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真の空間魔法


「ふっ!」


 先手必勝。瞬時に空間魔法を発動させたリリアーナはシンディの背後を取り、回し蹴りを側頭部に叩き込もうとしたが……その一撃は、突如出現した魔力で形成された剣、すなわち魔法剣であっけなく防がれてしまった。

 しかも現れた魔法剣はそれだけではなく、他にも4本の魔法剣が中空に出現しており、それらが一斉にリリアーナを貫かんと殺到する。


「《疾風(シュトロ)》!」


 時間にして恐らく1秒未満。だが認識拡張が施されたリリアーナには永遠にも感じる時間だ。攻撃を凌がれ、反撃された事実を悠然と受け止めつつ、初級の魔法で発生された烈風で自身の体を遠くへ運ぶ。


「速いわね……一体どうやっているのかは知らないけれど、その魔法陣の構築速度だけは認めてあげなくもないわ」


 そう言いながらシンディが片腕を上げると、更に10本もの魔法剣を中空に生み出し、リリアーナを驚かせた。


(魔法陣を構築していない……!?)


 魔法を行使するには魔法陣が必要不可欠……魔術師の大原則を無視して大量の魔法剣が生み出し、シンディは嗜虐的な視線をリリアーナに叩きつけ、腕を振り下ろした。


「この私に1人で挑んできたことを後悔させてあげる……さぁ、踊り狂いなさい!」


 一斉にリリアーナに向かって飛来し、縦横無尽に舞い踊る魔法剣。

 リリアーナは空間魔法で自分自身を……もしくは魔法剣そのものを転移させることで凌ぐ。

 

(数が多いわね……!)


 認識拡張術式と念写術によって、常人ならば見切ることすら出来ない刃の嵐を、リリアーナは空間魔法や風属性魔法、魔力障壁などを駆使して適切に防御と回避をしているが、リリアーナ自身の攻撃や移動の速度が速くなっている訳ではない。

 

五連魔弾(プレアデス)!」


 それでも見切るのが容易である以上、攻撃と攻撃の合間に念写術で即座に魔法を発動……反撃することも出来る。

 空間魔法で上空へ逃れると同時に、彼女が最も得意とする5属性魔法の同時発射。岩の槍が、水の刃が、火の砲弾が、風の渦が、雷の光線がシンディに殺到し、直撃。

 衝撃と共に土煙は立ち込めるが、その土煙を貫くように幾本もの魔法剣が飛来した。


「なぁに、その攻撃。そんなもので私を傷付けられるとでも?」


 空間跳躍で回避するリリアーナを嘲笑うように、シンディは土煙を振り払って姿を見せる。その姿は、制服が少し汚れている程度で、無傷にしか見えない状態だった。 


「逃げるだけが能の空間魔術師など恐れるに足りないわ! そのまま五体を切り刻まれなさい!」


 耳が痛い事を言ってくれる……リリアーナは岩や木を紙切れかバターの様に切り裂きながら乱舞する魔法剣を躱しながら、苦笑いを浮かべる。

 総合的に見て、リリアーナは現代では優秀な部類に入る魔術師だが、決定打に欠ける。6つの属性に適性が振り分けられた者の宿命というべきか、魔法攻撃の威力が低い……シヴァに指摘されるまでもなく、前々から自分自身の課題として頭を悩ませていたことだ。

 生来高めの魔力量と、工夫した魔法術式によって、同年代の大抵の魔術師よりかは威力が出るようになったが、それでも1つの属性に特化した魔術師の火力には及ばない。

 現にシンディにはその身一つであっさりと防がれてしまった。シヴァから、生徒会メンバーは強固な防御魔法を全身に張り巡らせながら戦っていると聞いていたが、まさかここまで通じないとはと、リリアーナは密かに落胆する。


「《空間跳躍(アポート)》!」


 ならばシンディを場外へ転移させてしまえばいいのではないのか? ルール上、場外へ行ってしまった選手は失格扱いとなって復帰も出来なくなる。

 そう思って空間魔法でシンディを場外へ転移させてしまおうとしたが、それを察したのか、シンディは高速で駆け回って空間魔法の座標から逃れてしまった。

 如何に強力な空間魔法といえど、魔法が空間に影響を与える前に範囲外に逃れられては意味がない。しかも認識拡張術式によって先読みしながら魔法を発動しても、それすら避けてしまうのだ。


(恐るべき反応速度ね……!)


