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自重していたつもりだったのに

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 対象の内部に熱を送り込むことで発生する熱膨張で万物を内側から爆散させる魔法によって、灼熱に熱された巨岩が無数に森に降り注ぎ、木々やエルザたち1班を焼き潰していく。

 岩山が爆散するのと同時に上空へと跳躍したシヴァはその地獄絵図ともいえる光景を目にし、着地後に背中のセラを地面に下ろしてからこんなことを口にした。


「おいおい、破片に当たっただけで死ぬのか? ライルの時は違って直接攻撃したわけじゃないのに……人のくせしてネズミよりデリケートな生き物だな、お前らは!」

「~~~~っ」

「ん? あれ? どうした、セラ。地面に座り込んだりして」


 災害に見舞われたのかと錯覚しそうな森の有様と押し潰された死体、そして盛大な爆裂に加えて高く跳躍してから落下するという、絶叫アトラクション顔負けの体験にセラの腰が抜けてしまったのだ。


「それにしてもあれだけ大口叩いておいて情けない。これしきで全滅するとは……飛び散った破片如きをまともに対処することも出来ないとはな。このくらいどうにかしろよなぁ、まったく」


 生き残った者はいない。それでも嫌いとはいえクラスメイトだし蘇生してやろうと、シヴァはまず岩をどかすことにした。


「《隕合錬岩(アルルド)》」


 飛び散った巨岩がシヴァの上空へと吸い寄せられ、一体化し、細部の細かい形こそ異なるが、元の岩山となって再び鎮座する。

 シヴァは炎魔法の適性しかないだけあって、他の魔法が使えないわけではないのだ。いくら苦手分野とはいえ、このくらいは簡単にできる。


『な、何だ!? 今の大規模な地属性魔法は!?』

『ひ、1人であれほど巨大な岩山を再構築したというのか!?』

『地属性魔法に長けた魔術師が数十人規模で時間をかけて行うような大魔法だぞ!? シヴァ・ブラフマンは何者なんだ!?』


 もっとも、森の外にいるアランたちは遠見の魔法越しに大騒ぎしているが。


(この程度、基礎中の基礎だろ。大げさな連中だな)


 そしていつものように騒ぎ立てる外野の言葉をそう解釈したシヴァは、《生炎蘇鳥(フェニクス)》で22人を纏めて蘇生させる。

 いったい何があったのか、しばらく思い出せずに呆然とした彼らだったが、シヴァの姿を見て何があったのか理解したのか、全員が引き攣った表情を浮かべて後退る。


「それで? 確か模擬戦のルールじゃ、班のリーダーを倒すか、班員の半数を倒すかで勝ちなんだよな?」

「ひっ!?」

「く、来るな……!」


 それを見たシヴァは思わず憮然とした表情を浮かべる。


「そんなにビビらなくたっていいだろ。確かに俺はやりすぎたかもしれないけど、お前らがプリンみたいに柔い体してるのも悪いと思わないか? ちょっと石ころが当たっただけで死ぬなんて……仮にも戦闘訓練施設の生徒だろ? 幾らなんでもか弱すぎるんじゃないのか?」

「い、石ころ!? 大岩の間違いなんじゃ……」


 両者の間にある大きな認識の違い。それに気づくことなく、シヴァはさも当然のように言ってのけたセリフに、クラスメイト達は慄いた。


「……認めないわ」


 ただ1人、エルザを除いてだが。  


「名門アブロジウス家の教育を受けた私が……《滅びの賢者》に最も相応しいこの私が……あんな、あんな簡単にやられるわけが……!」

「いや、認めないも何も、実際に死んでたじゃん。ルールに則れば、この決闘は俺の勝ちってことで――――」

「そんなことある訳が無いじゃない!! 純血が混血に負けるなんてこと、絶対にありえないのよ!! だからまだ勝負はついていない!!」


 勝負が付いたにも拘らず、エルザは自身の頭上に1メートルほどの魔法陣を描き、それを発動させる。


「《吸魔精(ドルイロ)》!!」

「え、エルザ様!? 何を!?」

「ま、魔力が……魔力が吸われて……あ、あぁあああああ……!」

『エルザ・アブロジウス!? いったい何を!?』


 周囲の生物から魔力を生命力ごと吸い取る魔法だ。彼女の班員は魔力も体力も吸い取られ、全員干乾びたような表情を浮かべながら倒れると同時に、アランの制止を聞く様子もないエルザの体には他人から奪った魔力で漲っていく。


