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セイヴァーソウル 魔族討伐隊  作者: ペンギンマン
8/15

出た! 噂の幽霊


 「……あそこに……誰かいる……」


 魔利がそういいながら指を指した方向には少し離れて公衆トイレがあった。


 指を指したまま魔利がゆっくりとこちらを振り返る。その瞳には涙が貯められており、いまにも泣き出しそうだった。


 「誰かってそりゃ誰かいるだろ。公園だし」


 俺がそういうと体を小刻みに揺らしながら首を振った。

 

 「違うよ………そんなんじゃないんだよ……」


 「違うって…」おれはそこまでいいかけてようやく気がついた。こんな真夜中の公園に人なんているもんだろうか? しかもこんな山の上の公園で―――。


 それに人だとしたらそれはそれで怖くないだろうか? さっきのビジターセンターの職員かなんかという可能性もあるが、駐車場には車は一つも止まっていなかった。


 「幽霊かも……終夜行ってきてよ……」 


 魔利が体をブルブル震わせながらそういった。


 「ビビリすぎやろ。パッと見てパッと返ってくればいいだけやん」


 俺がそう促しても魔利は首を左右に振って拒否した。


 「ちっ、仕方ねえな」


 俺は仕方なく公園のほうまで足を運んでトイレの様子を見に行くことにした。


 「俺は幽霊みえないからお前が後ろから居場所教えろよ」


 通りすがりにそう呟くと魔利はうんうんと首を縦に振った。


 トイレはどこにでもあるようなコンクリートでできた白塗りの公衆便所。男子トイレと女子トイレはあるが障害者用のトイレはなかった。どっちとも明かりはついているが人の気配はなしない。まず男子トイレに入ってみる。


 入った瞬間、嫌な匂いがしてきた。公衆便所特有の砂利と小便と雨がまざったような匂いだ。そんなことは気にせず個室トイレの方に目を向けた。触るまでもなくドアは半開きで3つある個室には誰も入ってないことは明白だった。

  男子トイレはクリア。残るは女子トイレだけだが――――。

 

 「いつまでそんな離れた所にいるきだ?」


 俺は離れたアスレチックの影に隠れている魔利に向かってそういった。 


 魔利はさっきほどとはまた別の遊具にうつってさらにさっきより遠くの場所にあるアスレチックから俺を見ている。


 「いまから女子トイレはいるんだけどさ、もし人だったら気まずいから、お前が来い!」


 俺が遠く離れた魔利にも聞こえるような声でそういった。

 しかし魔利はまたしても首を左右にふり「だ、大丈夫だよ……そこにいるの確実に幽霊だし……裸みられて怒る幽霊なんていないでしょ」


「そんなの分かるか! 幽霊さんにも事情があるかもしれないだろ!」


 いやこんな言い争いしてる場合ではない。俺も嫌だが確かめにいかないと。


 俺はビビりながら女子トイレに入っていった。個室トイレは全て閉まっていた。俺は一つ一つドアを開けていった。一つ目は、誰にも入ってない。二つ目も3日めも、そして最後の4つめの前にきた。


 「………」


 最後のドアに手をかけた瞬間、異変に気づいた。


 (ドアノブが硬い、ってか開かない?)


 ドアノブを回してもまったく開かない。誰か入っているのか? しかし、人の気配はまったくしない。


 「誰か入っていますか?」


 ドア越しにそう声をかけた。しかし、返事はない。一瞬ゾッとしたが、もしかしたらドアが壊れているのかもしれない。それなら幽霊とは関係ない。


 俺は自慢の特殊体質の馬鹿力でドアノブを壊すことにした。 


 「開けますよ? いいですね?」


 一応、最後に声をかけた。しかしやはり返事ない。俺は構わず、ドアノブを無理やり回して思い切りドアを開いた。


 しかし、個室トイレの中には誰もいない。ドアは壊れておらず、内側から鍵がかかっていたらしい。ということは―――。

 

 俺は無言のまま後ずさりし、勢いよく振り返った。よかった、後ろには誰もいない。ホラー映画とかならこのあと目の前に血塗れの女の霊がいたりするのだが。


 摩利が見たという瘴気の塊はどこかへいってしまったのか、それとも幽霊だからその場で消えてしまったのか、どちらにせよここはもう心配ないらしい。 


 (あいつには何もいなかったって報告しとくか……)


 俺は心の中でそう呟きながら、女子トイレを後にしようとした。トイレの出口まで差し掛かったとき、それは目の前に現れた。


 髪を肩にかからないくらいまでに切り揃えた少女。逆さまになって出口まで待ち構えていた|()()()俺は目があった。

 「……えっ……」


 俺があっけに取られて身動きがとれなくなっていると、逆さまで天井に指をかけた少女がこう声をはっした。


 「ばあ!」 


 「うわあああああああ!! で、出たあああああああっ!!」


 我に帰ってそう叫んだ俺は、目の前に少女がいるのも忘れて全速力でトイレから脱出した。


 「きゃああああああ!!」


 外で待機していた摩利も俺の悲鳴を聞いたのか、少女のような叫び声を上げて、一目散に逃げ出した。


 「摩利はさっきのやつ見えてたんだな!?」


 「ついてこないでよ! こっちに来ちゃうじゃん!」


 「あそこに隠れるぞ!」

 

