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(個人的には)弱すぎる現代の麒麟児

本当なら、昨日も投稿する予定だったのですが、寝落ちという強大な敵には勝てませんでした。

そんな作者の作品でよければ、評価や感想、登録のほどよろしくお願いします。


 そしていよいよ試験本番の時間となった。

 試験会場は模擬戦場。試験内容は受験者同士の1対1の試合であり、先に配られた受験番号が隣同士の者と戦うことになり、勝利することが出来れば合格という、実にシンプルな内容だ。

 シヴァの受験番号は298番と最後の方らしく、数時間と待たされてようやく模擬戦場に案内されると、円形の観客席の中心では既に1人の男が待ち構えていた。


「また会ったな」


 攻撃的で見下すような笑みを浮かべるライルである。どうやら彼の受験番号は297番だったらしく、偶然にも因縁ある2人が相対することとなった……ではないらしい。


「今日のところは逃げられるとでも思ったかよ? だが残念だったなぁ、俺の家は賢者学校にも深い繋がりがある。こうして試験の対戦相手を選ぶくらい訳がないんだよ」

「成程、良いところの坊ちゃんというわけか。ますます七光り説が濃厚になってきたな」

「……何時までも舐めた口を……! すぐにでも自分が井の中の蛙だと思い知らせてやる」


 ライルの怒気を真正面から受けても気にする素振りも見せず、シヴァは周囲を見渡す。中央の2人をグルリと囲む観客席には、興味深そうにこちらを眺める者が数十人いた。 


『どっちか勝つと思う?』

『そりゃあライルだろ。何せ名門ゼクシオ家の天才だ。特にライルは破壊的な攻撃を得意とすると聞く……こりゃあ、相手は無事じゃ済まないぜ』

『シヴァ・ブラフマンだったか? 聞いたこともないし、多分どっかの田舎から出てきたんだろう。相手

があのライルじゃ、ご愁傷さまってやつだ』


 どうやら観客はライルが勝利するものだと思っているらしいが、シヴァとしては甚だ不本意だ。あんな魔力の弱い輩、負けるほうが難しい。

 憮然とした表情をシヴァが浮かべていると、上空に10メートルはあるであろう魔法陣が浮かび上がり、そこから音声が発せられた。


《これより、ライル・ゼクシオ受験生と、シヴァ・ブラフマン受験生の試験模擬戦を行います。ルールは

武器、魔道具の使用は禁止。格闘術及び、魔法のみで戦ってください。勝敗は戦闘不能、またはギブアップ宣言によって決着とさせていただきます》


 どうやら設定された状況を観測、認識すれば自動的に音声を発する類の魔法らしい。言わば、この実技試験の審判役があの魔法なのだろう。


《それでは編入試験試合……開始っ!》

「てい」


 開始宣言とほぼ同時に模擬戦場が炎に包まれ、ライルはそのまま炭も残さず焼き尽くされた。

 単独で多数を相手取る時、後手に回れば死が待っている。盗賊や暗殺者を相対した時、シヴァは相手の事を敵としてすら認識していなかったのでしてこなかったが、基本的に彼は先手を取ることを優先しているのだ。


『い、いやああああああああああっ!?』

『し、ししし死んだっ!? なんだあの炎魔法は!?』

『だ、誰か教員を! 教員を呼んで来い!』


 開幕から1秒にも満たない瞬殺劇。騒然となる観客たちの視線を一身に浴びながら、シヴァは思わず狼狽えながら辺りを見渡す。大勢で一斉に騒ぎ立てているので何を言っているのかまでは聞き取れないが、何やら不穏な雰囲気であるということは理解できた。


「え? えぇ!? や、やっちゃダメだった?」


 確かに、今まで殺した盗賊や暗殺者のような悪党とは違い、ライルは気位ばかりが高い一般人だ。それを殺したとなっては確かに哀れだと思ったシヴァは、片手に炎を灯した。


「《生炎蘇鳥(フェニクス)》」


 焔は不死鳥の形を成し、シヴァの手から離れて火柱へとその姿を変える。そして火柱が消えた時、そこには跡形もなく焼失して死亡したはずのライルが肉体を再構築され、蘇っていた。


