そろそろ面倒ないじめ問題を解決したい件について
短編、「悪役令嬢との友情ルート」がコミックアンソロジー化しました。
前後2話完結短編、「冤罪で嗤われながら死刑にされ、十数分前に逆行したら反乱で国が滅んで怪物の妻に差し出されて幸せになれました~今更よりを戻そうと言われても困ります~」も投稿してみたので、よろしければどうぞ。
「というわけで、生徒会に喧嘩を売っちゃいました」
「どうしてぇっ!?」
先ほどの経緯を話し、生徒会と決闘をする羽目になったとシヴァが告げると、エリカは飛び跳ねるほど仰天していた。
「やってくれたよ……それだとシヴァは参加しないってことじゃないか。僕たち4人だけで生徒会の5人を倒せってこと?」
「いや、あそこまで色々言われたら、俺も言い返したくなってな。つい、売り言葉に買い言葉で」
バツが悪そうな半笑いを浮かべながら頭の後ろを掻くシヴァ。確かに当の本人たちの意向を無視して話を進めてしまったのは悪いと思っているが、何の見込みもなく言った訳でもない。
「ていうか、あの生徒会の連中って強いの?」
「まぁ、僕も詳しくは分からないけど……賢者学校の最優秀成績者の集まりだからね。言い換えれば、今巷で噂になっている《滅びの賢者》の転生体、その最有力候補者たちだよ」
転生体云々は間違いなくあり得ないが、確かに他の生徒と比べると、5人とも魔力量が多かった。リリアーナならあるいはと思うが、魔力量が多くても戦いにおいては素人同然のセラや、戦闘力未知数のデュークと、研究や開発を旨とするグラントに、簡単にけしかける相手ではない。
「問題ないわ。要するに勝てばいいだけの話……その見込みがあるから、あそこまで挑発したのでしょう?」
「まぁな……エリカ先生、俺たちと生徒会が選抜戦で当たるのって何時か分かります?」
「ちょっと待ってね。確かもう予定は決められてて……」
エリカはポケットトから、折り畳まれた一枚の用紙を取り出して広げる。
「えっと……選抜戦最終日だね。時間には比較的余裕はあるけど……」
「なら十分すぎる。宣言通り、お前ら4人で生徒会に勝たせてやるよ」
経験の差。魔術師としての差。そして人数差などものともしない断言。普段シヴァの自信満々な態度には変な不安が残るが、今回ばかりは頼もしさすら覚えた。
「ただまぁ、その前に……」
しかし、先ほどとは打って変わって不安そうに眉尻を下げるシヴァ。彼の視線の先には、割れたホワイトボードを撫でながら沈鬱な表情を浮かべるセラが居た。
「彼女は一体どうしちゃったんだい?」
「いや、中等部時代のいじめっ子に色々やられたみたいでな。それでホワイトボードが……」
「いじめ? シヴァ君、それはどういうことか先生に話せる?」
シヴァが視線で「話していいか」と問いかけると、セラは小さく頷いた。
事情が事情なだけあって隠し立てできる気もせず、シヴァは軽くこれまでのセラの学校生活を話すことにした。流石に込み入った家庭の事情ははぐらかしたが、前学長の意向で全校生徒、全教職員のストレスの捌け口として、日々壮絶ないじめを受けていたこと。
入学前にセラと知り合い、学校での彼女の様子を見かねたシヴァがいじめの抑止力として庇っていたこと。そして今回の事は、これまでセラを虐げてきた連中の鬱憤が溜まり、それが爆発したことで発生したのだという事を。
「私が赴任する前に、そんな事が……」
「噂にだけは聞いていたけど……あくまで噂だと思っていたよ。まさか本当の事だなんてね」
心底面白くなさそうに眉根を歪めるデューク。エリかも初めて知った、あまりにも酷い事実に開いた口が塞がらない様子だ。
「私も以前から話にだけは聞いていたけどね。でも今回の事は丁度いいわ。祭典の選抜メンバーに選ばれたとなったら、もう誰もちょっかいかけられないでしょう……選抜戦で結果を示し、煩わしい連中を根こそぎ黙らせてやるとしましょう」
「そうだな……ん? どうした、セラ」
意気軒昂。静かに戦意を高めていくクラスメイトたちだったが、家中のセラは心底申し訳なさそうな、今にも泣きそうな顔で魔力の燐光を指先に点し、空中に文字を書く。
【ごめんなさい。迷惑。私のせい】
せっかくシヴァから譲り受けたホワイトボードが壊れてしまったこともそうだが、またしても自分の生でシヴァを……クラスの皆を巻き込む形になってしまった。その事が申し訳なくて、セラは項垂れる。
「お前の味方になるって決めた時から、何時かは通る道だと思ってたから別にいいよ。それでも自分の気が済まないって言うんなら、選抜戦で皆の力になれるようになればいいんじゃないか?」
「…………」
そう言うと、一先ず納得した様子で少し調子を取り戻すセラ。
しかし問題はそのホワイトボードだ。これが無いと日常会話に著しい支障をきたすのだが、直せる手段がない。もう買い替えるしかないかと誰もが判断しそうになった時、グラントが戻ってきたのだ。
