教訓
僕は溜息をついた。
最初から、無理な話だったのだ。
夏!と言えば怪談。ホラー。
という事で、僕の担当である先生に絵本の依頼がきた。
絵本…
この時点で不安だった。
その作風は
淡々とまるで誰かに聞いた話を、そのまま書いたような小説。幽霊にインタビューでもしているような。
長いその人生を聞いて文章にしたような。
そんな人が子供に向けて短い文章で、
絵を入れられるようなモノが書けるのだろうかと…
出てきた原稿はやはり淡々とした。
そして何も救われない話。
ある優しい小学生の女の子がお母さんにお使いを頼まれる。
かわいい妹が風邪を引いたから、妹の大好きな苺を買いに。
お母さんが褒めてくれる
妹に元気になって欲しい。
お父さんが買ってくれたお気に入りの赤い靴を履いて。
途中、踏切に差し掛かった時
自分と同じ年ぐらいの女の子が座り込んでいる。
大丈夫?
声をかける優しい女の子。
座り込んでいた子供が顔をあげる。
瞳が真っ黒な感情のない表情。真っ赤な口を開けて笑いながら、優しい女の子を電車がもうくる踏切の中へ突き飛ばす。
ラストは血に染まった踏切と飛ばされた赤い小さな靴。
先生!
これ絵本なんですよ。
ただただ残酷なだけで意味不明です。
女の子は何も悪い事してないのに。
優しい親のお使いをしようとしてただけなのに。
座り込んでた子供は何なんですか?
何がしたかったんです?
そう。教訓がないんですよ!
悪い事したら、こういう目に合う。
良い事したら、救われる。
そういうものでしょ。
僕が先生にそういうと、先生はキョトンとしている。
やはり、ただ子供を怖がらせれば良いと思ったんだろう。
教訓…書いたつもりだったんですが…
え?何がです?
事故だって、天災だって、殺人だって、霊現象だって悪い人だけが合うわけじゃないでしょう?
そこをたまたま通っただけ。
仕事をしてただけ。
住んでただけ。
優しい人も真面目な人も子供も大人も関係ない。
家族や友達や大切な人、もしくは自分ですら突然巻き込まれるかもしれない。
心の準備をしましょう。
って。
僕は、なるほど…としか言えなかった。