『な、何だ!? どうなってる!? ライルは確かに死んだはずだ!!』

『い、生き返った!? ……ま、ままままさか、蘇生魔法とでもいうのか!?』

『ば、馬鹿を言うな! そんなもの、御伽噺の中だけの魔法だ!!』


 回復魔法、再生魔法の領域の極致の一つ、蘇生魔法に観客席がどよめく。

 そんな周囲の反応を聞き逃した、しでかしたことを自覚していないシヴァはライルを見下ろす。突然、あっけなく死んだ彼は、未だに事態が呑み込めていないようだ。


「お、俺は一体……!? ……………そ、そうか! 幻覚魔法だな!? 俺が死ぬという幻覚を見せつけて、そのまま気絶させようとしたんだろう!?」

「え?」


 どうやらあっさり殺されすぎて、ライルの中ではそういうことになっているらしい。


「この俺様にこうもリアルな幻覚を見せつけるとは、どうやらお前は幻覚魔法が得意みたいだな?」

「いや、そんなもんを使った覚えはだな――――」

「だが俺の精神力で破れる程度のもの。手口が分かればもはや通用しない!!」


 雨の如き拳と蹴りの連打がシヴァに叩きこまれる。一撃一撃は確かに岩をも砕く威力を誇るはずの連続攻撃……しかし、シヴァは微動だにしないどころか、痛みで顔を歪めることすらしない。失望でただただ無表情である。


(というか……何で自力で蘇らないんだ? …………あ、蘇生系の魔法が苦手なのか!)


 シヴァにとって、相手は殺しても復活するのが大前提になっていた。……つまり、相手が自力で蘇生が出来る者ばかりではないということを失念していたのだ。

 これは早まった判断だったかもしれないとシヴァは若干後悔する。このまま試合終了の宣言がなされば試験に合格できたというのにと。


(周りが大袈裟に騒ぎ立てるから試験中に思わず蘇生して決着ついて無い状況にちゃったよ。模擬戦闘試験ってことで医療班も待機してるみたいだし、死んだら死んだでも、蘇生を任せればよかった)


 医療担当なら間違いなく蘇生魔法が使えるだろう。肉体を消し飛ばしただけ(・・)なので、問題なく蘇生できるはずだ……と、シヴァは盛大に勘違いをしていた。

 彼らは蘇生できないことを前提にしていたからこそ、あんなにも大騒ぎしていたのだ。


「あのさ……別に幻覚系の魔法は使ってないんだけど」

「何を負け惜しみを! これでも喰らえ! 《裂閃火(ブレーズ)》!!」


 ライルの目の前に展開された魔法陣から放たれる無数の熱線を、まるで羽虫でも追い払うように片手で弾いていると、ライルは苦々しく叫ぶ。


「くっ……! また姑息な幻覚魔法で俺の視界を欺き、さも俺の魔法など効いていないかのように見せかけて動揺させようとしているな……! もっと男らしく戦えないのか!? これだから混血雑種は!」

「いや、手で弾いてるだけなんだけど」

「嘘を吐くな! それは一発一発が岩も貫通する魔法だぞ! まともに防御することも出来ない!!」


 だから避けもせずに防いでいるように見えるのは幻覚魔法に違いない……と、ライルは思い込んでいるようだ。


「幻覚であると認識している以上、俺に最早幻覚魔法は通じない。どうやら虚像を見せる魔法を使っているようだな。誰にも気付かれずにここまで精密な幻を生み出すとは……貴様を過小評価していることを認めざるを得ない」

「あの……だからさ」

「だか攻撃魔法はからっきしのようだな! この俺を何度も侮辱した罰として、俺が真の魔法を見せてやる!」


 話を聞いてくれないライルは手のひらを掲げると、遥か上空に数十メートルはあろう巨大な魔法陣を構築していく。それを見た観客たちが、一目散に逃げだそうとしていた。


『な、なんだ!? この巨大な魔法陣は!?』

『あの魔法文字に紋章……! ま、まさか……ゼクシオ家が古代から連綿と受け継いできたという、伝説の破壊魔法!?』

『に、逃げろ! 観客席もタダじゃ済まないぞ!』


 ライルが勝利を確信したかのような笑みを浮かべる。それに対してシヴァはどこか呆れた表情を浮かべていた。


「一度これを発動すれば、もうこの模擬戦場内に逃げ場など無い!!! これこそが、ゼクシオ家が4000年前の古代から受け継いだ、究極の破壊魔法だぶろばっ!?」

『『『…………え?』』』


 魔法陣の中心から凄まじい光が発せられ、今にも魔法が発動させそうになった時、シヴァのアッパーがライルの全身を粉々にして天空の彼方まで巻き上げた。

 術者が死亡し、魔法陣も消滅。それに呆然としていたのは逃げようとしていた観客たちだ。自分たちではどうやっても対処できないから逃げようとしたのに、アッパーだけで全てを捻じ伏せたシヴァに視線を向ける。


