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ルール

「ゲームって?」

私は回しかけていたドアノブから手を離し、お爺さんの方へと振り向いた。

「まあ、詳しい説明をするからこっちに来なさい」

そう言うと杖を持っていない方の手で、手招きをする。私は吸い込まれるようにお爺さんの元へ歩いて行き、元いた椅子へと腰掛けた。

お爺さんは席に着いたのを確認してから軽く咳払いをし、私の心を見透かしたような目でこちらを一瞥する。

「ルールを説明しよう」

私は心の底から込み上げてくる緊張を隠すように、愛想笑いを浮かべた。お爺さんはその様子を見て真紅の瞳を輝かせる。私の動揺を悟っているのかとても満足そうに見えた。

「このゲームは勝った方が負けた方の言う事を聞く」

「え? いきなり話を遮って悪いけど、それって逆でしょ。普通は負けた方が勝った方の言う事を聞くんじゃないの?」

「まあ、最後まで聞きたまえ」

私は軽く叱責を受け、早くも醜態を晒した恥ずかしさから頬が赤く染まっていく。仕方なく、大人しく紳士の次なる言葉に耳を傾ける事にした。

「負けた方は勝った方にどのような命令を出しても構わない。ただし、プレイヤーのプライドを傷つけ放心状態に陥れる行為、命をとるようなゲームを続行できぬ状態にする行為、ゲームを途中で投げ出す行為は如何なる場合も認めない。

そして夜明けまでにゲームの黒星が多い、所謂負けの多いプレイヤーは命を絶ってもらう。自殺願望の強いアイラちゃんには持って来いのゲームだと思うがどうかね?」

「待って。ただお爺さんが一人でルールを決めたんじゃ、全然平等じゃないわ」

「と言うと、何かハンデが欲しいのかね?」

私はお爺さんが見せた一瞬の隙をついて、自分が有利になるような内容を考える。

そもそもこの雪の中を家まで歩いてきたと言うのが矛盾している。この村の地理をよく知っている人間ですら、雪の中は遭難するから出歩く事は滅多にない。

なのに、初めて村を訪れた杖をつかなければ歩けないお爺さんが一人でここまで来れる訳がない。それ程この村の冬は危険に満ち溢れている。

山々には狼や熊が出没し、凍った川はナチの親衛隊が重砲などを渡河するため、極度の緊張状態から一般人によく誤射する事がある。

それにこの氷点下20度の気温。防寒着でも凍死者が出るのにスーツ姿で凍傷にならずに来れるような場所ではない。

そう考えると消えた母と入れ替わりに唐突に現れるこのお爺さん、どちらも不可解な現象である事は間違いない。

通常では起こり得ない事がこうも続くとなると、この命を落とすと言うゲームも単なるお遊びとは考え辛い。それだけに慎重に言葉を選ばなければならなかった。

「お譲ちゃん、まだかね?」

紳士が待ちかねた様に、私の注文を催促する。

私はもう少し待ってくださいと頭を下げて、テーブルの上にあるポッドからお湯を入れ、体が温まるようにと二人分のコーヒーを作った。

「では、こうしましょう。ハルトマンお爺さんは私がゲームの途中で質問した事には必ず5分以内に答えてください。答えられなければそのゲームは、お爺さんの負けです。勿論、分からないは認めません。その場合、多少の嘘や過大話は認めます」

目の前の男はニヤリと笑い、コーヒーを手元に寄せた。

「良いだろう。では、ゲームの内容に入る。

簡単に言うならば心理ゲームだ。お互い相手に見えないように紙に絵を書き、それを当てれば勝ちという極めてシンプルなものだ。勿論、それだけでは当てるのは難しいから交互にその絵について質問をしていく。ただし、一回だけ質問に対して嘘をつくことを認める。

では、絵を書き始めたまえ」

そういうと紳士は考える様子もなく、筆をすらすらと動かしていく。私はあまりにも余裕の表情を見せる紳士に手が振るえ、頭の中が真っ白となっていった。まるで、自分の心が冷たい手に掴まれているような感覚。

それでも恐怖心を噛み殺し、私は震える手を押さえて絵を描き始めた。

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