「お、おい。ちょ、ちょっと聞きたいことが……な、何だ……? こ、この変な空気」
「あぁ、実はね」
グラントに事情を話すと、最初こそ生徒会との決闘の件について怒りながらシヴァに詰め寄っていたが、セラのホワイトボードの話になると、しばらく葛藤するような歪んだ表情を浮かべ、踵を返した。
「ちょ……ちょっと待ってろ」
それだけ言い残し、またこの場から立ち去っていくグラント。しばらく経って戻ってくると、彼女の手には小さな袋が握られていた。
「そ、そのホワイトボード、貸せ」
そう言って半ば無理矢理ホワイトボードを地べたに置き、袋の封を開ける。中に入っていたのは銀色をした金属粉であったらしく、中身を手で掬って割れた部分に振りかけた。
「も、文字を写し出す魔道具は、た、単に金属の板を使ってるんじゃなくて、と、特殊な金属粉を処理した物を板状に固めたのを使うのが普通だ。こ、このホワイトボードも見たところ同じようなものだから……」
ホワイトボードの上に魔力の燐光で魔法陣を描き、魔法を発動。すると金属粉はアメーバのように蠢き、ホワイトボードの割れ目を補うように一体化。本当に壊れていたのか疑わしくなるほど綺麗に修復した。
「……ん」
ほぼ無言でホワイトボードをセラに返すグラント。本当に直ったのかと恐る恐る魔道具を使ってみると、いつもと同じように……いや、それ以上に鮮明に文字が浮かび上がる。
「へぇ! 凄いじゃないか! 流石天才博士!」
「こ、このくらい魔導工学者として褒められるほどのことじゃない。そこら辺の修理屋にでも行けば同じような事が出来たし…………それに、その……」
言い難そうに口をモゴモゴと動かすグラント。そんな彼女にセラは深く頭を下げると、修繕したてのホワイトボードを見せる。
【あの……本当にありがとうございました。これ、私にとってはすごく大切な物だったから……直ってとても嬉しいです】
「……あぁぁああもうっ! だから別に大したことはしてないって言ってるだろ!? い、一々そんなお礼とかお世辞とか言うなっ!!」
その余りに素直な感謝の文字が気恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして明後日の方向を向いたグラント。感謝の意も跳ね除けられてしまい、少し困った様子で彼女にセラが一歩近づくと、掠れるような声が聞こえた。
「……け、今朝……逆ギレしちゃったから……それで……」
今日のホームルームの事を言っているのだろうか。セラ自身は何とも思っていないのだが、もしかしてその事をずっと気にしていたのだろうかと考えると、セラはグラントという少女の心の内が、少し分かったような気がした。
「そ、それより! ちゃ、ちゃんと勝てる見込みがあるから喧嘩なんて売ったんだろうな!? ひ、人の事まで勝手に巻き込んで……み、見込みが無かったら承知しないぞ!?」
「あぁ、大丈夫大丈夫。生徒会との決闘が選抜戦の最後なら何も問題ない」
「そうは言うけど……生徒会の強さは本物だよ? それを君を除く僕たち4人で制するなんて、正直できるとは思えないんだけど」
「そうだよ。それも決闘なんて賭けが成立する形でなんて……今からでも先生が何とか掛け合ってみた方が……」
シヴァという規格外が戦うなら話は変わるが、この時代の魔術師としての規格に当て嵌まる者同士で、しかも積み重ねてきた経験も研鑽も上回る相手に、少ない人数で勝てるとはどうしても考えられない。
当然といえば当然の3人の主張だが、シヴァは平然としている。
「掃除とか料理とかと違って、魔法に関しては出来ないことを出来ると断言したりしない。本当なら、理論と仲間内しかいない試合相手だけいても魔導戦で強くなれないんだけど……幸い、生徒会との決闘まで14回も実戦に近い形で戦えるんだからな」
「14回……生徒会と当たるまで、できる限り実戦の中で認識拡張術式と念写術を使えるようにするというわけね?」
「そういうこと」
理論だけ覚えたり、極限状態ではない練習の場でだけ使える魔法術式や技術に意味はない。14回というのはシヴァからすれば少ない数字だが、特に問題はない。
「どうせ選抜戦以外でも、延々と俺と練習試合することになるしな」
『『『え?』』』
何やら聞き捨てならない言葉に反応したクラスメイトたちを華麗に無視し、シヴァは少しだけ戦意を見せるように魔力を放つ。
「とりあえず言った通りにしてみな。俺も似たような方法で強くなったし、保障してやるよ。生徒会と戦う頃には、今とは比べ物にならないくらい強くなってるってな。とりあえず……認識拡張術式と念写術を覚えたら、時間が許す限り俺と模擬戦な」
「大丈夫。これ以上は無いってくらい手加減するし、もしもの時の為の蘇生魔法の準備は出来ているから」
決死の戦いが引き起こす爆発音と悲鳴と破砕音と絶叫が第5野戦演習所に木霊し続けて……ついに、選抜戦の幕は上がる。




