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入道雲と神様

作者: 徒華

寝苦しい夜を抜け蝉の声で目を覚ますとすっかり昼だ。

空では大きな入道雲が太陽を覆おうとしている。

入道雲を見た私は少し顔をしかめる。

雨は嫌いだ。

真っ暗になり神様の涙が降ってくる。

まるで私だ。

いつも憂鬱で消えたいと願う私。

私はなぜ産まれた?

違う。親に産まれさせられた。

神に願っても消えられない。


少し泣きそうになり布団にくるまっていると下から

「雨降りそうだから洗濯物いれて!」

と焦った母の声が聞こえる。

重たい体を起こし隣の部屋のベランダへ出る。

夜中も雨が降ったようでベランダに置いてあるバケツには水が張っており太陽の光を受けてキラキラと光っている。

手早く洗濯物を取り込む。

あぁ雨がまた降るんだったらバケツの水も捨てておこう。

溢れられても困る。

バケツを持ち1階へ降り、庭に出る。

ふと水に何かが浮かんでいる。

虫のようだ。

半透明な羽で大きさは爪程もない。

「それカゲロウじゃない?」

いつの間にか出てきていた弟が言った。

「カゲロウって1日で死んじまうんだよな。しかも脱皮の段階で死んじまったり。上手く飛べなくて風に漂う姿が陽炎に似てるからカゲロウって名前らしいぜ。学校で習ったときなんて可哀想なんだって思った。でもこう雨が降ると卵が色んなとこに散らばっていいのかもな。」

弟はそれだけ言って帰っていった。

私も国語の教科書で見た気がする。

カゲロウは口が退化してものが食べれない。

だから胃の中は空気ばっか、でもメスは腹から喉にかけて卵を持っているらしい。

そこまでして産みたいのだろうか。

命を賭してまで産みたいのだろうか。

雨がポツリと降ってくる。

まるで神様が何かを哀れんで涙を流しているみたいだ。

カゲロウは今も卵を産み続けているのだろう。


「ねぇ。カゲロウはなんで沢山産むんだろうね。その力を食べることとかに使えば生きられるのに。」

部屋に戻り弟に投げかけた。

「さぁ。わかんねぇけど·····愛しいからじゃね?」

「愛しい?」

「きっとあの卵達は望んで卵になったんだ。産まれたいと願うから。そうなったら親は叶えてあげたくなるんじゃね?幼虫達は産まされるんじゃなくて産まれたいと願うんだ。」

まっすぐな瞳で見られ言葉に詰まる。

2階に戻り考えてみる。

弟が言うことは私達にも当てはまりそうだ。

窓を見る。

いつの間にか入道雲は晴れており神様は笑ってた。

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― 新着の感想 ―
「さぁ。わかんねぇけど·····愛しいからじゃね?」 ∀・)弟さんのキメ台詞のようなフレーズがとっても素敵。 ∀・)ひと言ひと言が丁寧な文学作品でした☆☆☆彡
[一言] カゲロウのお話が素敵でした。 タイトルやストーリー、題材すべてが美しかったです。 入道雲や急な雨、カゲロウといった、物語に登場するもの全てから、夏の終わりの切なさも感じられ、耳元で蝉の声が聞…
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