生者と死者
私は、ゲームの仕組みを見破る事は出来た。
しかし、それを目の前に居る男に、堂々と口にする事は躊躇われた。
「どうしたのかね? 急に押し黙ってしまって」
紳士は怪訝そうな顔をし、自分の不満を表現するように悪態をつく。
しかし男の威圧的な態度に気にも留めないで、自分の考えをもう一度整理した。目を瞑り、大きく息を吸う。冷たい空気の塊が私の胸いっぱいに広がり、ゆっくりと吐き出された。
その動作を数回繰り返し、やがて重く閉ざされた口を、静かに開いた。
「貴方、いや、お父さんの言っている事は全て信じる。だから私の推理を一つ聞いて欲しい」
「ほぅ、良いだろう。続けろ」
紳士は表情を崩し、私の発言に少しばかりの興味を持っているようだった。先程の不機嫌そうな様子から一変し、落ち着いた雰囲気が感じ取れる。
「お母さんを含め、村の人間は全員死んだと、お父さんは言ったわ。もし本当にお母さんが死んでいるのなら、お父さんは死者を見ることが出来る。
そしてお父さんには見えないのだろうけど、横にもう一人、笑顔の可愛い女の子が立っている。その子を見る事が出来ないというのは、お父さんには生者を見ることが出来ない」
私はここまで、息も吐かずに言い切る。少しずつ続ける言葉が怖くなり、目の前の男を直視できないでいた。
視線を泳がせ、窓の外を見る。紳士は澄み渡った青空と言ったが、私には相変わらずの吹雪にしか見えない。
「だから? 何だね?」
紳士が続きを諭す。私は未だに話を続けて良いのか、困惑していた。
このゲームにおいて、最後まで真実を話すということは、全てを終わらせるということだ。
しかし、いつかは前に進まなくてはならない。だからその迷いを断ち切る為にも、大きく首を横に振った。
「お父さんは生者が見えなくて死者が見える。それは二人の女の子とお母さんで証明済み。
つまり、貴方に見えている私は、死んでいるって事よ」
自分でも認めたくない、戯言だった。
対する私は、横に立ちつくしている顔の潰れている死者と、父の隣で笑顔を向けている生者を見ることが出来る。つまり、生きている人間も死んでいる人間も見える。だから目の前にいる父と名乗る男が、生きているのか死んでいるのか判別がつかない。
生者と死者、両方を見ることが出来るからだ。
ただ、この推理には一つの謎が残る。死者である母が、私には見えない事だ。本来なら見えるはずだ。
だが、紳士と二人の少女しか、目の前に居ない。
「話を続けるわ。このゲーム、負けたほうが命を絶つことになっている。
でも」
紳士はもう、私に続きを諭さない。認めたくない現実が目の前にある。それから目をそらすように、ゆっくりと窓から足元へと視線を移した。何も抗えない悔しさから、唇をかみ締め、静かに俯く。
「でも、私はもう命がないのなら、このゲームで負ける事はない」
淡々と目の前の男に言い放った。
すると紳士は、私を嘲笑うかのように笑みを浮かべる。そして私にも聞こえるように、ふっと息を漏らした。
顔を上げ、男を見やる。今言った事を、全て否定して欲しい一心で、父を見た。
「違うね。面白い読みだったが、それでは八十点しかあげることが出来ない」
紳士はゆっくりと椅子から立ち上がる。そして杖をつき、私の方へと一歩一歩近づいてくる。その様子は危なっかしくて、今にも倒れてしまいそうだった。
考えれば考えるほど、苦しくなる。苦しみから解放されたい為に、私はもう何も頭に思い浮かべない事にした。ぼうっとした目で、ゆっくりと歩む紳士の姿を追う。
やがて手の届く位置まで男は近づいてきて、椅子に腰掛けている私を見下ろした。その鋭い視線から目をそらすように私は顔を傾けると、すぐそこにいる顔のない少女に目がいった。
私の隣で立ち尽くしている少女も、紳士に視線を集めているようだった。確かに顔はないが、顔の向きからお父さんに注目しているように思える。
二人の歪なものに囲まれて、私は空気の重さから、思わず吐きそうになってしまった。背中を丸めて、大きくむせ返る。手で口を押さえるも、咳は止まらなかった。




