一か月の籠城作戦
「あなた方は人類の敵となりました。あなた方を殺すべく、世界中の人々が殺しにかかります。逃げるもよし、戦うもよし。今ここで命を絶つもよし。選択はあなた次第。
長い長い恐怖の時間をお楽しみください。さぁ、バトルの時間です。」
生徒、教員の雑踏、騒音、阿鼻叫喚、まるで地獄を見たように咆哮を上げる者たち。軽いパニック状態に落ちる者は何十と。ここにいてはいけない、とそう察して逃げ出す者も多く、学校内には警報が鳴り響く。
放送器具から聞こえてきた正体不明の声によれば、世界から自分たちが見放されたことになる。
「よくわかんねぇけど、要は外に出るのは危険ってことか?」
「それは正しいのかな、ユキ。結局外に居ようが中に居ようが見つかれば殺される、ただそれだけだよ。」
「なぁ、ユキ、ヒロ。あの謎の声はバトルの始まりだと言っていた。だからこれにも終わりがあるはずなんだ。その時を信じて絶えしのぐしかない。とりあえず人を探さなきゃ。」
「じゃあ、レン。体育館は?人が集まる場所といえば、体育館じゃない?」
「どうすることもできねぇから、ヒロの案に乗るか。」
騒いで逃げようとする生徒及び教職員の荒波の進行方向と逆に進んで、なんとか一段落つけていた男子三人は、体育館に向かうことを決意する。
階段を意気揚々と駆け下りたユキは、不意に目の前に現れた陰で思わず躓きそうになる。
「うおわっ!?」
「おっ、なんだ。ユキか。つまんね。」
「つまんねぇとかいうなよ!!」
その人影は彼ら三人と同学年で会ったハルであった。
ハル曰く、同クラスであるモカ、コトが今、放送器具の準備をしていて、これから学校に残っている者は、集合してもらうように呼び掛けるアナウンスの準備中なのだという。
「なぁ、お前ら。どうせだったらこのバトル、しぶとく籠城しようじゃねぇか!!」
これは正体不明の謎の声から聞こえる実況に、ひたすら抗おうとする者たちの集まりである。
モカとコトによって体育館に集まった者たちは元の人数からしたら一握りであり、上期生になればなるほど人数は少なくなっていった。
「あれ、ハルたちはここに残ったんだ、意外。」
「個人的にはタカノが残っている方が意外なんだけどなぁ。」
「私は動きたくないし、なんならこっちの方がスリルあるじゃん。」
にかっと笑うタカノに対して、ああ、こいつも籠城作戦に乗ったのか、と三人は確信した。
「私のほかには、マユキ、ノノが把握している限りではここにいるよ。マユキとノノは今モカたちのところで、先輩たちは他の人探しに行った。」
「あ、みんなここにいたんだ。」
そういって第二体育館へとつながる通路の方からやってきたのは本校保健体育科教師、ユウマであった。
「ユウマ先生は、外に出なかったんですね。」
「あんなの、出られるわけないって。人がごった返していてさ。俺のところに後、セイヤ先生、ジュン先生、ケイ先生、ユウヤ先生がいるけど教師陣はこれくらいかなぁ。」
「そうはいったって、アナウンス流してこれじゃ、あと五人いるかいないかだよなぁ。」
突如として体育館が揺れたかと思えば、ゲートのようなものの中から鉄で生み出された兵士のようなものが出てきた。
「おおーっと、手が滑ったぁ!」
そのハルの言葉と同時に彼の手に握られていた野球ボールが綺麗に放物線を描いて兵士の胸部に直撃する。どうやら兵士の弱点は胸部らしく、ボールが直撃した兵士は音を立てて、消え去った。一連の光景を見ていたメンバーはこの敵が自分たちを殺しに来ているのだと察する。
「タカノ、これでいい?」
「ユウヤ先生!ありがとうございます!」
「なんとかWIFIは繋がっているから調べ事は出来ると思うけれど、何を調べたかったの?」
「もしかしたら犯人がわかるかもしれないので。ってかほかの先生方は?」
「ケイ先生は家庭科室に、セイヤ先生はノノとマユカを探しに、ジュン先生はモカとコトを見つけに行っている。」
「とりあえず俺らは今タカノを守りつつ、倒していけばいいんだな?」
「ごめん、ちょっとだけ時間頂戴。」