「……え? 何この空気? もしかして、邪魔しちゃダメだった? いや、だってあんなにチンタラ魔法陣描いてるから殴っていいものかと…………なんか、すんません」


 それを白けた視線と勘違いしたシヴァは最後に謝りながら項垂れる。再び医療班が居るから殺しても大丈夫だと思っていたのだが、何やら自分が全面的に悪いみたいな空気で思わず《生炎蘇鳥(フェニクス)》を発動させ、ライルを蘇生させた。


「こ、この卑怯者め! 魔法を使おうとしている時に幻覚で邪魔をするなど、潔さの欠片もない奴だな!? こんな卑怯な雑種は初めて見る!」

「……俺も、あんなにチンタラ魔法陣描いてる奴を初めて見たよ」


 4000年前なら、既に1万回殺されても仕方がない。そうしないのは殴るのも可哀想になってくるくらい、シヴァから見たライルが脆弱だったからだ。

 そもそも、攻撃魔法を使われると分かっていれば、それを妨害するのは常套(じょうとう)手段だ。それを卑怯だ何だと謗られ、シヴァは困惑の表情を浮かべるしかできない。


「分かった。今度は邪魔しないから撃ってみろよ、そのご自慢の破壊魔法とやらを」

「言わせておけば……! その身の程を弁えない傲岸不遜な態度、万死に値するぞ!!」


 気を取り直して、再び魔法陣を天空に構築するライル。


「受けろ、これが究極の破壊だ! 古代魔法、《衛星光砲(サテラレイ)》!!」


 魔法陣からは発射された光の柱は、その衝撃と暴風だけでタイルを砕き、巻き上げ、観客席を蹂躙していく。闘技場に巨大な風穴を開けるであろうその魔法の直撃を受けたシヴァの死を誰もが確信した。……だが。


「な、何だとぉ……!? なぜ《衛星光砲(サテラレイ)》の直撃を受けて死なない……!? というか、

なぜ破滅の光をシャワー代わりにしているんだ!?」


 今なお降り注ぐ、破壊的な光を頭頂部に受けても平然としているシヴァに驚愕を隠せないライル。それどころか、その攻撃をまるでシャワーか何かの様にして頭を洗っているのだから、観客たちも開いた口が塞がらないというものだ。


「んー、鼻の横側ってすぐに脂が溜まっちゃうんだよなぁ」

「馬鹿なぁぁああっ!? 今度は顔面で受け止め始めただとぉっ!?」


 古の破壊魔法で顔を洗い始めるシヴァに、ライルも観客たちも卒倒寸前である。やがて光の柱が勢いを失い、消滅すると、髪1本たりとも失っていないシヴァが、とんでもないことを口にした。


「それで? ご自慢の破壊魔法とやらは、何時見せてくれるんだ?」

「……え? ……は? い、いや……今のがそうなんだが……」

「ん? いやいやいや、今のは雑魚掃除用の魔法だろ? ある程度強い奴の間では、届き難い背中の垢を取ってくれる高圧洗浄魔法で有名な、《衛星光砲(サテラレイ)》だろ?」

(((そんな訳があるか)))


 観客の心が一致した瞬間である。秘伝の破壊魔法を言外に貶されたライルに至っては口から白い何かが抜けかけているが、持ち前の気位の高さで何とか気を取り戻した。


「ふ、ふん! 幻覚魔法一辺倒かと思ったが、どうやら防御力も並外れているらしいな! これでは中々決着も付くまい」

「……あのさ、上を見てみ?」

「ん? いったい何がある……と……」


 その時、アッパーによって大気圏外間近まで巻き上げられた肉片が降り注ぎ、その中でかろうじて原型が残っているライルの頭部をシヴァがキャッチして見せつけると、蘇生魔法で新たに肉体を得たライルは絶句する。