 無数の魔法剣を自在に操る為か、空間把握能力に長けているらしい。僅かな空間の揺らぎも見逃さず、瞬時に回避してしまうとは。

 一方、強敵を前に後手に回り続けるリリアーナを見て、シンディは内心で後輩を嘲笑う。


(ふふふ……やっぱり大したことないわね! この女は単なる器用貧乏の魔術師……この私に敵う道理など無かったのよ!)


 生徒会はシンディとリリアーナの能力と相性差を客観的に考慮し、シンディの反応速度ならばリリアーナの空間魔法を完封できると踏んで、1対1の勝負に持ち込もうとしたのだ。

 そうとも知らずにリリアーナ1人に挑ませるなど愚の骨頂……これを笑わずして何時笑えばいいのか。


(生意気なドラクル大公家……その娘を圧倒的な実力差で甚振り倒し、大恥を掻かせてやるわ)


 生徒会メンバーは皆貴族……それも純血思想に染まった家の出だ。

 シンディを含めた彼らは、濁りない高貴な血筋を持つ自分たちが、混血雑種よりも尊い存在であると信じて疑っていない。そう教えられて生きてきた。

 だからこそ、混血を快く受け入れ、自分たちもまた混血でありながら、アムルヘイド自治州の頂点に立つドラクル家が心底気に食わない。

 大公が学長の席に着き、リリアーナが賢者学校に編入してきた時も憎々しく思った。純血貴族の自分たち生徒会が頂点に立つ賢者学校……その場所すらも支配されてしまうなど堪ったものではないのだ。


(絶対に追い出してやるわ……! 目障りなシヴァ・ブラフマンも、ドラクル家も! そして以前の賢者学校を取り戻すのよ!)


 自分たちには誰も逆らえない、自分たちにとって最も居心地のいい場所……その陰で、一人の少女が生贄にされていることも知った上で、シンディは無数の魔法剣を躍らせる。


「さっきからチョロチョロと……流石は空間魔法、逃げるのだけは一人前ね。でも……」


 全ての光景をスローモーションで捉え、即座に空間魔法を発動できる今のリリアーナを捕らえるのは、4000年前の魔術師ですら容易ではない。シンディも雲を掴むような手応えにいら立ちを隠せないが、勝利そのものは確信していた。

 なぜなら彼女は、生徒会権限で閲覧した、編入時のリリアーナの魔力量が自分の魔力量を下回っていることを知っている。その上、空間魔法は魔法剣よりも多くの魔力を消費するのだ。

 持久戦になれば勝つのは自分……そんな当たり前の未来を予見する中、リリアーナが突然逃げるのを止めて立ち止まった。


「どうしたのかしら? 自分の無力さに気付いて、遂に勝負を投げた?」

「まさか。ただ、準備が終わっただけですよ」

「……準備?」

「自分の魔法の威力が低いことくらいは承知しています。恐らく私の得意な魔法では生徒会メンバーの守りは貫けないということも。だから……」


 リリアーナは右手を上げ、左足を前に踏み込み、半身に構えながら魔法を発動する。そこに来てシンディはようやく目には見えない場所……衣服に覆われたリリアーナの腹部に魔法陣が隠匿されながら描かれていたことを悟った。


「一撃で勝負を決めるために、念写術では描けない複雑怪奇(不馴れ)な魔法を準備しました」

 

 リリアーナの右手に、半透明の魔力で構築された怪物の腕が顕現する。剣のように長く鋭利な爪が生えた五本の指は、術者の指と連動するように動く。

 何らかの攻撃……それも切り札となる一撃を予感したシンディは生み出した魔法剣を一斉に掃射しながら回避行動をとる。

 それが、まったくの無意味であるということも気付かずに。


「《空間式・参魔犬之轟爪マギア・グロゥ・ケルベロス》!」

 

