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学園物では女好きな友人がデフォルトらしいと、本(小説)で予習済み


 純血思想による、混血種を多く擁するアムルヘイド自治州に対するテロ活動という、なんとも不穏な情報を聞きながらも、それを頭の片隅に留めつつ日常を過ごすシヴァたちは、翌日の5組の教室……という名の、石の柱と屋根で出来た突貫修繕跡地に通学していた


「……冬が来る前に何とか直しておきたいところね。風が吹いて寒いのは嫌だし」

「少なくとも、夏の間はこれで良いんじゃね? 風通しが良くて涼しいし、冬になったら《隕合錬岩(アルルド)》で壁くらいは作れるしな」

「だからって教室の様子が外から丸見えなのもどうかと思うのよ。お父様……もとい、学長は成績の向上や、魔導学徒祭典に5組が出場が出来れば、修繕をするとは仰っていたけど……」


 頑強だが不格好な石の柱を撫でながら、リリアーナは愚痴を言う。シヴァとセラからすれば屋根があるだけ上等だと感じるが、彼女からすれば違うらしい。

 これが古代人や虐待を受けた子供と、生粋のお嬢様との違いかと考えていると、教室に長い黒髪と、頭から生えた角、動物のように鋭い瞳孔の赤い眼が特徴的な少女が現れた。

 シヴァたちのクラスメイトにして、魔導工学の博士号を最年少で得た天才児、グラント・エルダーだ。常に不機嫌そうに眉間に皺を寄せる彼女は、一睡もしていなさそうなくらい濃い隈を目の下にこさえながら、足音荒くシヴァに近づき、ある物を差し出す。


「お、おい……! お、お前……これを燃やしてみろ……!」

「何これ……鉄?」


 渡されたのは金属の塊だった。一見何の変哲もないように見えるそれだが、よくよく見てみれば、陽光に反射して不思議な色の光を放っている。


「お、お前を倒すためのゴーレムに必要なのは、と、とにかく耐熱性だから……い、今手元にある金属を錬金魔法で組み合わせて、出来るだけ耐熱性に優れた合金を作ってみた……ま、まずはそれでどれだけ熱に耐えれるのかテストするから、だ、だから燃やしてみろ……!」

「ほう……それは楽しみだ」


 打倒シヴァ・ブラフマン。自信作のゴーレムを注視だけで燃やされてしまい、プライドも何もかもズタボロにされたグラントが掲げた目標だ。言わばシヴァはグラントに狙われる立場にあるのだが、自分に接しようとする者が希少なシヴァは、割と友好的な態度をとっている。


「じゃあ遠慮なく」


 しかし、結果が伴っているのかと言えば答えは否だ。シヴァが魔法を使うと、金属の塊はすぐさま真っ赤に融け、地面に落ちて辺りの雑草を燃やすだけに終わってしまった。


「駄目だったっぽいぞ。感覚としては7000度超えた時点でこうなったなぁ」

「……や、やっぱりミスリルじゃダメなのか……? か、軽くて頑丈だけど、加工しやすい分、ほ、他の魔法金属と比べると、ちょ、ちょっと熱に弱い部分もあるし……た、耐熱関連の魔法機構を組み込んでいないとはいえ、こうもあっけなく……」

  

 融け落ちた金属には目もくれず、グラントは取り出したメモ帳と睨めっこをし、ブツブツと呟きながら、ガリガリと荒い音を立てて何かを書き込んでいる。

 彼女が5組に来るようになってからは結構頻繁に見るようになった光景。もはや慣れたとばかりにシヴァとリリアーナがグラントから視線を切った瞬間、彼女は眩暈を起こして、体をグラリと傾けた。


「っ!?」


 それに偶然対応できたのはセラである。慌てて傾くグラントの体を支えると同時に暈が収まり、グラントは慌ててセラから距離を取った。


【あ、あの……大丈夫、ですか……? 体調が悪いなら、今日は休んだ方が……】

「よ、余計なお世話だ。 わ、私の体の事は私の責任なんだから、た、他人のお前にとやかく言われる筋合いなんてないっ」

【…………ごめんなさい】

「……あ……」


 何か気に障ってしまったらしい。そう思ったセラはただ項垂れることしかできず、グラントは表情に罪悪感を浮かべた。

 気まずい沈黙が2人の間に流れていた時、小柄な茶髪の新人担任、エリカ・アウレーゼが妙に上機嫌な様子で、1人の少年を引き連れて現れた。


「おはよー、皆! 全員揃ってみるたいだね」

「おはよーございます。……ところで、誰?」


 風貌はシヴァのそれよりも高い身長と、爽やかに切り揃えた亜麻色の髪が特徴的な優男……そういう印象を与える美男子だ。賢者学校の制服を着ていることから在学生であるということが伺えるし、エリカがこの5組まで連れてきたということは――――。


