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スクール籠城  作者: 成崎夢叶
開幕
9/10

二つの世界線

レンはそのニュース記事を見るや否や、有事の際のために作っておいたチャットグループで、先ほどの記事のスクリーンショットとともに片頭痛の影響がいまだに残るモカを除いて今すぐに集まれる者は体育館に集まるようにメッセージを送信した。

レンが体育館に着くころにはほかのメンバーも集まっており、動揺を隠せないようだった。

「あれ?セイヤ先生は?」

「何か確認してからこっちに向かうってメッセージ、送られてきたよ。」

セイヤの不在を疑問に思いつつ、集まったメンバーは動揺が収まらない。

タカノはハッと何かに気づいたような表情をした後にパソコンに電源を入れる。

暫くもしないうちにセイヤが戻って来て、口にしたのは衝撃的な発言だった。

「ここは俺らのいる世界じゃない、恐らくゲームの世界。」

「セイヤ、それは一体。」

「ジュン先生、俺らは今までこの学校から出ようとしませんでしたよね?外に出る気が無かった。今確認してきたんですけど、ゲーム開始だとアナウンスが告げた当初は開いた扉が今は全く開かないんです。」

「あ、ほんとだ、窓とか開かない。」

ユキが試してみるも、窓に見えていたものは名ばかりの装飾がなされている壁のようなものであった。

「つまり、籠城以前に閉じ込められているってこと?」

「それに近いんじゃないかと推測します。多分、第二体育館が大浴場へ変えたとき、俺らはゲーム世界に転送されたということだと思います。そして俺らを隔離させた後、学校の爆発に至った、俺自身の考察だけなので、審議はわかりませんが。」

セイヤの読みはおおよそあっていて、そしてほかの皆を納得できるほどにどこか説得力があった。タカノはこの前言っていた意味深な発言の正体は、こういうことなのかと自己解決をする。

「生き残る、だけじゃなくて逃げ出すも視野に入れることが必要かな。」

ケイの言葉に、頷く者もいれば、その言葉の真意は共感できるものの、いまいち攻略法がわからず頭をかしげる者も少なくはない。

「まって、コト、今思い出したんだけどさモカの偏頭痛と吐き気が起きる前にモカってスマホ持っていたよね?」

レンの意見にコトは頷きそして気づく。ジュンやユウマとどんどんその事実に気がついていく。

ジュンはメモを取り出して、やっぱりそうだと確信する。

「一番最初にユキが悪夢を見たあの日、モカが見ていた夢は学校が崩落する夢。つまり俺らの見る悪夢は向こうの世界の情報っていうわけだ。つまり今まで見てきたユキの夢にも何かしらのヒントがあるはず。」

「あ、そういえば今日の夢は今までで初めてちゃんと人の顔が見れたんだ。男性で、右頬から唇にかけて大きな傷のある身長の高い若い人。」

「おい、ユキ!その男性は片目を隠していたか!?」

勢いよくユキに迫るハルの気迫に動揺しながらもユキは二つ返事で頷いた。

そのときマユカは気が付いた。隣にいたタカノの顔色が次第に悪くなっていき、今にも倒れそうなほど呼吸が乱れていることに。しかし、気が付いたときにはもうすでに遅くタカノの体は傾き落ちる。頭が床に着く前に、何とか駆け付けたユウマが体を抑えるも彼女に意識は既になさそうだった。

「ハル、予定変更だ。俺のことを含めて全て、話せ。」

「了解、先生(にいさん)。」

ユウマは意識を失ったタカノを抱きかかえてモカの休む視聴覚室へ向かう。ハルはその様子を見送ってからすべての事情について話し始めた。

「一番加瀬家の当代の兄、一番加瀬秀也がタカノの父親で、秀也には二人の子供がいた。タカノと、そしてその兄な。兄は厳格で自分より才能を持っていた子供二人を恨んでいたので、タカノの兄に暴力を振るったり、挙句の果てに自分の妻を自殺に追い込んだりと問題事が絶えない一家だったんだ。名家ではあるんだけれどな。多分ユキがみた男性の姿っていうのは、一番加瀬貴乃の実兄、一番加瀬尊也(とうや)で間違いないんだ。だって彼はゲームの仕事についていたからな。」

「じゃ、じゃあタカノのお兄さんが私達をこんな目にあわせたってこと!?」

「いや、まぁ俺らをここに運んできたのはトウヤさんのせいなんだろうけどこれは多分トウヤさんは残り一か月もない余命をもって実の父親を裁こうとしている。現にタカノからノノに託され調べてもらった資料で分かっているだろうけど、全員の合意の上で起きた事件だ。」

コトは先ほどまで持っていた幼馴染の調査資料を握りしめ、呟く。

「じゃあ、虎波音姉さんは私の敵になっているの・・?」

「それは多分違う、落ち着けコト。俺も詳しいことをタカノから聞いていないが、ある時から虎波音さんは豹変したんだ。まるで違う人物かのように。だからそこは切り離して、もうコトの知っている千鶴虎波音は生存しないかもしれない。」

