噂の心霊スポット
外灯一つない山道をバイクが一つ疾駆する。乗っているのは、終夜と魔利。霊がでると噂の心霊峠を聞いて、任務を依頼し馳せ参じたのだ。
運転しているのは終夜だ。その後ろに相棒の魔利が乗っている。真っ暗の山道を照らしているのは、バイクのヘッドライトだけだが、しかし終夜は狼狽えることなく後ろに乗ってる魔利に訪ねた。
「どうだ? なんか見えるか?」
「ん〜〜魔利のセンサーアイに引っかかる生命体は今のところ0だね」
終夜の後ろに座っている魔利の眼光が暗闇で光る。これが魔利の悪能力の力だ。魔利が悪能力を発動させると、両目が発光し、暗闇のなかでもまるでサーモーライトのように周囲の状況を確認することができる。この力で噂の幽霊を捉えようというのだ。
「頼むぜ、お前の力が頼みなんだからな」
「それにしても終夜バイクの免許持ってたんだね」
終夜の肩に捕まってる魔利が捜索しながら尋ねる。
「取ってるわけねえだろ。無免だよ無免だよ」
「ゲ、なにそれ犯罪じゃん。いけないんだ〜〜」
「いままで散々罪犯してきたやつがなにいってんだよ。そんなにくらべればこんなもん軽い軽い」
魔族討伐隊を組んでから様々な任務をこなしてきたが中には、表向きには認められていない黒い依頼もあった。
具体的には特定人物の暗殺や他チームの集会の襲撃など。こういった人命に直接危害を加える任務の発注は、集会所では認められていないが、昨今では普通の任務に混ざって当たり前のように横行している。
こういった依頼が横行する背景には酒池肉林町の崩壊した社会秩序がある。
魔族や危険種の侵攻によって陥落した酒池肉林町は、警察や軍隊などの行政機関に所属していたものが殆どが抹殺され、反社集団や悪能力が跋扈する無法地帯と化した。
奴らは欲望のままに殺戮、略奪、凌辱などを繰り返すため善良な市民からは反発をうける。
治安を維持しようとするものは、武器を取り自警団を作るか、力のあるものに依頼を出して組織の壊滅を図るかなどだ。
そういった依頼を俺たちも魔族討伐隊も受けてきた。こいつはまだ罪の意識は低いのかもしれないが、いつか自分の行いを反省する日がくるのだらうか―――?
「終夜終夜!」
物思いにふけっていると後ろに乗っている魔利に声をかけられた。
「なんだよ?」
「あそこじゃない? 人が落ちたって場所」
魔利が指を指したほうをみると、ガードレールが損傷してなくなっている場所があった。
この道に詳しい者によると昔ここで事故があり、ガードレールを突き破ってバスか何かが落ちたらしい。
「ふむ」
俺はバイクのスピードを落とし、事故現場と思われる場所まで近づき、エンジンを止めた。
見ると白い防護柵を突き破って何が落ちた形成がある。ゆっくりと歩み寄って防護柵先を覗きこんでみるとその先は崖になっていた。
(ここから落ちたらひとたまりもないな)
崖は直角にできているわけではなく、ところどころ緩衝材になりうる大木も生えている。しかしそれでもここから落ちて助かることは難しいだろう、よくても重症か。
崖の先は真っ暗で遠くの夜景の光も光源には期待できないが、暗闇でも目が聞く魔利なら何か見付けられるだろうか?
