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「お爺さん、どこから来た人なの?」
私は思ったことを口にする。お爺さんは顔を顰めて少し悲しそうな表情を見せたが、すぐにまた元の笑顔に戻った。
「ワシの名はハルトマン。この村に少し用事があってね。ベルリンに行く前にここへ立ち寄ったのだよ」
「そうなんだ。この村はとても良い村でしょ。
私小さい頃からここに住んでるけど、川の水は綺麗だし、小鳥やキツネは遊びに来るし、山が近くにあるから緑も多いし、とっても住みやすい所なの」
私はお爺さんが座れるよう木の椅子を用意して、暖炉にマッチを投げ入れた。お爺さんは律儀にも帽子を取りお辞儀をして、椅子に深々と腰掛けた。私も真向かいに同じ椅子を持ってきて暖炉の前に腰かける。
家の中とはいえ、この季節は雪が銀世界のように積もっていて、暖が恋しくなる。私は両手を合わせてその中に息を吹き込み、指の先まで冷たくなった手を温めた。
「アイラちゃん、お化けとかは信じるかね?」
「信じてるよ。まさか、お爺さんお化けなの?」
するとハルトマンと名乗る紳士は椅子から落ちそうなほど高笑いをし、普段でさえ鋭い目をより一層細めた。
「こうやってまた会ったのも何かの縁だ。一つ話を伺って良いかね?」
「良いけど、私に分かる範囲なら」
「はっはっは、そんなに緊張しなくても良い。話というのは、将来の夢や希望とかを聞きたい。何かないかね?」
私は直感的に、この人が別の何かを知りたがっているのではないかと感じた。私自身なぜそう思ったのかは分からないが、この人は私にあまり関心を持っていないような気がする。それにまた会ったというが、私はこの人とは今日が初対面で、全く面識がない。
「将来の夢はまだ決めてないけど、それがどうかしたの?」
私はチラリと窓の方を見て、雪が降り続けている外の天気に憂鬱になる。
この時期はシベリアからの冬将軍が来るから、氷点下20度にもなったりする。そうなると洗濯物は干せないし、私の好きなチョコレートも隣町まで買いに行く事が出来ない。
パラパラと雪が舞う程度なら村の友達と雪合戦でもして遊ぶ事が出来るが、そうなる事は滅多にない。大抵が外にも出れないほどの大雪で、いつまでも家の中に閉じこもってなければならない。それだけに雪は嫌いだった。
「将来の夢はないか。なら、今一番望んでいる事は何かな?」
紳士は帽子の影で顔の上半分を隠し、薄気味悪く笑った。
「こんな事いうと笑うでしょうけど、早く死んで楽になりたい。この世には嫌っていうぐらい束縛する法やルールが溢れている。私はそんな決まり事のない自由な生活を望んでいるの。その為なら家族も友達も恋人もいらないわ」
家族? お母さんを探しているのをすっかり忘れてしまった。
今頃私を置いてこの雪の中を赤軍から逃げているのかもしれない。私は唐突に椅子から立ち上がり、玄関の古びたドアノブへと手をかけた。
「お譲ちゃん、この家から出てはいけない」
「でもお母さんが、雪の中に」
「我々のゲームはもう、始まっている」
私の声を遮るように紳士はそう言った。




