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防御よりも攻撃攻撃攻撃


 それはさながら、四方から押し潰さんと迫る炎の壁。それを思わせるほどの連撃だった。


「がはぁあっ!?」

「はっはぁ!!」


 シヴァは全身をくまなく炎撃を叩きこまれたシャクナゲの首を鷲掴みにし、その喉に灼熱を直接送り込む。

 

「《爆炎掌(テオ・プロジム)》」


 凄まじい熱膨張が肉体の内側から発生し、シャクナゲは血肉を爆炎と共に撒き散らせながら全身を破裂させる。

 どれほどの再生能力を有した怪物であっても即死は免れ無さそうなダメージだが、神族の不死性は肉体に由来するものではなく、存在の特性に由来するもの。木端微塵になっても瞬く間に肉体を復元するが、シヴァは自分の体を覆うほどの大きな魔法陣を展開。それを下から蹴り上げる。


「《百萬炎烈轟脚破(ミリオ・レギナズル)》」


 大地を割る《滅びの賢者》の蹴り。それとまったく同じ威力と質量を伴った炎が100万発、 魔法陣から噴火するように放たれた。

 復元しかけた肉体は再び消し炭となり、屋敷の地下から上部分は完全に吹き飛ばされる。周囲には火の粉の雨が舞い落ち、戦いは屋外へと移行した。


(ここなら魔法陣を壊さずに済みそうだな)


 あのまま除霊魔法という爆弾付きの魔法陣がある地下で戦うのは、学術都市の住民たちが危険だ。そこから抜け出すことができ、注意こそしなくてはならないが、それでも戦いやすくはなる。


「おのれ……! 私を魔法陣の上から……!」

「これでもうお前は、俺を倒さない限り魔法陣から魔力を吸収できない……何が目的か知らないけど、残念だったな……なぁ!!」


 噴射する業火を飛行の為の推進力に変え、相手を地面に落とさない、かち上げるような連続攻撃。シャクナゲとしては魔法陣の上に戻りたいのだろうが、それを許すシヴァではない。


「《火隕矢(メテオラ)》」


 遥か上空から雲を突き破り飛来する、隕石を思わせる巨大な火の矢がシャクナゲの胴体を穿ち、彼女の体を海へと運ぶ。

 着水と共に凄まじい爆発が生じ、巨大な水柱が上がり、海に一時的に大穴を開けた。露出した海底に全身から煙を上げながら炭の混じった喀血を繰り返すシャクナゲに追撃する。 


「ぐ……がっ……! ……水神の血脈と、海で戦う意味を知らないのかしら……!」


 鳩尾に突き刺さる、炎を纏ったシヴァの踵。その損傷を無視して、シャクナゲは海そのものに干渉した。

 星の7割を埋め尽くす水の塊。それを掌握するのは水の女神の子。生粋の海神ほどの掌握力はないが、その脅威は計り知れない。法則を超えて何百万度にも温度を上昇した海水は、辺りに生息していた海生生物たちを残さず茹で殺し、熱湯の刃となって殺到する。

 その数、その威力は先ほどまでとは比較にならない。水の使い手が海の力を借りるというのは、すなわちそういう事だ。


「《百萬拳裂炎上烈破(ミリオ・ブラキウム)》」


 しかし、シヴァは一切意に介さない。防ぐ素振りも、避ける素振りすらも見せず、致命の威力を誇る雨の如き水の斬撃の連撃を前にして、自分の両側に2つの魔法陣を展開。それを殴りつける。

 放たれるのは計200万にも及ぶ炎の拳。その数と威力によって水の刃をシャクナゲと海ごと吹き飛ばした。


「まだまだぁあっ!!」


 肉体を復元しきる前に振り落とされる灼熱の業火を纏う踵落としが、海底に大穴を穿ち、海を叩き割る。そこから更に連打……反撃の隙すらも与えない。水という、炎の天敵属性の神族の魔法に対する、超攻撃的防御だ。

 

(何なの……これ!? な、何もさせて……!)


 あらゆる火を消し去る海が、そこで戦う水神ごと、たった1人の魔術師が生み出す炎に吹き飛ばされていく。こんな事が出来る魔術師など、4000年前に実在したどのような大魔術師にも出来なかった。


(どうしてこんな男が今の今まで注目されなかったの……!? 炎で海を押し返す魔術師など……)


 何とか見つけた隙をついて距離を取りながら反撃をしている最中、シャクナゲは1つの可能性に思い至るが、すぐに頭を横に振る。


(そんな訳が無い……! 奴は既に倒されたはずだし、本当に奴だとしても……こんな人類を守るためにあの炎(・・・)を自ら封じる真似をするはずが……!)


 絶対にありえないと断じたものの、ますます正体が分からない。姿を隠して研鑽を積んだ魔術師だとしても、こんな実戦慣れしているのは可笑しな話だからだ。


「戦いの最中に考えごとか? 随分と余裕じゃねぇの!!」

「ぐああああああああああああっ!?」


 一撃一撃が海を吹き飛ばす衝撃と灼熱を纏う連撃が、シャクナゲの全身にくまなく叩き込まれる。ここが莫大な水という緩衝材が無い場所であったなら、例え戦場が遥か上空であっても容赦なく地上を焼き払うだろう。もしかしたら……というか、もしかしなくても、シヴァはそういう意図もあって水神であるシャクナゲを海へと誘導したのだ。


「ふ、ふざけた真似を……!」


 神族にも関わらず、人類に侮られている。そう感じたシャクナゲは怒りと屈辱で我を忘れそうになるが、ある疑問が彼女の理性を冷静に保たせる。


(でも分からない……どうしてこの男は、こうも魔力を消費し続けるの!?)


