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私がいない世界  作者: emi
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彼がいない世界

私のこと、看取ってね




は?嫌だよ




彼を見送ってからの私は、


あの頃の2人の、


こんな他愛もないやり取りを、何度思い出しただろう。




あの頃の私は、


彼なら、私が側にいなくても大丈夫だと、


本気でそんなふうに考えていた。




物知りで、聡明な彼なら、私が側にいなくても、


きっと、上手に生きていけるのだろうって。




だって、彼はとても強い人だったもの。




それなのに、


私が思いを巡らせた、私がいない世界にいる彼は、


あの頃の私と同じように、ボロボロな彼だった。




強く逞しいはずの彼は、


私が見たことのない涙を流し、


笑うことなど、初めから知らなかったかのように、


無表情のまま、私がいない時間を生きていた。




彼ならきっと、私がいなくても大丈夫。




どちらが看取るか、


そんな話をしていたあの頃の私が、そう考えていたように、


あの会話をした頃の彼もまた、


私と同じことを考えていたのかも知れない。




お互いに、


この人なら、きっと大丈夫だと。




私がいない世界にいる、


少しも大丈夫ではない彼に寄り添いながら、


彼の気持ちを知れたような気がする。




あの日、息を引き取った彼は、


私が思いを巡らせた自分と同じように、


私たちに寄り添い、声を掛けてくれていたのかも知れない。




ここにいるよ


大丈夫だよ




そんな彼の声に気付くことなく、


声を上げて泣いていた私たちを、


どんな気持ちで見つめていたのだろう。




あれから、時間を掛けて、


私は、彼にも見せてあげたい素敵なものを、


出来るだけたくさん集めてみようと考えるようになった。




この世界には、


見ようとしなければ、見つからないような、素敵なものがたくさんある。




それを教えてくれたのは、側にいてくれた頃の彼だった。




ねぇ、あれ見て。




いつでも、私とは別な視点で物事を見ていた彼は、


私が見つけるそれとは違う、


別な素敵なものを見つけては、教えてくれていた。




今の私が、たくさんの小さな素敵なものをみつけることが出来るのは、


あの頃みたいに、私の隣で、


素敵なものを見つけた彼が、指差したものなのかも知れないね。




ねぇ、あれ見て って。




だって、もしもあの時、何かの運命が違っていて、


あの日、私がこの世を去っていたのなら、


私がいない世界を生きる彼らに、私はきっと、


同じことをするはずだから。




笑っていてほしい




私は、いつでもそれだけを願って、彼らの側で、


大丈夫だよ


私はいつでも側にいるよって、


そんなふうに語りかけるはずだから。




ここに思いを巡らせた、私がいない世界と、


私たちの現実である、彼がいない世界。




どちらの世界でも、私が私であるように、


あの頃と変わらない彼が、きっと何処かにいるのだろう。




彼が何処かで、笑っていてくれますように。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


emi

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