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書架  作者: ふぃよこ
2/6

魔女の使い

今日の客はまた一段と生きがいい。

野心の火がローブの上からでも見て取れる。

2人は命を狙われる危険と隣り合わせの旅をしている。

私はその逃避行の行く末を知りたくなった。

「亭主、部屋空いてるか?」

まだ昼過ぎというのに早い時間に来る人もいたものだ。

「空いてるよ、今日はもう仕舞かい?」

顔を上げると、狩人の恰好をした男とローブに顔を隠した小柄な人の2人組。訳ありか。


「2階の部屋がいいかな?」

「それで頼む。2,3日連れの疲れが癒えるまで泊まりたい。」

男はそういうと、パスカル銀貨を2枚出した。

「これで足りるかい?」


やっぱり何かあるな。

「相場より多いな、何か特別な手配?」

「私たちは部屋からなるべく出たくない。そこで買い物の代行と

食事を部屋まで持ってきてほしい。」

「では食事は直ぐに持っていきましょう。こちら、部屋の鍵です。」

2-1の鍵を彼に握らす。


「2階の部屋では厩から一番遠いところです。悪臭に苦しむこともないでしょう。」

助かる。と言って連れの背中に手を回して階段を上がっていった。


私はペンを置いて2-1の番号を振った棚に帳簿の綴りから外した一枚を仕舞った。


厨房の手伝いをしていると軽い足音が駆け込んできた。

パティが勝手口に息を切らせていた。

「どうした?急ぎの用か?」

主人の所に帰る前に引き返してきたであろう彼は顔を上げ

「周囲の店や民家に聞き込みをしてまわっている集団が居ます。北東部訛りの4人組です。」

と早口に言った。私の頭にはつい先ほど宿に入っていった2人組のことが頭をよぎった。


「ありがとう。さっきの預り金は君の小遣いにしてくれ。

今後少し厄介をかけるかもしれないからその時は頼むな。」

「分かりました。主人にもこの話をしておきます。」

「助かる。」


彼を送り返してすぐに呼び鈴の音が聞こえた。

カウンターには2人の見慣れぬ服装の男がいる。

「亭主か?」

「そうだ。酒場は夕方からだよ。それとも泊まりかい?」

右の男が革袋を出して中身を見せた。レナード金貨が20枚近く入っている。

「周辺を聞き込みして、先ほどこの宿に2人組の旅の者が入ったと聞いた。

心当たりのあるものを泊めては居ないか?」


「心当たりが多すぎて困るが、お二人は逸れた仲間でも探しているのかい?」

「そうだ。」

「とりあえず、探している人の名前と貴方の名前を教えてもらえないか?」

「俺はケテルだ。ライネスと言う男を探している。」

感情の分かりにくい受け答えだ。髭深いく口元も分かりにくい。


「ライネスと名乗ったものは泊まっていないよ。」

「そのはずは無い。亭主、もしや匿っていないんじゃないのか?」

「私には全ての宿泊客を守る責務がある。匿う以前の問題だ。」

「わかった。ならば一部屋借りれないか。今夜の宿にしたい。」

己の勘を疑わぬ手練れだ。教会や貴族の密偵か。


「一人一泊ラウリー銀貨で1枚。3-4の部屋を使ってくれ。」

鍵を渡すと、静かな2つの足音が階段に向かっていった。



私はペンを置いて3-4の番号を振った棚に帳簿の綴りから外した一枚を仕舞った。

そして、使いのメモを書いたページを2枚胸ポケットに落とした。



「リズ。これを2-1の部屋に忍ばせてくれないか?」

シーツ類を畳んでいるリズに折り畳んだメモを渡す。

彼女はこれが終わったら行きますね。といって鼻歌を歌いだした。


もう一枚のメモを渡す相手は酒場に人が入りだしたころ、

その中をかき分けて街に出てく。


彼女を呼び止めて2枚目のメモを渡す。

彼女に内緒の使いをするのは2度目だ。心配はない。



賑わいだした酒場ではいつものように飲み食いと賭け事、商売の話が弾んでいる。

その中に3-4に入ったあの男も旅の職人のような恰好でトランプ賭けの見物をしている。


例の男は店に出入りする人がいると眼だけでその姿を確認している。

流石の彼も派手な服装の女が入ってきたときは彼女を呼んだ好色な男を

少し鼻で笑ったように見えた。


