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教会の剣  作者: フラックス・S
第1章
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第2話 協力者



 翌日職場に着いたマリア達だったが異様な雰囲気にすぐに気づいた――局内のいたるところに見知らぬ男達が我が物顔で歩いていたのだ。彼らは独自の指揮系統で動いているようで、マリア達教会の剣職員を寄せ付けず、張り詰めた空気を作り出していた。

 しばらくしてアンドレイに会議室へ呼び出されたマリア達はセクター3からの協力者を紹介された。当たり前のように彼らは来たがセクター3からの協力など前代未聞の事態であった。何かがおかしい……そういった予感はここにいる誰もが感じ取っていた。


セクター3……それはアメリカの諜報機関の一つ。主に国防に関わるテロ組織の監視や、スパイを使った他国の監視などを国内外を問わない活動する組織である。その情報戦能力は高く、多くの事件を解決したり――あるいは闇に葬って来た。


「今回はセクター3の協力も仰いでいる、彼らに失礼のないようにな」

 アンドレイがくぎを刺す、神経質な彼はいつも以上に苛立っていた――目元のシワはより険しく、口はくの字になっていた。

「イライジャ・オールドマン、セクター3の捜査官だ……よろしく」 

 黒人で初老の男性は軽く会釈した。そのたたずまいには歴戦を切り抜けてきた貫録があり、いぶし銀という表現がまさに似合う男性だった。


(なんなんでしょう?この方……隙を感じない) 


 底の知れぬ感覚を覚えたマリアだが、果たしてそれが良い意味でか悪い意味なのか裁定を下すことはまだできなかった。


「よ、よろしくお願いします!キアラ・デアンジェリスです!」

「マリアと申します。ん~たしかにオールドマンってかんじですねぇ――」

 パシン!即座にマリアはアンドレイに頭をはたかれた。水面に石が落ちたかのような音と共に、結ばれていた髪が数本ふわりと跳ね上がる。

 この減らず口が!とマリアが絞られている間にキアラはオールドマンに尋ねた。

「今回の事件についてどう思いますか?プロの意見が聞きたいです!」

「私達もエスパーじゃないんだ。まずはお互いの情報を共有しようか」

 オールドマンは冷静に対応し、会議に取り掛かった。それを聞くとマリアは勝ち誇ったようにアンドレイの背中を押しそれに続いた。


「被害者の聖者の小指?だったか――」

「ソフィアですよ?」

 マリアの鋭い声が響いた――皆の視線が彼女に集中した。


 またアンドレイがマリアの頭をはたこうとしたが、今回は彼女の手で止められた。いつもの無駄な動きが全くなく、今のマリアの目は殺気立っていた。

「がぁぁ、この女!」

 ギリギリ……マリアの手に力が入りアンドレイの腕はひしゃげる寸前だった――流れる御手の祝福によりマリアの筋力は成人男性の何倍もあったからだ。

「……すまないソフィアだな、これからは気をつけるよ」

 オールドマンは素直に謝罪し、頭を下げた――これほどの貫録を持った者が素直に謝罪している場面はそうそう見られるものでは無かった。

 マリアはにかっと笑い、自身も頭を下げた……そして殺伐とした雰囲気が消えていった。アンドレイは始めこそ苛立っていたが解放された腕が真っ青なことを知ると一気に顔が青ざめた。


「それで現場はどうだったんです」

 マリアは調子が戻ったのか指揮者のまねごとをしながら話を戻した。

「現場に残っていた血痕は1人のものだけだ。くだんのソフィアさんのな」

「足跡は?」

「足跡に関しては妙なんだが成人男性のものが3人ほど」

 すると少ないですねとマリアが返す――テンプル騎士団であれば聖者の指に対し3人で挑むなどありえなかったのだ。


 聖者の指……それは教会の剣においても最高峰の戦闘力と信仰力、そして精神力を持ち――信徒救済にその生涯をささげた無窮むきゅうの聖人の聖遺物による奇跡を、戦場に引き起こす者達のことである。聖遺物は5つあり、それぞれ火、水、雷、風、光の奇跡を引き起こす――そのため聖者の指は常に5人おり、それぞれ指の部分に例えられる。誰かが殉教すれば聖遺物は次の所有者を求めるのだ。

 聖遺物の中でも上位のこれらがあったため、教会の剣はテンプル騎士団の猛攻をしのげていたのである。マリアの経験においても彼らは最低1個小隊――10名以上は戦力をぶつけてきた。それだけテンプル騎士団は教会の剣に対しある意味のリスペクトを払っていたのだ。


 キアラも必死に会議に参加しようとするがなかなか入れず、小さな声で独り言のようになっていた。そんな中オールドマンが続ける。

「だが合点がいかん。俺にはよく分からないが聖者の指に選ばれた人間が、3人程度の人間にこんな風に一方的に負けるとは思えなんだ」

 それを聞いたマリアが少し申し訳なさそうに微笑ほほえんだ。


「彼女が不意打ちを受ける可能性はあるか?」

「ありえませんね、あの子が敵の接近に気付かないわけありませんから。まぁ風来の歩みの祝福による聴力増強もありますけど、それ以上に慎重な子でしたから」

「ならそうかもしれないな……そういえば君達も捜査していたようだが収穫を教えてくれないか?」

 オールドマンはキアラに目配せした。

「は、はい!私達が得た情報なんですけど、テンプル騎士団と思わしき人物らが白昼堂々歩きまわっていたようなんです」

 キアラはたどたどしくも嬉しそうに報告した。


「……それだけか?」

 アンドレイが苛立ちながら尋ねるとキアラは委縮した。

「――あれだけほっつき歩いてそれだけか!」

 しびれを切らしたようにアンドレイは立ち上がり怒鳴りだした。それに対しマリアはうんざりした表情で椅子にふんぞり返っていた。アンドレイのこういった態度は今に始まったことではないのだ。

「現場に行ったら門前払いされて――」

「知るか!大体さっきからセクター3捜査官殿に対する態度は目に余るものがある!これだから女は信用できん!セクター3捜査官殿!こいつらは教会の剣の恥ですので別の――」

「いいですか?捜査はまだ始まったばかりです。彼女達を見限るには早いですし、性別は関係ありません……あなたは今何を提供できるんですか?ついでに私はオールドマンです、セクター3捜査官殿ではありません」

 そうオールドマンが言い放つとアンドレイは口をパクパクさせ、すとんと座り込んだ。行き場を失った怒りは彼の拳の中で握りつぶされた。

 一方でマリアは椅子にふんぞり返って勝ち誇った様子だった。


「やはり今の情報では結論を出すには早いな。もう一度君たちを連れて現場に行こうか」

 オールドマンが立ち上がると、マリア達も立ち上がり、ガラガラとした音のなる中彼に続いて会議室を出た。


第2話 END

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