ショックを隠し切れないコトをノノとマユカが慰める。

ユキは先ほどからユウマとハルのある会話に引っ掛かっていた。

「あ、なぁユウマ先生がさっき言っていた俺のことってなんだ?」

「うげ、俺それもやっぱり言わなきゃいけねぇのかよ。本人が言えばいいって話なのに。」

ため息をつき、もう一度深く座り直して話を続ける。

「一番加瀬貴乃(たかの)の婚約相手が雅樂代(うたしろ)遊馬だったっていう、昔の話だよ。今は遊馬義兄さんの方がタカノの将来とか考えて否定しているけれどな。あ、後お前らに行ってなかったけど俺とタカノはタカノの母親が自殺した時から養子縁組したから義兄弟にあたるぞ。従兄だけど。」

次から次へとハルの口から飛び出てくる衝撃的な発言に生徒たちは動揺を隠せないでいた。

「んで、そっちの様子を教えてくださいよ、聞いているんでしょ?マナさん。」



「ありゃ~、バレていたかぁ。流石にトウヤくんの家系の洞察力は舐めることはできないねぇ。君たちの推測通り、そこはゲームの世界だ。君たちのいた現実世界じゃないよ。」


笑壺に入った女性の表情が宙に浮いたスクリーンを通して体育館にいる者たちを睨みつける。まるで蛇に睨まれた蛙のようになる面々を差し置いて、ハルはマナと呼んだその白衣の女性にまるで喧嘩を売るように反抗心を剥き出しにしながら質問を続ける。


「本当のところは俺らをどうしたいんだよ。」

「そりゃあトウヤくんの意思通りにタカノちゃんをその世界に縛って殺すよ。ハルくんならわかるでしょう?タカノちゃんみたいに洞察力に長けた子はうちの会社(いえ)には要らないの。」

「・・・・そうか、わかったぜマナさん。俺達とあんたたちは永遠に分かり合えないっていう事。」

「あらそう、つまらないわね。じゃあその仮装箱庭(がっこう)の中で、永遠に縛られていればいいわ。」

消滅したスクリーンに向かって舌を出すハルにようやく状況を理解したケイが話しかけた。

「ハルは、交渉に失敗した、ということ?」

「いや、元からあんな拙い交渉術で打ち負かすことができるとは思ってねぇよ。マナさんを打ち負かせるのはユウマ義兄さんか、タカノくらいだ。俺が聞きたかったのはタカノをどうするかだ。多分あの言い分だと、この世界でタカノを殺すなんてことはしない、それだけ確認できればいいのさ。」

「どういうことだ?」

ケイの問いに一拍おいてから答えたハルの顔は今まで誰もが見たハルの表情の中で最も悪意に満ちていた。

「タカノとユウマ義兄さんペアでの交渉術を公にしても問題ないってことだよ。」

その笑みはまるで狙いを定めているときの獣のようであり、いつもの地に足をつけて行動するようなハルではない。まるで別人へとなり果てたそのハルの本性に触れた一同は唖然とすることしかできなかった。


「あ、もしもし。うん、知ってる今聞いた。取り次ごうか?」

ケイが電話に出たかと思えば、その電話はレンに差し出される、電話を取り次げといわんばかりのケイの表情にしぶしぶ彼の携帯を受け取った。


「レンか、どうも久しぶり。燕炎雷、覚えているかな、華の兄です。急に電話してごめんね。聞きたいことがあって。」


「どうかしたんですか?」


「俺がレンに伝えることは二つ、一つは連絡。俺も含めて少人数体制の雪野原高校爆破事件に対する捜査チームが結成された、その中に行方不明者捜索班っていうのがあって俺もそこに配属された。なんか手掛かりになることがあったら教えてくれ。


そしてもう一つ。華がパニック障害を今も引きずっている、多分急な変化によるものだろう。だからお前たちもあまり急ぎすぎるな。二の舞になりかねない。じゃあ以上だ、また連絡する。」


そういって向こうから切られた電話に戸惑いながらも端末をケイへと返す。そして炎雷から告げられた警察の捜索チームの件と、クラスメイトであった華の件を電話越しに伝えられた内容の範囲内で事細かに説明した。


「え、逃げていたとしても被害は及んでいるの。」

ノノの震え混じりに呟いたその一言で冷静となり、静まり返る。


「そういう性格だよ。兄貴は。あの人は父親に似て、目的の為なら手段を択ばない、まるで冷徹な鬼のような人物だ。」

ユウマに肩を支えてもらいながら体育館へ戻ってきたタカノにコトとマユキ、そしてノノは駆け寄った。

「マユキ、コト。二人でモカのところに行ってあげて。そろそろ目が覚めるだろうけど、あの暗い部屋に一人でいるのは不安だろうから。」

「わかった、タカノも無理しちゃだめだよ。」

「わかっているって。」

そしてハルの方へ迫っていき、立ち止まったかと思えば彼の前で破顔した。

「随分本心出したんじゃないの、そっちの性格の方が好きだけどな。」

「その言葉、まるっきりお前に返すけど?」

学校の皆の前で内面を出せるほどまで打ち解けられたのであろうと察するユウマは、今度起こる一番加瀬家の内情に巻き込んでしまうことに後悔しながらも彼女たちを守るのは自分だと再度認識したのであった。


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