「例のサボり魔か!」

「初対面で随分な事を言うね、君」


 賢者学校に殆ど登校しないという問題児だ。どうやらリリアーナとは古くからの知人らしく、彼の両親に言われて無理にでも登校させようとしていたらしいが、その労力が実って登校してきたらしい。隣ではリリアーナはしたり顔で親指を立てている。


「それじゃあ自己紹介をお願いしても良いかな?」

「デューク・ヴァルドミア。そこの彼女に無理矢理連れてこられた身だけど、こうして出会えたのも何かの縁だし、仲良くしてくれると嬉しいよ」


 男子生徒……デュークは苦笑しながらも当たり障りのない自己紹介をし、リリアーナは少し憮然とする。


「何よ。元はと言えば、学校をサボりまくって小父様や小母様の逆鱗に触れたあなたが悪いのではなくて?」 

「だからって君! ドラクル家のコネクションをフル活用して、都市中の女の子に僕の悪い噂を流すって脅さなくてもいいだろう!?」

「お前そんなことをしてたのか」

「こうでもしないと貴方学校に来ないでしょう。学校には大金を払って入学させてもらえてるのに、それを無下にするから小父様たちも怒るのよ」

「それは……僕は魔法学校になんて興味が無かったのに、今年に入ってからいきなり父さんと母さんが入学しないと絶縁だって言うから。……まぁ、年貢の納め時だったのかもね。これ以上両親を怒らせるのは得策じゃないし、いい加減大人しく登校するようにするさ」


 額に手を当てながら様になる憂い顔を浮かべるデューク。中々見ない美形で、人当たりも良さそうな彼を見て、シヴァは内心でウキウキしていた。


(男友達を作るチャンス!)


 第1歩目から盛大に踏み外したり、段階をすっ飛ばしたりして、当初の予定からずれまくったシヴァのリア充計画だが、既にご破算となったその計画のの第1段階では、学校に入学してから男友達を作るというものがあった。

 良きりなり彼女はおろか、女友達というのもハードルが高そうと考えたからである。結局入学前には既にセラと同居することになり、振り分け前のクラスメイト達は皆シヴァを恐れ、この5組はシヴァ以外全員女性だったので、男友達を作る機会が今までなかったが、これは気兼ねない同性の友人を作るまたとない好機だ。


「……あれ? そう言えば、デュークは何で学校をサボりまくってたんだ? 一見すると、そんな大層な問題児には見えないんだけど」

「ふっ……よく聞いてくれたね。……えぇっと、君の名前は……」

「シヴァ・ブラフマン」

「改めて、デューク・ヴァルドミアだ、よろしく。とりあえず君の事はシヴァと呼ぶとして……僕が学校に通わなかったのは、運命にも等しい力に導かれる使命に殉じる必要があったからでね。この世界に散りばめられている美しい宝石たちとの邂逅を重ね、僕は更なる高みへ至る為に……」

「小奇麗な言葉で誤魔化しているけれど、ナンパよ、ナンパ。もう見境なく女性に声をかけまくってるの」

「女好きか!」

「ナンパじゃない! 美しき宝石たちとの邂逅と言ってくれたまえ!」

「やってることは同じじゃないの」


 変なところに拘りを見せるデュークに呆れた表情を浮かべるリリアーナ。


「去年色気づくようになってから手当たり次第に声を掛けては連戦連敗。それにムキになって止めどころを見失って、婚約者の居る令嬢にもしつこく声を掛けたから、性根を鍛え直す意味で親元から離されたっていうのに、反省するどころか学校までサボって懲りずにナンパしてたなんてねぇ」