 俺たちは逃亡しながら、公園を抜け出し、施設にある植え込みに飛び込んだ。


 俺と摩利は植え込みの隙間から公園のほうを覗きこむが、さっきの少女の姿はなかった。


 「見えてるんだったら、いってくれよ」


 植え込みに背を向けて、俺が摩利をそう責めた。


 「仕方ないじゃん! 怖かったもん! それにずっと悪能力発動させてることなんてできないし、見えなかったもん!」 


 「危険種に容赦なく斬りかかるやつがなにいってんだ?」


 「幽霊は別なの! それに今まであんなのみたことなかったし、終夜だってビビってたじゃん!」


 俺はため息をついて、言い争いを中断してもう一度公園のほうを覗き見た。さっきみた少女はもういないようだ。


 心霊ビデオだと、一度幽霊を発見したあとは、消えることがおおいがこのまま同じところにいたらどうなるのだろうか? 


 「なにしてるの?」


 唐突に女性の声が聞こえた。声の聞こえたほうに顔を向けると、俺と摩利を挟んだ真ん中にトイレにいた少女がぬっと、顔をだしていた。


 「ぎゃああああああ!」

 

 俺はまた叫び声を上げて、植え込みを突き破って公園のほうに逃亡した。摩利も俺に続いて悲鳴を上げて走り出したが、なにかにつまづいたらしく、「グエッ!」という声を発して転けてしまった。


 俺は公園の中心まで走ってから、ハッと思い出して、足を止めた。


 (そうだ。俺達は幽霊を成仏させるためにここにきたんだ)


 「ひどいよ! 終夜置いてかないでよ~!」


 俺が立ち止まってすぐ、転んで出遅れた摩利が追い付いてきた。


 摩利が追い付いてからすぐ、施設の植え込みのほうに振り替えるが、さきほど出てきた少女の姿はまたも消えていた。


 「ねえ終夜、聞いてんの!?」


 置いてかれたことに腹をたてた摩利が俺の胸をぽんぽんと叩く。


 「摩利、俺達がここにきた目的はなんだ?」


 俺は摩利のことを無視してそう返した。


 「え?」


 きょとんとした摩利に構わず、俺は誰もいない目線にこう尋ねた。


 「誰かいるなら、出てきてくれ! 俺達は敵じゃない。お前に会いに来たんだ」


 俺が姿の見えない、幽霊にそう問いかけた。真夜中の公園に俺の声が響く。


 「ばぁ!」


 「うわっ!」


 俺の問いかけに答えるように、隣にさっきの少女が現れた。俺はいきなり現れた少女に驚いて腰を抜かした。


 少女の外見は、朧気な白黒映像のようでシャツに短めのスカートを履いており、どうやら学生服を着ているようだ。

 

 情けなく腰を抜かしながらも幽霊の少女を見上げる俺を彼女も不思議そうに首をかたむけて見つめていた。


 しばらく無言で見つめあった間、幽霊の少女が口を開いた。


 「お兄ちゃん、私のこと怖くないの?」


 「怖かったさ、最初はな」


 俺は膝の砂を払いながら、「だけど、生憎お前みたいな手前は腐るほど相手してきたんだ。もう慣れっこさ」と答えた。


 「ここになにしにきたの?」


 「さっきもいっただろう? お前に会いに来たんだ。この山で夜な夜な現れる少女の幽霊ってのはお前だな?」


 俺は背中の鎌に手を伸ばし、「仕事でここにでてくる幽霊を調査してくれって依頼が来てるんだ。お嬢ちゃん悪いけど成仏してもらうぜ」


 俺がそういったその時だった。


 「悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散!!」


 幽霊の少女に何度も驚かされて恐怖で頭がおかしなくなった摩利が、後ろから少女に向けて突撃した。しかもその手には摩利が愛用している日本刀がある。


 「おい! やめろ!」


 俺が止めるのも間に合わず、摩利のもつ日本刀が少女の体を貫いた。


 摩利が妖刀と呼ぶ日本刀の切れ味。それは瘴気に犯された危険種にも容易く突き刺さり、普通の人間が食らったら一溜りもないはずだ。


 しかし、幽霊の少女はまったく反応を示しておらず、きょとんとしたまま自分の腹を通過している刀に目をやった。


 それをみた瞬間、少女がニヤッて笑ったのをみて、俺は震え上がった。やってはいけないことをしたと思ったからだ。


 「斬ったね? 切ったね? 攻撃したね? じゃあ()()()もやり返していいよね?」


 その少女がそう嘯くと、煙のように消え去った。動揺する摩利と俺に向かって姿を消した少女の声がどこからか聞こえてきた。

 

 「やっぱりお兄ちゃん達も真奈美を退治しにきたんだね。いつかこういう人が来ると思ってた」 


 森のざわめきと共に少女の声が木霊する。


 「ねえ? 遊ぼう お兄ちゃん お姉ちゃん」   

 

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