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プロバガンダは神に付き物


「クソがぁあっ!!」


 夕暮れに染まる生徒会室。備え付けられたゴミ箱がレーダスによって強かに蹴り上げられ、何度も甲高い音を立てながら転がっていく。

 明らかに苛立ちを隠せない様子のレーダス。だがそれを諫める者は誰1人としていない。皆が皆、一様に屈辱を顔に張り付けて項垂れるばかりだ。

 それもそのはず。彼らはこれまで賢者学校最強の看板を背負ってきたというのに、それがたった4人の1年生に全校生徒の前で大敗した挙句、奴隷同然に扱ってきたセラに頭を下げる羽目にまでなった。

 これを屈辱と言わずになんというのか。しかも相手は裏で反則を行った訳でもない……魔術師として、自らの叡智を駆使してまともに戦ったのだ。

 もはや生徒会の尊厳など吹き飛んだと言って過言ではない。これから学校中から失望の視線に晒されるのかと思えば、レーダスのように暴れたくなるのも無理はないだろう。


(……このままでは終われない)


 何としても汚名を返上しなくてはならない。その為には、再び1年5組に挑んで勝つしか他にないのだが……まともな手段で、彼女たちに勝てるビジョンがまるで見えないのだ。

 ならばどうするのか……答えはただ一つ。真面でない手段を使えばいい。


「……私から提案があるのだが」


 椅子から立ち上がるミカエラの言葉に、生徒会メンバーは一斉に視線を集中させた。


   =====


「み、みんなぁあああ!! おめ、おめでどねぇえええええええええ!!」

「先生、涙と鼻水を拭いてください」


 選抜戦が全て終了し、15戦全勝を飾った1年5組は、栄えある魔導学徒祭典の賢者学校代表に選ばれた。

 また後日、改めて全校集会で発表されるわけだが、今の時点でエリカは感涙と鼻水で顔を濡らしまくっている。内定の時点でこの有様なら、発表の時点ではどうなってしまうのか。

 

「でもここからが始まりよ。いざ祭典が始まれば、学校内で15戦するどころじゃない……世界中の魔法学校が勝ち星を競う、熾烈な争いになるわ」


 でも……と、厳しい表情を浮かべていたのを一転、リリアーナは朗らかな笑みを浮かべる。


「しばらくの間はこの結果に酔いしれましょう! 皆、本当に頑張ったわね!」

「まぁ、あんまり良い眼で見られていないのは、ちょっと不服だけどね」

「そんなもの、祭典を勝ち進んでいけば変わっていくわよ」


 その言葉に、シヴァは選抜戦が全て終わった後の周囲の反応を思い出す。

 代表に選ばれた者たちへの祝福もなく、皆一様に嫉妬と恐怖が入り混じったような、まばらな拍手を送ってきたものだ。

 理由があるとすれば、間違いなくシヴァとセラの2人だろう。セラが代表に選ばれるなど多くの生徒が納得していないだろうし、シヴァに関しては言わずもがなだ。祭典の出場者という立場を笠に着て、今までよりも好き放題するとでも思われているのかもしれない。


「ぐすっ……ぐす……え、えっど……どりあえず帰りのホームルームで……ぐじゅ……色々どお知らぜがありまず……」

【あ、あの……これどうぞ】

「あ、ありがど……ゼラざん……」


 さし出されたハンカチで顔を拭い、ようやく嗚咽を止めたエリカは教壇に立ち、真っ赤に泣き腫らした目で生徒たちを見渡す。


「まずは私からも……皆、選抜戦本当にお疲れ様。そしておめでとう。皆が自分たちで決めた目標に大きく近づいてくれたこと、先生として本当に嬉しい……!」

 

 そう言われると決して悪い気などしない。シヴァたちは勿論、グラントも少し照れ臭そうにそっぽを向いている。


「選抜戦を勝ち抜いたことで、祭典が終わるまでの間、1年5組の通常授業での単位取得義務は免除されます。その代わり、訓練や合宿への参加によって単位を得るようになるから、ちゃんと訓練日程を決めて参加してね」

