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私がいない世界  作者: emi
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9

突然、誰かに肩を叩かれ、驚きながら振り返ると、


そこには、


1年半前に亡くなった彼の父親が立っていた。




私は、驚いて、思わず悲鳴を上げてしまった。




『な、な、何で?お義父さん!


あっ、あの、ご無沙汰しております。』




私はきっと、これまでにしたこともないような顔をしていたのだろう。


驚く私の姿を、お義父さんは、可笑しそうに眺めていた。




『死んだのか。』




漸く、お義父さんは、口を開くと、


腰を抜かしてしまった私の隣へと、ゆっくりと座った。




私が落ち着くのを待って、


お義父さんは、お盆の里帰り中なのだと話してくれた。




よく周りを見渡してみると、


とても混雑しているように見えた大勢の人達の何割かは、


談笑には加わらず、


ただ楽しそうに、家族の様子を見ているだけだった。


恐らく、彼らもまた、お盆の里帰り中なのだろう。




お義父さんと色々な話をしながら、


どうにか彼を笑顔にさせる方法がないかと相談した。




『私は、側にいるよ。


そんなふうに伝える方法は、何かありませんか?』




お義父さんは、黙って私の話を聞いてくれたけれど、


真面目な顔をしながら、変なことを言い出した。




『心霊写真、撮るか?』




『え?なにそれ?


それじゃ、まるで幽霊じゃないですか?』




思わず笑ってしまった私に、お父さんは言った。




『まぁ、生きてる人から見たら、俺たちは、そういうことになるよな。


でも、今の俺たちにとって、


心霊写真は、一番、オーソドックスで、


割と簡単に、この存在を伝えられる方法なんだよ。』




お義父さんは、相変わらず真面目な顔をして、


写真に映る方法を教えてくれた。




『じゃぁ、次の花火が打ち上がったら、やってみようか。』




お義父さんは、


相変わらず、無表情のまま、花火の写真を撮り続ける彼を眺めながら、


花火に紛れて写真に写り込んだらどうかと提案してくれた。




私は、次の花火に写り込もうと決めた。




やり方は、簡単だ。


花火が上がると同時に、高くジャンプして、強く念じる。




自分には、もう重力など関係ないことを意識して、


飛びたい高さまでジャンプすることがコツ、らしい。


そうすれば、花火に紛れて、心霊写真が完成するというわけ。




次の花火が打ち上がり、


私は、空高くにジャンプして、彼に向かって最高の笑顔を向けた。


そうして、私は、


彼が撮った花火の写真に、無事、写り込むことに成功した。




側にいるよ




これは私から、彼へのメッセージ。




『ねえ、あなた。綺麗に撮ってくれた?』






今夜は、彼の実家に泊まることになった。




花火大会が終わり、彼の実家へ着くと、


先ほど撮った花火の写真を1枚ずつ見つめる彼は、


とある写真で手を止めた。


さっき、私が写った写真だ。




『あっ!気付いてくれた?』




彼の隣に座って、一緒に写真を見てみると、そこそこの写り具合だった。


これなら、私だと、気が付いてくれるはず。




写真の写り具合に満足しながら、彼の顔を覗き込んでみると、


彼は、今日初めて、笑顔を見せてくれた。




『ねぇ、あなた。私は、すぐ側にいるよ。


ほら、こんなに近くにいるんだよ。』




私は、微笑む彼を、そっと、抱き締めた。


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