電波の届く範囲内でパソコンであることを調べているタカノにも攻撃が当たらないようにボールで軌道を相殺しつつ、兵士を倒していく。五分も攻防を続けるうちに、敵の攻撃は一時的に止んだので、タカノの無事を確認すれば、今まで見たことがないようなまるで顔面蒼白という言葉がここまで適していることはないだろうと推測できた。
タカノが恐怖心交じりに差し向けたパソコンのディスプレイに映し出されていたのはブラウザゲームの待機画面。そこでプレイヤーが操作する自分の肩代わりのキャラクターこそ、先ほど自分たちに襲い掛かってきた兵士とそっくりであった。
「つまり俺らが世界の敵っていうのは、この空間がゲームの世界線になっているってこと?」
「そう判断するのが正しそうだな。ちょっと待っていて、他の先生にも連絡してくる。」
「嘘だろ、こっちは命懸けだっていうのに、相手はまさか本当に敵が同じ人間であるとは思わずに殺意を向けてこっちにやってくるわけだろ。圧倒的に不利じゃねぇか。」
タカノはようやく震え上がりながらもユウヤの力を借りて立ち上がり、声を振り絞った。
「一か月、さっきのWEBページに一か月間期間限定ゲームって書いてあったから、一か月絶えれば、出られるよ。多分。」
そのタカノの声に反応するかの如く、突如として放送器具から音声が流れ始める。
「その通り!いやぁ。思っていたより早く気づかれてしまってびっくりですよ~。一か月間、あなた方が一人もかけることなく生き延びれば、いやぁ、そうですね。一番加瀬タカノを無事に守りつつ、生還したのならば解放しましょう。ただし餓死なんてオチは面白くないので、こちらから食料は人数分配布させていただきますね。それでは。」
「一体何だったんだ?」
「ってか、タカノが狙われているっていうか特定で名指し受ける理由あるの?」
「このゲーム確かに誰が逃げて誰が残るかなんて、不特定だからなぁ。」
「・・・心当たりはなくはないけど・・・。」
推測を始めるタカノに駆け寄る、ノノ、マユカ。そして数分遅れて体育館にやってきたモカとコトに全員の無事を確認した。
「これは多分分散するより、まとまって行動した方がいいと思う。ケイ先生が夕飯の準備始めているから、私達はこれから手伝いに行くけれど、タカノはどうする?」
「私は、もう少しこのゲームについて調べてみる。」
「ねぇ、ユキ。多分タカノは今一番狙われているから護衛よろしくね。」
「おう、まかせとけ!」
こうしてタカノを守りつつ、情報を探る第一部隊と、タカノを除く女子全員、ケイ、ジュンを含めた食料調達第二部隊に分かれて行動を始めた。
「タカノ。」
「ん?どうしたの?」
「お前、パソコンとかそういうの詳しいんだな!」
「まぁね。だから調べるのは任せて。その代わり、私の守護は頼んだよ!」
せめて、みんなの前では笑顔でいようと。
「タカノのことだから大体目星ついてんだろ、あの声。」
タカノの幼馴染でもあるハルが戦闘に向けて武器を調達しているメンバーから少し外れてタカノに話しかけた。幼馴染であるからこそ知っている綾辻家の内情にもまだ明かすべきでないとハルは判断しながら小声で投げかけた。
「別に元から犯人はつかめているけれど、一応次のアナウンスというものが存在するなら言質取っておくけれどね。」
「おお、こっわ。」
笑いながらもそう答えるタカノに、まだ大丈夫だろうとそう感じて、ハルはタカノに手を差し伸べる。
「ハル、タカノ。夕飯出来るよ。ほかのみんなが待っているから。」
「ケイ先生、今行きます。タカノ、ほら。」
ハルが差し伸べた手を取り、タカノは立ち上がった。
「ハルって先生の前だと真面目だよね。」
「うっせぇ。」
ハルとタカノが家庭科室を訪れるとケイの言葉通り夕飯が出来上がっており、空腹をいざなう香りが鼻を擽った。
「全く、お前ら遅いんだよ!!」
「お前は食い意地が張りすぎなんだよ、ユキ。」
全員が椅子を囲み、手を合わせる。
「一か月間、生き残るぞ。いただきます。」
「いただきます!!」