「魔利また出番だ」
「へいへいまたね」
俺が魔利に呼びかけると彼女は悪能力を発動してそのサーモスコープのような視界で探索を試みた。
望遠鏡を除くように額に手を当て頭を右左にふって当たりを確認する。
「何か見つけたか?」
俺が魔利に聞くと魔利は
「別に何も」と答えた。
「小さく動く瘴気ならたくさんあるがあれはたぶん小動物だな。特に危険なデカい気や変な塊なんかは感じないぜ」
魔利は悪能力を発動すると瘴気を塊や揺らめきのようなもので知覚できるようだ。瘴気などは細菌や放射能などと同じで目に見えないのもので、一般人は無論悪能力者でも知覚できるものはいても視認できるものはかぎられる。
魔利は瘴気を目で視認することができる数少ない悪能力者だ。彼女の能力なら実態のともわない霊魂のようなものも見付けられるとおもっていたが、やはり人任せはよくなかったようだ。
「やっばりそんな簡単にはいかないか。よし他のとこも見てみよう」
「まだやらすきかよ! これだって色々疲れるんだぞ」
「別にやれなんていってないだろ」
「じゃあ終夜に私の代わりできるのかよ。やるっていうならそれはつまり魔利が働くってことなんだよ」
「そうか、それはすまん悪かった」
「もう、あ〜目薬ささなきゃ」
俺の発言にきれた魔利がそういいながらポケットから目薬を出した。魔利の悪能力はどれほど目に負担がかかるかは不明だが、使いすぎはよくないことは素人目でも明らかだ。
「うん?」
目薬をさすために天を仰いだ魔利が何かに気づいてそう声を上げた。
「どうした?」
俺が魔利に声をかけると
「なにあれ?」といいながら山の天井のほうに指を指した。
俺がその方に顔を向けると暗闇の中、山の頂きと思われる場所が薄っすらと光り輝いていた。
俺たちが駆け上がってきた山道。麓の村の外灯や自動販売機の明かりなどは除いて、光源と思われるものは一つも確認できなかった。それが頂き付近に明かりらしきものがポツンと。気になるものである。
「なんかの施設か、発電所じゃねえか?」
俺が適当にそう答えると「面白そうだから行ってみようぜ!」と子供のようにはしゃいだ。
「はしゃぐなよ まずはこの付近の捜索だろう。山頂なら探しながらでもいける」
「ええ!? つまんない。いきたいいきたいいきたい!!」
と、駄々をこねた。
「はあ、………仕方ねえな………」
頼みの綱の彼女にごねられたら仕方ない。俺はしぶしぶバイクのペダルに足をかけた。
「うひょー!」
バイクの後ろに座る魔利が叫ぶ。標高400メートルくらいの山道を頂きまでめざしてバイクで疾駆する。光源の場所まではさほど時間もかからずたどり着くことができた。
「ビジターセンターか」
ビジターセンターとは、大雑把に言えば自然の有り難さを未来ある若者に知って貰うための施設だ。小さめの病院ほどの大きさの本館は白塗りの建築物で、玄関などは灯りがついているが施設の中は真っ暗でどうやら開演時間を過ぎているらしい。
(下で見たときの灯りは、この施設のものだったのか………)
本館のそばには自動販売機やベンチ、広めの空間を利用して作った公園などがあり、そこそこ人が来ていたことが窺える。
「お、面白そうなもんあるじゃん!」
広い公園に設置されている遊具の中の一つを指指して、魔利がそうはしゃぐ。
ターザンロープだ。始点と終点の間をロープでつないでその間を滑車で移動する遊具だ。
公園に設置されている遊具の他にはブランコや滑り台、アスレチックなどがあるが魔利はそれに強く惹かれたらしい。
「終夜これやっていいでしょー?」
「いや、アホか。そんなことしてる場合か」
「いってくるねえ」
ダメだ、まるで聞いていない。魔利のやつどうやらこの仕事のことを軽く見てるのかもしれない。まあいまに始まったことではないが。
魔利はターザンロープまで駆けていくと、ロープに足をかけて勢いよく滑り出した。全長0メートルほどのターザンロープに「イヤッホー」とはしゃぎながら終点についた魔利はそこで立ち止まった。さっきまで興奮気味に遊んでいたのが不自然なくらい静かになった。
「どうした? 膝でも擦り剥いたか」
俺がそう聞いても魔利は答えない。しばらくすると俺の方に首をゆっくりと向けたかと思うと、魔利からみて正面の方向をみてこういった。
「………あそこに……あそこに誰かいる……」