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学長の娘に手をかけるのは二度目になるかもしれない破壊神


「おおっ!? なんか生きてた!? 経験則的に、絶対に死んでると思ってたんだけど」

「死んでないわよ!? ていうか貴方、あまり反省してないでしょ!?」

「いや、してる! してるって! ただまぁ、死んでも生き返らせれば良いかなって……」

「そう言う問題じゃないから!?」


居丈高(いたけだか)に正論で捲し立てられてタジタジのシヴァに詰め寄るリリアーナ。炎上する建物の周りでは、水の魔法で懸命に鎮火を試みる1年1組の生徒と担任教師がいて、中には震えながら頭を抱えて蹲る元クラスメイト達の姿もあった。

 それを見たセラは心配する心の片隅で意外に思った。事故とはいえ、これまでシヴァに炎を向けられて無事で済んだ者は1人もいない。

 だが1年1組の生徒たちは、見た限り怪我を負った者はいないように見える。突発的に襲い掛かってきた破壊の炎を、咄嗟の判断で対処できるものなのか……その事にセラが疑問を抱ていると、リリアーナは心底呆れたように嘆息した。


「全く、噂に聞いた通りね。シヴァ・ブラフマン君?」

「え? 俺の事しってるの? そういうアンタは確か、新しい学長の娘さんの……」

「リリアーナ・ドラクルよ。もっとも、学長の娘だなんて貴方がいる限り、学校内でも大した威光にもならないでしょうけど。聞いてるわよ?」


 何を? と、シヴァが首を傾げると、リリアーナは頭が痛いとばかりに眉間を揉む。


「入学試験では受験相手を楽しそうに嬲り殺し、入学したらしたで学校の施設や備品を喜んで破壊。歯向かった前学長の娘であるエルザさんは見せしめとして何度も火炙りにしたという賢者学校史上最恐最悪の問題児。他にも大多数の生徒や教師が2日に1回は焼殺されるか校舎や備品が壊される……圧倒的な魔力と力で学校を支配する君の事を、皆は《殲滅魔人》シヴァと恐れているわ」

「ちょっと待って!? 俺そんな風に呼ばれてるの!? 噂の出所はどこ!? 早く訂正しなきゃ!!」

「でも事実なんでしょう? 違う?」

「違……う……わ、無いけどさぁ……!」


《炎の悪魔》、《滅びの賢者》、《破壊神》に続いてつけられた《殲滅魔人》という悪評にシヴァは両膝を地面につけて顔を両手で覆いながらシクシクと泣く。高校デビュースタートが最悪過ぎた……4000年越しのジェネレーションギャップが招いた結果がかつて不倶戴天と恐れられた頃の焼き増しになるとは。


「…………っ!」

「いや、私も包み隠さずズバリと言って傷付けたのは事実だけど、貴女が彼を庇っても事実は事実よ?」


 ガックリと項垂れるシヴァの頭を抱きしめながら『悪気はないんです』と言わんばかりの眼で見てくるセラに飽きれ半分の眼を向けるリリアーナ。


「それはさておき、この落とし前はどうつけてくれるのかしら? 私には貴方を直接罰する権限は無いから、建物を壊したことに関してはこの際置いておくとして、1組の授業するための場所が無くなったのだけど」

「いや、それについては本当に申し訳ないと謝るしか……むしろそれ以外にどうしろって言うんだ? 出来ることならやるけども」


 その言葉にリリアーナは確かに目を輝かせる。それを見たシヴァは安請け合いし過ぎたかと若干後悔した。何かとんでもない無茶難題でも押し付けられるのではと不安になり、手のひらを向ける。


「言っておくけど、不老不死にしろとか言われても無理だぞ!? 俺はその手の魔法は得意じゃないし! それとも鉱山の金脈丸ごと地上に引きずり出せとか? もしくは世界征服の為の手駒になれとか……ま、まさかドラゴンの首取って来いとは言わないよな? 流石にそれは……」

「誰もそんな無茶苦茶なこと言わないわよ!? ていうか、それはどれもこれも不可能な事よね!?」

「…………よかった。二番目と三番目のはともかく、最後のは正直……」

「……?」


 掠れるような独り言にセラは首を傾げた。しかしその疑問は展開に押し流されるように記憶の片隅へと即座に追いやられる。


「もし私たち1組に申し訳が無いと思うのなら……シヴァ・ブラフマン君。貴方、1組に入らなない?」

『『『…………え!?』』』


 思いもよらない勧誘にシヴァたち5組はおろか、1組の方からも驚きの声が上がる。


「リ、リリアーナさま!? 一体何を言っているのですか?」

「そ、そうですよ! あんな恐ろしい男がクラスメイトになるだなんて……!」

「嫌アアアアアアアアアアッ!! シヴァは嫌アアアアアアアアアアアアッ!!」

「ほら見てください! 振り分け前の彼と同じクラスメイトだった人たちとか発狂してますよ!?」

「そ、そんなに嫌がらなくても……」


 かつてのクラスメイトたちの拒否っぷりに、シヴァはまた涙を流してしまう。


「そもそも、クラス替えなんてそんな簡単に出来るのか? まさか学長の娘権限とか、エルザみたいなこと言わないよな?」

「違うわよ。これは一応、学校の校則として認められてることなのよ」


 どういう事? という意味を込めてエリカを見るシヴァとセラ。


「魔導学徒祭典の出場メンバー登録表を運営側に提出する締め日の直前まで、戦力補強の為に出場が認められた魔法学校では同学年に限り、クラスメイトの引き抜きが生徒たちの自由意思で行われるの。方法は決闘でも交渉でも何でもありなんだけど……リリアーナさんの言う通り、魔導学徒祭典までの間はクラスメイトの入れ替えや引き抜きが出来るのは事実だよ」

