを呼び止めた。

「――あの!私はお話しできて楽しかったです!また話しましょう!」

 彼女を一瞥だけしてルカその場を去った――



「――カ?ルカ!ねぇ聞いてる?」

 ある昼下がりのことだった……ルカは本部からの要請で訪ねていた第3支部の廊下で散歩をしていた。しかし彼の隣には呼んだはずのない随伴者ずいはんしゃが居た――ソフィアであった。彼女はひっきりなしにルカに話しかけ、彼の興味を引こうとしたが徒労に終わった。


「どうして聞いてくれないの?私のこと嫌い……?」

「嫌いじゃないけど好きでもない……」

「空気と同じってこと?風なだけに……」

「そ――」

 ルカが答える前にソフィアは彼の口を塞いだ。

「――さすがにそれはショックだから言わないで!……というかルカってなんでいつも人を遠ざけようとするの?」

「感覚の共有が難しいから……話しても理解の齟齬そごが発生しやすい」

 実際彼は教会の剣の職員とは必要最低限の会話しかできなかった。そんな彼のことを周りも理解していたし誰も何も言わなかった。


「ふーん、もしかして心を通わせることにはちょっと興味あったりする?」

「それは――」

 そう言われたルカはふと考えた。彼自身は信仰や祈りの意味を知りたがっており、そのためには感情というものに対する受け皿が必要だった。しかし何度試しても失敗に終わった――彼の感性の受け皿は小さく毎度こぼれてしまっていた。

「――ある……けどどうすればいいのか分からない」

「だったらこれから私と話そうよ!そうすれば何か掴めるかも!」

「これまでもやってきたのに?」

「私とだったら違う結果が出るかもよ……じょ、条件が違うし」

「確かに……試してみる価値はある」

「じゃあ決まり!じゃあまずはね――」



(――もうソフィアはいないのか)


 ルカは気付くとそう思っていた……その思いの意味に彼自身も気付いていなかった。


第3話前編サイドストーリー END

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