見えるもの
「ほう、お嬢さん。随分と面白い質問をするね。普通、その絵は植物ですか? 人間ですか? 自分で動く事が出来ますか? この部屋にありますか? 凡人はそう質問をする。
だから少しずつ的を絞っていく為、言い当てるまでに時間がかかる。しかしなぜアイラちゃんはそのような質問をしたのかね?」
「お爺さんはその絵を描く時、最初から何を描くか決めていたように迷いなく筆を動かしていたわ。言い換えるなら、描いている時は一つの事しか考えていなかった。
それにこのゲームのルールでは質問に対して嘘を吐くのは一回までとなっている。例え、お爺さんが今回私の質問に嘘を吐いてその場を凌いでも、次の私の質問する番でまた同じ事を聞けば良い。そうすればどんなに長くても、私の二回目の質問でこのゲームを終わらせる事が出来る。
しかも私はお爺さんと違い、何を描くか色々考えを巡らせていて、たくさんの事を頭に思い浮かべていたわ。つまり私と同じ質問をお爺さんがしても無駄という事よ」
私は自慢げに髪を靡かせ、お爺さんに対して勝利を確信したように笑みを浮かべた。しかし目の前の男はふっと笑うように息を漏らし、嘲笑うかのように私を見据えた。
そしてお爺さんは静かに目を瞑り、何かを考えているように押し黙ってしまった。
2分3分と時間が流れていく。時計の針の音が大きく聞こえ、その待ち時間の長さが少しずつ私の絶対的勝利という自信へと繋がっていく。
5分は経っただろうか、沈黙を破ったのは紳士の方だった。
「お嬢さん、この戦争が終わったらどうするつもりだい?」
お爺さんが私の金色に光る瞳を覗き込む。その目はどこか寂しそうにも見え、そのあまりの豹変振りに、私はどうしたものかとたじろいでしまった。
「分からないわ。それよりゲームの方はどうするの? 負けを認めるの?」
相手の紳士に情けをかけないように、威圧的な態度を取る。
しかし私に睨まれているのもお構いなしに、お爺さんはテーブルのコーヒーを手に取り、
慣れた手つきで口元へと運ぶ。
「負けは認めんよ。お嬢さんが随分と憐れに感じてしまってな。描いている時はアイラちゃんの事を考えていたよ」
「分かった。私の絵を描いていたんでしょ? 当たり?」
「残念だね」
お爺さんは感情を出さない機械のように、無表情で淡々と受け答える。私はまたお爺さんの余裕が戻ってきた事に一つの疑問を抱かざるをえなかった。
私の読みは本当に正しいのか?
「突然だがお嬢さん、今日の天気を教えてくれるかね」
私は心の中で渦巻く不安を抑え、ゆっくりと胸に手を当てる。大きく息を吸って緊張を解そうとした。
「大雪よ」
それを聞いてお爺さんは勝ち誇ったような笑みを向けて、私に告げた。
「ワシには澄み渡った青空に見えるよ」