【……初めて聞きました。あの……それなら5組も参加できたんじゃ……?】

「……こんなことは言いたくないんだけど、その……5組ってだけで嫌厭されがちだったりするから」

「あー……なるほど」


 シヴァたちはその言葉に気を悪くすることもなく素直に受け入れた。元々、5組は成績不振者や問題児が集められる下位クラス。そんなクラスの生徒など、引き抜くに値しないと思われても仕方ないだろう。


「まぁ、そういう事。私としては何としても魔導学徒祭典で優勝したい……そのために力ある生徒は可能な限り欲しい。そう、貴方のようなね」

「えー……」


 しかし、1年5組には例外的にシヴァという規格外の存在もいる。評判を気にしなければ目を付けられてもおかしくはない、極めて破壊的な魔法を操り、蘇生魔法まで使うという、学生の範疇に収まらない生徒が。

 シヴァは大いに渋った。せっかくセラと同じクラスになれ、気の優しい担任教師を持ち、普通に話せるクラスメイトとも交流を持て始めたのに、何が悲しくて自分の事を怖がっている連中ばかりの1組に移籍しなくてはならないのか。


「…………」

「はうっ!?」


 その時、セラはシヴァの服の裾を指先で抓み、「行っちゃうんですか?」と言わんばかりの不安そうな顔で見上げてくる。僅かに潤んだ瞳と上目遣いのコンボに動悸を抑えきれずに心臓の鼓動と同じく加速しそうになる周囲の熱運動を抑えていると、エリカの背後に隠れていたグラントも抗議の声を上げてきた。


「そ、そんなの断れ……! い、1組なんかに移籍したら、ゆ、許さないからな……!」

「何でお前は先生の後ろに隠れてるんだよ?」

「い、いいだろ何でも……! こ、こんな大勢の前に出るの何か……い、嫌だし」


 どうやら人前に出るのは相当嫌らしい。悪魔崇拝者(サタニスト)の末裔として周囲からも嫌な目で見られることも多かったであろうグラント。本来なら人前に出るのも嫌がり、存在を気づかれたくないであろう彼女が、離れ離れになろうとするクラスメイトを必死に繋ぎ止めようとしている。


「グラント……お前まさか、俺とクラスメイトじゃなくなるのが寂しくて……」

「お、お前が1組なんかに言ったら、け、研究が進められないじゃないか……! せ、せっかく人が少なくて何とか過ごせる5組で集中して研究できる環境なのに……!」

「あぁ、はい。そういうことっすか」


 ようは自分が落ち着いて研究できる環境にいろという事らしい。元々セラも物静か(というか喋らない)で、エリカも寛容なところがある。人嫌いのグラントが静かに研究対象であるシヴァを観察するには、5組という環境はうってつけなのだろう。


「ま、私のクラスメイトも貴方のクラスメイトも反対するだろうというのは予想の範疇だったわ。そこで貴方には、反省の証として私からの提案を受け入れてもらうわ」

「それはもう強制という奴なのでは?」

「あら、そんなことはないわよ? 断れば、誠意も何も無い問題児として、貴方に対する周りの目がさらに厳しいものになるというだけで」


 ニッコリと輝くような笑顔でそう言ってのけるリリアーナに、やはり彼女は学長の娘なのだと実感せざるを得ない。友達も多く作り、彼女(セラと付き合う予定)がいる学校生活を送るリア充という頂きを目指すシヴァとしては、それは避けたいことだ。


「魔導学徒祭典に向けたクラスメイトの引き抜きを賭けた生徒同士の決闘……すなわち、争奪戦を貴方に申し込むわ。勝負形式は私と貴方の1対1でどうかしら?」

「……マジで?」

 

 予想だにしていなかった展開にシヴァは思わず呆然とし、周囲は『リリアーナが血迷った!』と大騒ぎ。4000年前ですらシヴァと1対1で戦うことは避けるようにしろというのが常識だったが……それを自らの意思で自ら進んで挑む者などよほどの物好きしかいなかった。現代の魔術師の眼から見てもそう映るだろう。


「どっちにしろ、今の貴方の手綱を掴まずに放置し続けるのも良くないもの。だから勝敗が決した時の条件は、私が勝てば貴方は1組に移籍の上で私の指示に従ってもらう。貴方が勝てば私が5組に移籍し、貴方が学校で無暗に魔法を使わないように監督する。悪いのは貴方なんだから、このくらいの条件は当然よね?」

「お、おう……」


 正論と言えば正論。言い返せずに条件を受けいれたシヴァに満足したのか、リリアーナは人差し指をシヴァの顔に突き付けて、満面の笑みを浮かべた。


「魔導学徒祭典優勝は、賢者学校にとっても世界的にも非常に名誉な事よ? その影響は少なからず1組にも恩恵を与えるし、もし貴方が汚名返上をしたいというなら、悪い話じゃないと思うわよ?」 


 

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