酒場に酔いが回りきったころに2-1に行っていた娼婦が降りてきた。

彼女は1枚のミントをザージ銅貨2枚で挟んでカウンターに置いた。


嬉しい報告だ。

自分の見立てが当たっていた。そして、彼女らは万事うまくやってくれた。

私がブリジットに渡したメモは娼館の姐さんに届けられた。

そして、今回の私の依頼を引き受けるのに最も適任の娘を選んでくれた。

娼婦が部屋使用料に置いた二枚のコイン。間に挟まれたミントは姐さんと昔に決めた完遂の暗号。


さぁ夜明けが楽しみだ。ブリジットの帰りが待ち遠しい。

最後まで残っていた例の男も諦めて部屋に上がた。静かになった酒場の片付ながら、

明日は彼にも話してみようと考えた。買収は無理でも彼らの身元ぐらいは

話してくれるかもしれない。雇い主が分かれば上出来だ。


いかんな、行商をしていたころの癖が抜けない。きな臭い話。胡散臭い話。

揉め事など一見皆が毛嫌いする事柄を一つずつ紐解いていくと大概なにかの儲け話につながる。


そのおかげでいい思いをしてきたしこの宿もその賜物だ。もちろん手ひどい失敗もたくさんあった。

そういえば、昨夜ラッセルという商人が今回売った武具について話していた。

なんでも、新しい製鉄技術を使った試作品だとかなんとか。

海を越えた先の国の荘園主が所望したとか。


新しい製鉄法は気になるな。もし、鉄製品の生産が簡単になれば

もっと安価で皆鉄が使えるようにもなる。

そういえば、昨年の冬に旅の鍛冶職人の集団を泊めたが彼らも北東に行くと言っていたな。

何かつながりがあるだろうか。



「お姐様から返事預かってきたよ。」

おっと、余計な事ばっかり考えていてお客さんが残っている事をすっかり忘れていた。

外が僅かに白くなる時間に帰ってきた彼女が封書をさしだす。

「ちょっとまってろ、今朝食用意するよ。」

彼女と共に早い朝食をとりながら、例の封書を開ける。


手紙には、

話しは分かった協力します。

メッセンジャーにはマリーという娘を送りました。

年の割に落ち着いた娘で場馴れもしています。

手付金としてラウリー金貨で2枚相当近日中にブリジットに渡してくださいね。

残りの費用はこの件が落ち着いたら改めて清算しましょう。


例の2人組の素性が割れたわ。

男の名はライネス・アレクセイ。北東のパスカル王国の外交官の息子

女の方がマルギット・ティーチ。パスカル王国の商会幹部の娘

追われている理由は駆け落ちをよく思わない身内が手先を仕向けている。とのこと。

2人はパスカル王国を出た後、南下してパウロ公国に入り、

セス教会領を経由してこの町に入ってきたらしい。

この後の動きは未定との事。身に着けているものや荷物の質を見るに旅費は多く持っている。


2人には追手が嗅ぎつけてこの宿に泊まっていることは伝えています。

故に今後は定期的にマリーが出入りして女っ気のない引きこもりが

泊まっているように偽装することに同意を貰いました。

もし、時を見て彼らを逃がす時は協力します。


今度遊びに行きますね。久しぶりに話したいこともあります。

それではしばらく、ごきげんよう。


あの娼婦はマリーというのか。やはり姐さんの見立てには狂いがなさそうだった。


火中の4人については支払いにパスカル銀貨を使っていたから出身地域の予想はしていた。

ただ、外交官と商人の子供が出歩いているのは面白くない。国にいても隠れる

ことぐらいは可能だ。わざわざ国を2つも越えて逃げてくる意味が分からない。


もし、もしも情け容赦のない商人が2-1に泊まっているとしたら。だとしたら、

彼らが大きく儲けれるように力を貸して泳がしてみるのもまた一興というもの。

さぁ客が起きてくる前にもう一人の人間を焚き付けてやらねば。


「ごちそうさま。先に寝るね。」

「あぁちょっと待って、これ姐さんに。」

約束の2枚の金貨と、ラウリー銀貨1枚を彼女に握らす。


夜が明ける前にもう一人

恐らくは彼がこの取引の中心になる。

全ては我が主人の利益の為に。

一人の若者を金の濁流に投げ込まねば。

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