悪夢
あれから一週間、 蓮 湧岐は毎日のように正体の分からない悪夢に遭遇した。ジュンがメモしていった夢の内容も毎日毎日違う内容ばっかりで共通点を見受けることはできない。危険信号が脳を駆け巡っても、なぜそうなるのかが誰一人として理解することができなかったので、ユキは精神的に疲弊していった。
「もうなんだよ!何を伝えたいんだ!」
兵士の襲撃に備えて持っているバスケットボールを壁に勢いよく投げつけてもその夢によるストレスが解消されるはずもなく、やるせない日々が続いていた。
「ユキ、大丈夫か?」
「大丈夫だったらこんなに片端からユウマ先生に教えてもらったストレス解消法を実行してねぇよ、ヒロ。」
「これ、差し入れ・・・っていっても俺はお湯いれたくらいしかしてないけど。」
ヒロの手に握られていたマグカップには、ホットココアが注がれていた。ユキの分を彼に渡して傍に座り、自分の分のココアを啜る。
「・・・ココアなんて懐かしいな。」
「だろ?俺の家で遊ぶ時の恒例の兄貴のココア。たまたま飲み物漁っていたら見つけたからこれだったらユキも休めるじゃないかって思って。」
付き合いが長い友人たちでも群を抜いて付き合いが長いヒロとユキの出会いは小学校までさかのぼる。互いにすぐに友人ができず、馴染めなかった頃に意気投合した。互いに走ることが大好きだったから地域の陸上クラブに親に頼み込んで一緒に通ったりだとか、互いの家を行き来したりして遊んだりしていた。
「俺は、姉さんなんていないし、母親は早くに死んだ男家庭だったら、女性に対して耐性が無いっていうか、話せないだろ。でもそんなときにお前は俺の間に入って仲介して助けてくれたよな。」
「俺は姉貴がいるから、まだ女性と話すのは慣れているからやっただけで。」
「今度はお前が俺を頼れよ。俺はお前を助けたい!」
そのヒロの体育館に響く珍しい大声に、ユキは驚く。その大声は確かに悩むユキの心に叱咤を入れた。
「ありがとうな、ヒロ。」
拳を合わせて笑う二人はどこか吹っ切れたような表情をしていて、ユキは悩んでいたことを忘れられる程に気持ちが軽くなっていた。