 リリアーナが右腕を斜めに振り下ろした瞬間、五条の閃光が全てを切り裂いた。飛来した魔法剣も、周囲の巨岩も、覆われた黒い煙も、空も、空間すらもだ。

 風の魔法による真空波とは訳が違う……この凄まじい大斬撃に全身から冷や汗を掻きながら、シンディはある結論に至った。


「い、今のはまさか……空間裂断……? そんな事、出来るわけが……!」


 空間魔法には、対象となるものを空間の穴と穴で二つに分け、そのまま魔法を解除することで如何なる硬度も無視して両断するという、空間裂断と呼ばれる有名な理論がある。

 だがこれは実現不可能な机上の空論というのが、現代の魔術師たちの共通認識だ。空間や時間といったものには、修正力と呼ばれる歪んだ空間や時間の流れを元に戻そうとする、眼には見えない極めて強い力が働いていて、その力によってどのように魔法術式を改善しても空間裂断は実現しなかった。

 それは4000年前に実在した強大な魔術師も同じ……人類の力だけでは、空間跳躍がやっとなのだ。


「でもそれすらも可能とする術式が存在する……今この光景こそが現実です」


 だが人類を超越した力を秘めた、架空にして実現しうる4番目の最強種、幻獣種の力を顕現させる幻想術式ならば空間裂断すらも可能とする。

 神話や伝承において、星と星の間、生と死の間といった狭間を司る神や悪魔、幻獣は修正力すら無視し、次元を自在に行き来し、空間を操る力を持つというのが共通認識だ。

 その中でリリアーナが幻想術式によってその力を顕現させたのは、最も著名な狭間の主。現世と地獄を繋ぐ扉の門番……三つ首の魔犬である。

 

「この腕は地獄の番犬のそれ。振るわれた爪が描く軌跡の延長線上にある私が望んだものを全てを、あらゆる耐久値を無視して切り裂く」


 古の賢者によって、ほぼ全ての攻撃を無効化する守りと、ほぼ全ての守りを貫通する攻撃が両立する、真の空間魔法が復活した。その脅威は、最早現代の魔術師単独のものではない。

 実際にリリアーナは、この魔法によって現代の魔術師では傷一つ付けられなかったシヴァすらも模擬戦で切り裂いた。

  

「は……はは……でも、外したわよねぇ? どんな攻撃も当たらなければ意味が無いわ!」


 しかし、これだけの威力を発揮した攻撃も、敵を仕留められなければ意味がない。現にシンディは依然無傷だ。

 あれだけの魔法、魔力の消費もバカにならない筈。発動の為にも時間が掛かっていたし、簡単にもう一度使えるはずがない……それは事実で、リリアーナの魔力量は《空間式・参魔犬之轟爪マギア・グロゥ・ケルベロス》によって大半が消し飛び、残り1割を切っていた。

 こちらは変わらず万全。このまま魔法剣で串刺しにしてやろうと魔力を発したシンディだが……魔法剣は何時まで経っても現れなかった。


「な、何で!?」

「言ったでしょう? 私が望んだもの、その全てを切り裂く魔法だと!」


 空間転移で即座に間合いを詰めるリリアーナ。その動きを、シンディは一切捉えられずに呆気を取られる。


「は、速っ!?」


 有無を言わせず、電撃を帯びたリリアーナの掌底突きがシンディの顎をかち上げる。強烈な電流と強かに脳を揺らされたことで気絶するシンディ……彼女の体からは、常に張り巡らされていた防御魔法すらも消えていた。


「魔法陣を晒していないことから、服や体の見えないところに魔法陣を仕込んでいることは察していました。なのでそれだけを切り裂き、無力化させたのですよ。私はシヴァ君ほど、手加減が下手というわけではありませんしね」


 単発攻撃の魔法とは違い、シンディの魔法剣や身体強化を始めとした持続性のある魔法は、魔法陣を崩されれば掻き消される。

 顕現した三つ首の魔犬は、シンディが服や靴の内側、皮膚に描いていた魔法陣を残さず切り裂いたのだ。

 そうなればそこに居るのは多少魔力が多いだけの、1から魔法陣を描かなければ魔法が使えない生徒に過ぎず、リリアーナを相手取るには行動が遅すぎる敵だ。


「さて……勝ちはしたけど、魔力も殆ど残っていないし、私は事実上リタイアみたいなものね。……他の皆は無事かしら?」


 少し休んで魔力を回復させてから支援に行こう……そう決めたリリアーナはしばしの休息のために、岩を背もたれにして座り込むだった。


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