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勝敗

「アイラ、お前はこのゲームの趣旨を、間違って理解している」

 話しかける男を横目に、私は咳き込む口を手で覆った。そして徐に顔を上げると、軽蔑するように見下げる父の姿が目の前にあった。

 

私はすでに死んでいる


 これが、八十点の解答と言うならば、残りの二十点は何なのか? 最初は興味の色を示したゲームではあるが、出来る事ならこれ以上、この戦いには関わりたくないと感じた。

 現実を受け入れるのが怖いのだ。

 私はある程度喉の痛みが落ち着いてから、続きを諭すよう視線だけで訴えかけた。肌寒い空気が、今では嫌悪の対象でしかない。

 呼吸を整えるように白い吐息を吐きながら、上目遣いで敵を見やった。

「アイラはすでに、自分は命を落としていると言った。この過程から間違っている。正確には命を落とす瞬間に居ると言った方が正しい」

「どういう事?」

 私は息つく間もなく口を挟んだ。

 しかし男は、それを無視するように言葉を続ける。

「このゲームは、敗者の命を奪う事を目的としているわけではない。それが分からないか?」

 私は考えるような仕草をとったが、パッと閃く筈がない。そもそも分からないから回答を促している。私が答えを知っているのならば、わざわざこの男に聞くまでもない。父の問いは、明らかに愚問であった。

「よく考えろ。アイラは生と死の狭間で止まっている。なぜ死なないのか? 簡単だ。このゲームに参加しているから、死んでいないのだ。それにどこの父親が、娘の命を奪うためにこんな手のこんだ事をする?」

 冷めた口調で言い放つ。父の目は、すでに悲しみの色を帯びていた。

 私はその様に釘付けとなり、呆気にとられて声を発する事も出来ない。なぜならこのゲームの趣旨を、ようやく理解したからだ。

「お父さんの言おうとする事は大体分かった。このゲームは敗者の命を奪うのではなく、勝者の命を助ける為に行われているのね。一人の命を救う代償として、一人の命が捧げられる」

「そうだ」

 お父さんは間髪いれずに、大声で告げた。

「ワシは娘の命を奪うために、このゲームに参加したわけではない。娘の命を助けるために、最初から負けるつもりで挑んだのだ」

 私はあまりにも意外な結末に愕然として、ぽかんと開いた口が塞がらなかった。何か言わなければならない。そう思いつつも、上手く考えがまとまらない。視点が定まらず、呆然とお父さんを眺めていた。部屋の中が絵の具で塗られたように歪んでいく。

 それでも朦朧とした意識を取り戻すように、自我を保とうとする。嫌だと叫びたくなる気持ちを抑えて、膝に乗せている手に力を入れた。

「でも、お父さんは本気で勝負を挑んでいた。確実に私を殺しに来てた」

 突発的に頭に浮かんだ疑問をぶつける。

「ゲームが終われば、ワシは死ぬ。だから、アイラと少しの時間でも良いから、こうして傍に居たかった。例え娘を脅かすような真似でも、それしか方法がないのなら、仕方がない事だった。それにもう真実を知ってしまったのだから、ここに長居をする必要はないだろう。扉の向こうの世界へ行って、自分の目で現実を確かめろ」

 そう言って、真っ直ぐに玄関を指差した。気がつくと、私は目頭が熱くなっていた。顔の曲線をなぞる様に、一筋の涙が頬を伝う。

 私は何かを決心したようにゆっくりと椅子から立ち上がり、一度もお父さんの方を振り返らないで、現実の世界へと歩いていった。

 ドアノブに手をかけると、黄土色にくすんだ扉は、胃が痛くなるような軋む音をたてながら開く。

 扉の向こうからは眩しい白い閃光が幾重にも放たれ、私を明るく出迎えてくれた。

「やっと来たか」

 澄み渡った青空の下に、一人の少年が立っている。目の前には何処までも草原が続いており、残雪は見られなかった。陽が辺りを焼き尽くすように輝いていて、蝶々が楽しげに花の合間を舞っている。

 私が居た村はどこにもなく、所々に瓦礫や煉瓦が転がっている。それに動かなくなったのか、錆びた戦車も捨てられていた。

 ドイツ軍の物ではなく、見慣れない車体だった。

 その場で一回転するように周囲を見渡した後、目の前の少年に視線を集める。

 少年は私と同じくらいの背丈で、年も近そうだ。凛とした瞳は大きく、鼻も高い。それに滑らかな頬のラインが綺麗で、整った顔立ちである。

 美少年であった。

「我が名は死神。ずっと君の事を見ていた。このゲームの主催者とでも言うべきか。君の代わりにあの男の命、確かに授かった。最初から勝敗は決まっていたのだから、さっさとけりをつければ良かったものを。あの男は僕に、娘を助けたい一心で頼ってきた。対戦者の父親の負けは、ゲーム開始時から決まっていた」

 少年は誇らしげに告げる。私は突きつけられる現実に、自我が壊れてしまいそうなほど心が痛かった。

 このゲームを仕組んだのはこの男でも、お父さんを殺したのは私だ。

「そういえば、最初にお父さんと会った時、村の人間は全滅したと言っていた。私だけ生き残った事に、もう少し不審に思うべきだった」

 私は一旦言葉を区切る。出来る限り感情を押し殺してここまで来たが、心はとうに限界を迎えていた。

「母はなぜ、私には見えなかったの?」

私は荒げる気持ちを抑え、目の前の少年に言い放つ。

「さぁ? 泣き崩れている親の姿なんて、見ない方が良い。気紛れだよ。それより、これから君はどうするの?」

 少年は目を輝かせている。悪気はないのだろう。命を狩るのが仕事なのだから。

「お父さんの為にも精一杯生きる。それが私に出来る、せめてもの償いだから」

 私は糸が切れた人形のように、その場に泣き崩れた。悲しみを共有してくれる人は、もういない。ほかならぬ私の手で、殺したのだから。

お疲れ様です。

ようやく完結いたしました。

途中で作者の勝手な都合により、周一にペースを遅らせてしまい、大変申し訳ないです。

読者が全滅する事も覚悟していたのですが、意外に見てくださる方がいて感激しました。

それと、別の小説サイトで、ライトノベルの新人賞選考落ちした作品がいくつか掲載されていたのですが、

「こ、これで一次落ちなのか?」

っていう作品ばかりで改めて現実の厳しさを・・・・・・

とにかく修行を積まなきゃダメですね。次の作品は三人称神視点で恋愛物にしようかと思います。まあ、何か近況があれば、作者紹介ページにでも書きます。

それではまた、お会いする日まで

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