高校の文化祭でメイド喫茶をやることになった ~友人の女子はヴィクトリアンメイド服を着込んだ上に、スカートの下には股の部分が縫い合わされていない恥ずかしい旧ドロワーズまで着用している!~
頂戴いたします、は二重敬語です。
友人は女子で、あなたも女子!
高校の文化祭で、あなたのクラスの出し物はメイド喫茶に決定していた。
「ねっ、ちょっと来てくれる?」
文化祭当日に向かって着実に準備が進む中、あなたはメイド服姿の女子に声をかけられる。髪を左右で三つ編みにしているこの友人とともに、あなたは教室を後にした。
廊下に出ると、そこでも文化祭の準備をする生徒達の姿があった。飾りつけをしたり、廊下に画用紙を置いてマジックのインクを走らせたりしている。
メイド服の友人は窓側に寄って立ち止まり、あなたのほうを向いた。
「試しに来てみたんだ。似合う?」
メイド服を着こなした友人は、スカートの裾を右手で軽く持ち上げた。彼女の着ているのは黒いヴィクトリアンメイド服で、長袖ロングスカートだった。
「うん、似合うと思うよ」
あなたは女子だがメイド服を試着しておらず、ブレザー型の制服のままだ。
「そう、ありがとー。ヴィクトリアンっていいよね~」
笑顔の女子メイドはつかんでいる裾をヒラヒラさせる。
ヴィクトリアン……。それは、英国のヴィクトリア女王が統治したヴィクトリア朝の時代を指す。一八三七年から一九〇一年のこと。遠い昔である。
その期間は産業革命によって経済が発展し、日本ではその当時のイギリスのことを大英帝国と呼ぶ。あなたも世界史で習ったことがあるかもしれない。
ちなみに友人の着るメイド服は、何年か前に文化祭の経費で買われたお下がりだった。よって、購入費はかかっていない。当時の在学生に、ヴィクトリアンメイド好きでもいたのだろうか。
「それでさ……、スカートの中、見たい?」
スカートから手を離したメイドは、あなたに流し目で聞いてきた。おとなしそうな三つ編みのメイドらしからぬ表情だ。
「どうせ下は体操着なんでしょ?」
「下にはちゃんとドロワーズを穿いてるよ。ヴィクトリアンらしい長めのをね。しかも、当時のっぽい、股の部分が分かれているやつ」
当時のっぽい、股の部分が分かれているやつ。
あなたの頭の中で響き渡った。
まさか、そんなものまでセットで保管されていたのだろうか?
高校の文化祭のお下がりにしては、本格的過ぎる。
そもそも、お下がりのメイド服を教室で目にした際、そんなドロワーズなんて、置いてなかった気がする。
よって、股の部分が分かれているやつが彼女のスカートの下にあるはずがない。
あり得ない。
けれども。
あなたは興味が湧いた。興味が湧きまくっていた。
本当にそんなドロワーズが存在するのだったら、ぜひ見ておきたい。
しかしながら、見たいなんて直接頼むのは大変恥ずかしい。それに、即座に食いついてしまうのも味気ない。
「……そんなの、穿いているわけがないでしょう? メイド喫茶のメイドさんだって、そんなの穿いてないでしょうし」
あなたはさり気なく否定した。
「見たことあるの?」
「推測だよ、推測。とにかく、そういうのを穿いてる人なんて、いないでしょってことが言いたいの」
「じゃあ本当に穿いていたら、帰りにアイス一個ね?」
「いいよ」
本当に、いいよ、だった。
アイス一個分で希少なものが見られるのなら、惜しくはない。あなたの好奇心がアイス一個分の価格に勝った瞬間だった。
さて、股が開いている古い形のドロワーズは、旧ドロワーズと呼ばれるのは、あなたもご存じだろうか?