「お前もう2回死んでるんだけど」

「な、何をバカな……俺はこうして生きて……!」

「死ぬ度に蘇らせたからな」


 先ほどまでのライルなら戯言と一蹴していただろう。しかし、絶対的な自信のある破壊魔法を素受けしても無傷のシヴァが言えば、異様なまでの説得力が宿り、これまで2度に渡って感じていた、全身を失う激痛が本物であったのではないかという事実を理解しそうになった。


「それにしてもあの魔法陣(審判)、欠陥品じゃないのか? 2回殺してるのに、うんともすんとも言わない」


 相手を戦闘不能にするという条件は満たしているはずだが、一向に反応がない。そこで魔法陣をよく見てみてみると、案の定欠陥を見つけた。


「あー……やっぱりだ。あれは死亡が戦闘不能判定の内に入っていない。受験者が死なないこと大前提で、気絶か魔力切れ、一定時間地べたに倒れることが戦闘不能扱いになってる。これじゃあ、お前を何回殺しても終わらないな」

「ひっ……!?」


 シヴァはライルをジッと見据えると、ゆっくり歩み寄っていく。その何気ない姿に、ライルは生まれて初めて格下と見下していた相手に恐怖を感じた。


「く、来るなぁっ!! 《紅蓮弾(ゴアロア)》ァ!!」


 球形に凝縮された火炎が顔面に着弾すると共に爆発し、凄まじい衝撃と熱波をまき散らす……が、シヴァの歩みは止まらない。


「おいおい止めろよ、服が焦げちゃうだろ?」

「う、うわああああああああああああああああっ!!」


 狂ったように火炎の球を連射するライルだが、それら全ては服に当たらないように手で払いのけるシヴァの前には無意味。傷どころか、僅かな痛痒(つうよう)すら与えていない。

 そして互いの腕が届く範囲まで近づくと、シヴァは体重を乗せずに軽く拳を放つと、ライルの全身が木端微塵に砕け散る。


「あれ? 気絶させようと思ってかなり軽く殴ったんだけどな……加減が足りなかったかな?」


 シヴァは《生炎蘇鳥(フェニクス)》でライルを蘇生させると、ライルは自分が自分自身の血肉の海の上で意識を取り戻したと認識し、ガチガチと歯を鳴らせながら真っ青な泣き顔でシヴァを見上げる。


「悪いな、気絶させようと思ったんだけど、お前の体がプリン並みに脆い……もとい、俺の力が強すぎたみたいだ。次は上手く気絶させるから」

「ひ、ひぃいいいいがべっ!?」


 踵を返して逃げるライルの首裏に手刀を当てると、まるで鋭利なギロチンを落とされたように、ライルの首が地面に落ちて死亡する。そしてすかさず蘇生するシヴァ。


「おかしいなぁ……前にこうやって気絶させてる奴を見たことあるんだけど……これならいけるかな?」

「も、もう止めてくれべげぇっ!?」


 シヴァは一見すると腰が入っていない上に体重も乗っていない、速度を伴わないヘロヘロパンチをライルに軽く当てた瞬間、ライルの全身は爆散。観客席にまで血肉が飛び散り、幾人かが蹲りながら嘔吐している中、シヴァは再びライルを蘇生。


「直接当てるから死ぬのか!? だったらこれでどうだ!?」

「ぶべ!?」


 今度は直接当てない、腕を薙ぎ払うように空振りさせるが、凄まじい衝撃波と風圧で全身がバラバラになるライル。


「なんでだぁー!?」


 シヴァはライルを蘇生させると、半ば逆ギレするかのように詰め寄る。


「おかしいだろ、今ので死ぬなんて!? お前の体は一体何でできてるんだ!? このプリン野郎!!」

「う、うわ……あ、あぁ……!」

「仕方ない、もう一回だ。俺も学校に通いたいから――――」

「ひ、ひぃいええええあああああああああああああああっ!!」

「あ!? おい!」


 どうやら完全に闘志が折られたらしい。今度は殺される前に、涙と鼻水を流しながら一目散に逃げるライル。

 そのまま壁際まで行くと、自ら壁に頭を減り込むくらいに強かに打ち付けて気絶した。


《ライル・ゼクシオ、戦闘不能。合格者、シヴァ・ブラフマンは、このまま受験者控室へ戻ってください》

「……えぇええ……」


 こうして、シヴァの賢者学校合格が決定した。



お気にいただければ評価や感想、登録のほどよろしくお願いします。

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