「やべぇ……やべぇよセラ。初めて男友達が出来るかもって期待してた奴が、案外本気でロクでもないナンパ野郎かもなんだけど」

【えっと……まだよく知らないだけど、良いところもあるんじゃないかと…………多分】

「君たち……さっきから言いたい放題言い過ぎでしょ!?」


 とりあえずデュークは軽薄な性格をしているというのは理解したシヴァ。しかし、1つだけ疑問もあった。


「でもさ、何でナンパが連戦連敗なんだ? 客観的に見て、デュークはかなりの美形だと思うんだけど」

「ナンパしてるところを見たら分かるわよ…………言っておくけど、クラスメイトにまでちょっかいを掛けたらどうなるか、分かるわよね?」

「心配しなくてもクラスメイトにそんな気は起こさないさ。これから一緒にやっていく相手との関係を、下手に刺激して悪いものにしたくないしね」


 どうやらその辺りの分別は出来ているらしい。シヴァとしては、セラに変な気を起こさないようで安心したといったところだ。


「話は済んだかな? それじゃあ、後の2人も自己紹介をしてもらっても…………って、グラントさん? どうして柱の陰に隠れているの?」

「こ、こういう軽薄な奴と、ど、どう接すればいいか分かんなくて……も、文句あるかっ?」


 どうやら陰キャ代表みたいな性格をしているグラントは、軟派なデュークとの距離感を測りかねているらしい。


「え。えぇっと……彼女はグラント・エルダーさん。で、そっちの子が、セラ・アブロジウスさん。ちょっと色々あって、会話は筆談になるけど、特に問題は無いから気にしないであげてね」

【えっと……よろしく、おねがいします】

「うん。2人とも、これからよろしく…………あれ? セラ・アブロジウスって……もしかして、君があの?」

「ん? デューク、セラの事しってるのか?」

「まぁ、婚約者だったし」


 …………風通しが良すぎる教室に沈黙が流れ、ビュウッ……と、一陣の風が6人の髪を揺らす。


【翻訳家?】

「いや、婚約者だって」

「コンニャク屋?」

「そんなピンポイントな職に就いた覚えはないかな」


 衝撃的事実に頭が真っ白な当事者のセラ。柱の陰から目を見開くグラント。顔を赤くしてアワアワ言っているエリカ。そしてシヴァはと言うと――――


「デューク・ヴァルドミア……! ちょっと俺と命とか、その他色々懸けた決闘をしようじゃないか……っ!」

(あっつ)ぁああっ!? えっ!? 何事!? 何事!?」


 猛る嫉妬が全身から燃え盛る業火の柱となり、石の天井を貫いて天を紅蓮に染め上げる、《滅びの賢者》の臨戦態勢一歩前の状態である。


「勝敗条件は簡単。先に相手の心臓を抉り出した方が勝ち……それでいいだろう?」

「全然良くないよ!? 何なのこのとんでもない炎魔法!? だ、誰か助けてぇえええっ!!」

「や、止めろバカ!! き、気流が乱れて、あ、あちこちで竜巻が……!」

「きゃー!? シヴァ君落ち着いてー!? い、椅子が! 画板が! 辺り一面が燃えちゃうからー!?」


 神々や悪魔との戦いでも中々見せない裂帛の表情を張り付けながら燃え盛るシヴァは、ジリジリとデュークににじり寄る。この現代において、これほどまでに《滅びの賢者》、《破壊神》と恐れられた男に戦意を向けられたものは、他に居ないだろう。

 純然たる殺気……というには他の感情が混じり過ぎているが、それでもそれに近しい気当たりを放出している。


「大丈夫。俺は蘇生魔法も使えてな、心臓が抉り出された程度の死因なら蘇生できるからさ……決闘に敗れても死なないことに安心しながら逝くがいい……!!」

「安心できる要素が1つもない!!」


 余りの鬼気迫る威圧感と熱量に腰を抜かすデューク。何とかシヴァを止めようとするグラントとエリカ。本校舎に居る者たちは、今年度が始まってから多発する、シヴァによる災害に恐慌状態に陥り、それを唯一止めれるセラはとんでもない情報に頭が混乱して右往左往。

 まさにデュークが火葬される3秒前といった教室に待ったをかけたのは、リリアーナである。


「言っておくけど、元婚約者だからね。今のデュークとセラさんは婚約関係にない他人よ、他人」

「……え? マジで?」 

「マジよ、マジ。昔婚約関係だったけど、それもすぐに解消され、今の今まで繋がりもなかったんでしょう?」

「そう! そうなんだよ! しかも産まれてから5歳の時までだったし、セラちゃんの顔を見たのも今日が初めてだしね」

「…………そうか。……ふふふ。そうだったのか……あくまで、ロクに会ったこともない元婚約者というだけか」

「…………」


 悪鬼羅刹の表情から憑き物が落ちたかのような仏の笑顔に変わるシヴァ。その後ろでは、婚約が解消されたと聞いたセラが心底安堵したような表情を浮かべていた。


「俺としたことが、とんだ早合点してしまった。ゴメンね」

「いや……うん、いいんだよ。は、ははははは」


 実害らしい実害が出る前に止まったこともあり、シヴァの謝辞をその場の勢いで受けたデュークだったが、内心では「こりゃあ、とんでもない奴とクラスメイトになっちまった」という、今後の不安で一杯だった。

 

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