千鶴 虎波音と海崎理
「虎波音姉さんは今の学校を出て何の仕事をするの?」
いつの日か幼馴染に聞いたその質問の答えは、「警察官になって不幸を減らす」であったはずなのに。虎波音が高校に合格し、一人暮らしを始める前まで、家が隣で幼いころから交流があった二人は所謂、幼馴染という関係性で銘打つのが正しいだろう。
コトが中学生になってからは互いが忙しく中々会うことができなかった。寧ろ、避けられているようにも感じ取られた。互いに夏休みで帰省しているはずなのに、会おうという約束は何か別の理由をつけて回避しているように見受けられたのだ。忙しくない日を聞いても、
なかなかこちらと都合が合わないなんてことも増えてかれこれ三年近く会っていなかった。最近はどうせ誘っても会えることはないのだ、と諦めをつけて連絡しなかったので彼女の携帯の電話番号を目にするのも久々であった。
「お願い、姉さん、出て・・・・」
「この電話は現在、使用されておりません。」
理の願いも空しく、機械の音声が彼女の耳に響いた。もう意味の成すことの無いその番号を自分の電話帳から削除して、スマートフォンの電源を落とす。
『物事を調査する時には、決して私情など挟んではいけないのだよ、その気持ちでどこか操作に抜け漏れが生まれてしまうからね。』
コトの好きな推理小説の一節が脳内を駆け巡る。
「私情なんて挟んじゃいけない。そうだよね。」
「あ、コト。少しは休めた?」
廊下を歩いていればどうやら自分の役目を終えたらしいレンはコトに話しかけた。
「うん、ありがとうレン。モカはどう?」
「まだ休んでるよ、でも倒れたときよりはよくなってるみたい。あれ、その紙って。」
ノノに渡された資料をレンは一目見て、そして衝撃的なことを呟いた。
「この人って警官だよね?なんで調べる必要があるんだろう?」
「え、」
コトはそのレンの言葉の意味を理解できないでいた。じゃあなぜタカノは自分たちにコハネを調べろというのであろうか。警官の中にスパイで制作チームのメンバーが潜んでおり、情報を操作しているということも考えられなくはないが、そのような行動をしてどんなメリットがあるのかはコトには分からなかった。
「ねぇ、レン。どうしてこの人が警官だって思うの?」
「え、だって見たことあるよ。華の兄さんがこの人と仕事していたのを。」
華というのはコトやレンたちと同じ雪野原高校の生徒で、籠城作戦に乗ることなく、学校から逃げ去った生徒のうちの一人である。華の年の離れた兄は、警察官として務めているというのを、以前華本人から聞いたことがある。
「レン、警察官とこのゲームの開発チームの一員、どっちが本性だと思う?」
事情をかいつまんでレンに相談しても二人で頭をかしげるばかりだ。
「もうタカノに聞いた方が早いんじゃない?タカノなら体育館にいたけど。」
「ありがとう、聞いてみるね。」
そういってタカノの元を訪れようとして走っていったコトを見送ると、携帯の通知音が鳴った。
「は?」
レンは一人廊下で声を荒げる。決してその驚きの声を他の者に聞かれることはなかったが、強烈な印象を与えたその情報に思わず二度見した。
たまたまレンが愛用しているニュースアプリの速報記事のお知らせの通知音であった。
その記事の内容は
【雪野原高校で爆発事件 生徒9名、教員5名が行方不明。重傷者3名が確認。】
というものだった。
「俺らは無事なのに、どういうことだよ・・・。」