「合宿!」


 シヴァはこれまで全く関わりの無かったことだが、本で読んだことがある。

 同じ目的を共通しあう仲間たちと寝食を共にし、絆を深め合うことができるという、輝かしい青春時代の代名詞的な行事の一つだ。俄然、モチベーションが上がっていく。


「あと、もうじき夏休みに入るわけだけど、当然期末テストはあるんだけど、祭典を控えた皆は学力テストは免除されるんだけど、実技試験だけはやってもらう事になってるの」

「実技? な、何をするんだ……?」


 露骨に嫌そうな顔をするグラント。 


「試験内容は大きく分けて2つ。1つは使い魔の使役。皆には先生と一緒に魔物や動物が多く生息している地域に行ってもらって、そこで使い魔を見つけてもらいます」


 使い魔というのは、魔術師が使役する魔物や動物を指す言葉だ。

 戦闘や採取、使い魔の種類によって役割は大きく異なるが、いずれも魔術師を補佐する存在である。


「使い魔を使役できないと進級に大きく響くから、皆頑張ってね。先生も出来る限りサポートするし!」

【……そう言えば、2~3年生って何かしら動物や魔物を連れてることが多かったです】

「でも……使い魔かぁ……」

「どうしたんだい、シヴァ? そんなに悩まし気に頭を抱えて」

「……俺って、どうも動物とか、魔物とかに嫌われる質でな」


 当の本人は動物好きだが、向こうからすればそうでもない。

 野生の危機管理能力がなせる業なのか……シヴァの絶大な魔力と手加減知らずを見抜いたかのように、彼を見た動物や魔物は狂ったように吠えながら全力で逃げだすのである。


「それから後もう1つ! サングライト迷宮の踏破だね」

「サングライト……そう言えば学術都市の近くに、そんなところがあるらしいわね」


 いつ、どこで、誰が作り出したのか分からないが、この世界には迷宮と呼ばれる、どういう訳か倒しても倒しても尽きることのない魔物の巣窟となっている遺構が大量に残されている。

 サングライト迷宮もその内の1つで、内部には極めて頑強な鉱物で建築された複雑な迷路となっており、魔物も大量に巣食っていることから、賢者学校では頻繁に実戦形式の試験の場として用いられることが多いのだ。 


「最深部は神様が奉られてる神殿だった場所で、自治州の重要文化財の一つだから、道中の迷宮はともかく、一番奥は壊さないようにね」

「そんな俺を真っすぐ見ながら念押ししなくても」


 破壊や戦闘における手加減については全く信用がないことに項垂れるシヴァ。

 その後、帰りのホームルームはつつがなく終了し、各々が帰路につく中、シヴァとセラの2人は帰り道で夕飯や朝食の買い出しをしながら談笑に興じていた。


「しかし神様ねぇ……サングライト迷宮の事は俺も前に本で少し知ったけど、あんまり良い印象とかないなぁ」

【……シヴァさんは少し特殊でしたから】

 

 4000年前に数多くの神族から命を狙われ続けたシヴァからすれば、神と聞いてもいい印象はどうしても抱けない。

 しかも少し前に、学術都市は神族の手によって危機に瀕していたのだ。勿論、全ての神族がシャクナゲのような者ではないと頭では理解しているが、《滅びの賢者》として悪名を轟かせていたシヴァにとって、神族が基本的に敵であるという事には変わりない。


「確かサングライト迷宮で奉られているのはムルジムっていう、土地神の類だったらしいな。学術都市の前身となった町の守り神だったとか何とか」


 元はこの地にあったとされる町の人々から信仰を集めていた土着信仰の主神だったらしいが、創神教が流れてきたことからあっという間に宗教争いに負けて信仰が失われたらしい。

 小さな町の住民という極僅かな人間からしか信仰を得られず、信者たちも今となっては皆無。仮に神族として受肉できていたとしても、不死性があるだけで精霊クラスの力しか持っていなさそうだ。


【そう言えば……昔母から聞いたことがあります。この街には、悪者にされて皆から悪魔って呼ばれるようになった、可哀想な神様がいたと】

「まぁ、ムルジムの事だろうな。宗教争いになった時、敵対している宗教の神様を悪魔呼ばわりするのは、坊主どもの常套手段だし」


 ムルジムという神がこの世界に顕現したかどうかは分からない。だがもしもこの世界に受肉できたのなら、人の都合によって守り神として奉られながら、同様に人の都合で悪魔と謗られるようになった可哀想な存在がいることになる。

 そう考えると、少しは憐憫の情というものが湧いてきた。せめて奉られていた遺跡ぐらいは、出来る限り傷付けないようにしようと改めて決意していると、ふとあることに思い至る。 


(……と言うことは、ムルジムは悪魔と神族、両方の側面を持っているという事になるのか?)


 歴史を紐解けば、そういう神族や悪魔は珍しくはない。かの有名な主神……《創造神》クリアですら、そういう一面があるのだ。

 これだけならシヴァも気を留めることをしなかったが、どうしてもシャクナゲが言っていた言葉が引っ掛かる。


(天魔か……あの後調べても、何の手掛かりが無いからな。……試験の日、何も無ければいいんだけど)


 

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