 これほどの攻撃でも、〝神は人の力の及ばない存在〟であるという概念的守護に守られた神族は殺せない。それを分かっているはずなのに、この後先考えない魔力の消費は何なのか。

 いくら優れた魔力を持つシヴァといえど、権能魔法によって制限なく魔力を回復させることができる神族や悪魔と違い、休憩なく使用し続ければ枯渇する。1度の戦いで絞り出す分には限界がある。現にシヴァの魔力が目に見えて減ってきているのだ。これほどの魔術師が、そんなことも分からないとは思えない。


「人質を取られたからといって、破れかぶれの特攻かしら……!? そんなことをしても無駄よ……貴方のような破壊に特化した炎の魔術師に、誰も救えはしないわ!!」


 鋼を切り裂く熱湯の糸が無数に生み出され、渦を巻くように広がる。この時代の、どのような英傑でも瞬時に細切れになる斬撃を全身で受け止めるシヴァだが、彼は皮膚が切られた端から瞬時に肉体を再生させつつ、怯むことなく猛攻撃をただ繰り返す。

 

(天使たちを滅した以上、神族を殺す手段がある。それを使わないのは私が学術都市全員の霊魂を人質にとっているから……事実上、無限の魔力と不死性がある以上、長期戦になれば勝つのは私。この男が勝つには、学術都市の住民たちを見殺しにするほかない……その筈なのに……!)


 シヴァの眼には、一切の諦めが宿っていない。それどころか、自分だけではどうしようもないこの状況など、意にも介していない……そんな獰猛な笑みだ。


(どうして!? どうして諦めようとしないの!? どうして最高神の子である私が、手加減している人類の魔術師に圧倒されなきゃいけないの!?)


 殺す手段があるのにそれを使わない。それは手加減されているのと同義だ。その事実に猛烈な屈辱を感じるシャクナゲだが、それでも彼女の優位には違いない。

 理由はどうあれ、シヴァは自分が殺されかねない状況下においても他を見放さない甘い性格。念のために用意した除霊魔法(保険)が最大限の効果を発揮している状態だ。

 確かに今は圧倒されているが、このまま続ければ最終的に勝つのは自分だ。シャクナゲはシヴァの魔力が尽きるその時を虎視眈々と狙うが……そこでシヴァの意図に気が付く。


(……もしかして、意味のない攻撃をただ繰り返しているのではなく、私をこの場に留まらせようとしている? 猛攻によって自分に意識を集中させて、私の目を何かに向かないように……?)


 それは悠久の時を過ごしてきた、神族の経験則からくる直感だった。もしそうだとするなら、シヴァはシャクナゲから何を守ろうとしているのか。


「さっき、俺には誰も救えないって言ったよな?」

「……?」


 唐突に、シヴァは攻撃の手を緩めないまま語り掛ける。


「確かにそうだ。俺の魔法は破壊に特化しすぎて、誰かを救うなんてのは本来専門外だ。実際に俺が今まで誰かを救うことが出来たことなんて数える程度しかなかったし」

「……それが何だって言うの?」

「今回の事だってそうさ。お前の仕掛けた保険()は小賢しいくらいに周到で、俺だけじゃどうしようもなかった」

「……一体、何の話を――――」

「けどな」


《滅びの賢者》《破壊神》と世界から恐れられた男は、シルヴァーズとしてではなく、この時代の学生、シヴァ・ブラフマンとして断言した。


「今までは(ひと)りだったけど、今は違う。ここで戦っているのは俺1人でも、俺は独りじゃない」


 その言葉を聞いたシャクナゲは瞠目し、シヴァからの猛攻を食らうことも厭わずに学術都市の方を見やる。千里を見通す神の目で視界に収めた大都市の上空には、青白く輝く巨大魔法陣が都市全体を覆うように展開されていた。

 

「嘘でしょう……!? あの小娘が……今まで意図的に魔法を教えてこなかったのに……ついこの間まで魔法の基礎すら知らなかったはずの小娘が、あんな魔法を使おうというの……!?」

「はっはぁ!! 最高の出来と十全以上の魔力だ! これなら十分どころか十二分!!」


 止めなくては。その判断に全身を委ねたシャクナゲは、魔法陣を介して巨大な水塊を砲撃として撃ち出す。着弾すれば一撃で要塞をも木端微塵にする砲撃は学術都市へと飛来するが、その一撃は突如都市全体を包み込むように展開される炎の結界によって阻まれた。


「《大業炎結界オル・フレウォルディム》。……さっき見せた《炎轟壁(フレウォル)》と違い、炎そのものに質量を持たせて展開される、高速で飛来する物体や風圧すら防ぐ火の城塞だ。水の砲撃だろうが何だろうが、邪魔はさせねぇよ」

「シヴァ……ブラフマン……!!」


 こちらの攻撃を防ぐ手立てがあったのに、起死回生の一手を悟らせないために、神の攻撃を前にして一切の防御を捨てた。

 その事実が魔法陣の上から我が身を離されたことも相まって、絶世の美貌に憤怒をありありと浮かべてこちらを睨むシャクナゲに対し、シヴァは広げた両手に炎を灯す。


「今更気付いてももう遅い! ここから逆転させてもらうとしようか!!」


   

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