ドロワーズは元々、スカートの下や太ももを隠すために穿かれるようになったものだ。しかし、当時のスカートは脱ぐのに時間がかかるものだった。スカートを脱がずにトイレで用を足せるよう、ドロワーズは股の部分が縫い合わされず、開いていたのである。
当然、現在のファッションやコスプレで着用されている大半のドロワーズは、きちんと股の部分が隠されている。
だからこそ、あなたは旧ドロワーズが気になった。
どこで手に入れたのかは知らないが、旧ドロワーズを拝めるチャンスが巡って来たのだ。
あなたは息を呑む。
そんな中……、
メイド女子は、大胆に長いスカートの裾をたくし上げる。
ドキドキするあなた。興奮の気持ちをどうにか表に出さないように隠す。
楽しげな顔の友人。
ゆっくりと、確実に、スカートは上に向かう。
とうとう彼女は、あなたに真っ白なドロワーズを見せつけた。
間違いなく、旧ドロワーズだ。
そのドロワーズは確かに、股の部分が左右に開いている。切れ目をつけたとかではなく、最初からそういうふうに作られた本物であった。
だが、開いた部分が黒い。
明らかに人工的な、黒色だった。
「ざんね~ん、下に短パン穿いてましたぁ!」
彼女が黒い短パンの上に旧ドロワーズを重ねていたという、衝撃の事実が明らかになる。
開放的な際どい部分は露出していないものの、そこから短パンを覗かせている。この光景が実に珍妙だ。
また、白い生地のドロワーズの下に穿く短パン全体が若干黒く透けているのが、なんとも言えない。
素肌の上に下着をつけて、短パンを重ね履きし、さらには旧ドロワーズを重ね履き。防御力は高かった。
だとしても、同性の前でスカートの中を丸見えにするのは頂けない。
あなたは道徳的ではないと知りながらも、友人の旧ドロワーズを熱心に眺めてしまった。
「ではお約束通りアイス一個を頂戴いたしますね、お嬢さま」
いたずらっぽく作った声で、メイド女子は言う。
「――おいお前ら! サボってないで手伝えよ!」
教室のドアのほうから男子が声を飛ばしてきた。
メイド女子はスカートを持ち上げた状態で男子のほうを向く。
男子はすっごいものを見てしまったような顔になっていた。
「これを見たら、アイス一個ってことになってるの。というわけで、ご寄付をよろしくお願いしますね、ご主人さま」
唖然としていた男子は、うろたえ始める。
「……いや、一個どころの価値じゃないだろ。眼福とはこういう時に使う言葉なんだろうな。三個でも惜しくないぐらいだ」
男子は思いがけないことを言い出した。
「えー、本当っ? 嬉しいっ!」
女子はスカートから放した両手を拳にし、上に向けて喜んだ。
その後、女子は交換条件とともに、アイス代としては太っ腹の千円札を男子から受け取った。
交換条件とは、文化祭当日に男子の接客をすること。女子メイドはこれをあっさりと引き受けた。
「千円は安かったんじゃない? あのドロワーズの元取れるの?」
放課後に立ち寄ったアイスクリーム専門店であなたが友人に聞いても、彼女は全然損をしたような顔をしなかった。
「お姉ちゃんからの借りものだから、元手はゼロだよ。というか、お姉ちゃんにも穿いてるのを見せてあげたら、お小遣いもらえちゃった!」
ということは――、
男子は貴重なドロワーズのたくし上げを見られたし、文化祭でメイドからのおもてなしを受けられることが約束された。
友人はお金を手に入れて、帰りにアイスを食べることが出来た。
あなたは友人にアイスを一個おごるどころか、逆に余った男子のお金でアイスをタダでおごってもらえた。結果として、お財布の中身を減らすことなく、旧ドロワーズを拝見出来たのだった。
今回の一件では、全員が得をしたと言える。
中でも、あなたが一番お得な気分を味わっただろう。
……文化祭当日になるまでは。
□
文化祭の日に、あなたは愕然とする。
「お姉ちゃんがもう一つ貸してくれたよ~! 良かったね~っ!」
メイド服に着替え終えたあなたは、友人にそう話しかけられた。
全然良くない。
「これを穿いて私と一緒に写真撮ってくれたらレンタル代はタダでいいって!」
あなたには究極の試練が与えられた。
(終)
本作は旧ドロワを書きたかっただけでした。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
あなたのための変態作品は他にも色々ありますので、作者の別の作品もどうぞお読みになって下さいね。よろしくお願いします。