「おいおい、お前の仲間だろ。酷い事をしやがる」

「ふんっ! こいつらは単なる下僕よ。私の勝利の為ならその命を使い捨てる程度のね。……と言うか、何であんたたちには効いてないのよ!? 生意気な!」

「そんなこと言われても」


 元々、《吸魔精(ドルイロ)》は術者より魔力総量が多い者には通用しない魔法だ。エリザよりも圧倒的に魔力が上の2人に、そのような魔法が通用する道理はないのである。


「くっ……! どこまでもこの私をコケにして……! でも、十分すぎる量の魔力は手に入れたわ! この私の最強魔法で、跡形もなく消し去ってやる!!」

「ほう……その魔法陣、《颶風水禍迅(オルガ・シュトロム)》か」


 エルザの正面に浮かんだ巨大な魔法陣を見て、今回ばかりはシヴァも関心したような声を上げた。


「これこそが、我がアブロジウス家に伝わりし、4000年前の決戦魔法! 《破壊神》シルヴァーズを幾度も追い詰めた、水と風の最上級混合魔法よ! 混血雑種の分際で、良く知っているじゃない」


 それは実際にこの目で何度も見てきたからだ。もっとも、魔法陣を見たのは1度だけだが。


「測定の時も今回の模擬戦の時も、あんたが使ったのは超強力な炎魔法。あれだけの規模の威力から察するに、あんたは炎属性にしか適性が無いんでしょ!?」


 個々人によって、炎・水・風・地・雷の5属性の適性がある。中には5属性全てを操る者も居るが、2属性から3属性の適性があるのだが普通だ。

 しかし中には1つの属性しか適性のない者も居る。他の属性の魔法が使えないというわけではないのだが、適性のある者と比べれば遥かに劣るのだ。

 しかしデメリットしかないというわけでもない。適性が1つに絞り込まれて対処されやすくはなるが、その分魔法の威力が上がったりもする。

 エルザはその観点から、シヴァの適性が炎属性しかないことを自慢気に見破ったのだが、当のシヴァは少し首を傾げるだけだった。


(あっれー? 属性適性を絞り込まれるほどに強い魔法を使った覚えもないんだけどなぁ)


 あんなに手加減したのに……そう思い込んでいるシヴァに、エルザは嗜虐心に満ちた表情を浮かべる。


「ならもう分かるわよねぇ? 魔法の撃ち合いが苦手な炎属性魔法で、更に炎が苦手とする水と風の最上級魔法をどうにかできるわけがないってことくらい!」


 エルザの自信の根拠は正しい。破壊力と殺傷力が高い炎魔法だが、他の属性の魔法と撃ち合いになるのが苦手なのは、シヴァも嫌というほど知っている。特に火を消し、吹き飛ばす水と風は鬼門中の鬼門なのだ。

 ……だが、しかし。それでもシヴァの表情には焦りはなかった。


「さぁ、私に歯向かった愚かさを、後ろにいるチビ諸共地獄で後悔なさい。……《颶風水禍迅(オルガ・シュトロム)》!!」


 大量の水を纏った竜巻が、まるで得物に襲い掛かる蛇のような軌道を描いてシヴァたちに迫る。


(やばいな……こんなに威力のない《颶風水禍迅(オルガ・シュトロム)》は初めて見た)


 この魔法が、炎魔法が得意で《破壊神》と呼ばれていた時のシヴァ対策に編み出された決戦魔法なのは事実だ。しかしそれは大魔力によって、大海を巻き上げる大嵐のような規模と威力があってこそ。

 こんな小さなつむじ風と水ごときで倒されるようなら、シヴァは4000年前に死んでいる。そう思っていると、風によって揺らされたシヴァの前髪が鼻をくすぐり、そして出てしまった。


「へっくしょんっ」


 局所的な太陽表爆発(フレア)にも匹敵する、《滅びの賢者》のクシャミが。

 シヴァの鼻と口から放出された爆風と閃熱は水を纏う竜巻を容易く蒸発させ、エルザたち第1班は跡形もなく焼失。森を半月状に焼き払った。


「どうしてクシャミしただけで勝手に死んでんの!? まったくもう」

『し、試合終了! 勝者、第2班!』

 

 もう一度22人を纏めて蘇生すると同時に、アランが慌てて試合を止めてこれ以上の被害の拡大を抑える。1班の殆どが気絶していたり、ブツブツと何かを呟きながら呆然としている中、高すぎる自尊心で唯一正気を保っているエルザにシヴァは近づく。


「俺の勝ちだな。賭けの話をしようじゃないか」

「……なんのことよ? そんなの私は知らない」


 その台詞にはシヴァも眉を顰める。これでは決闘を受けた意味が無くなってしまう。


「お前、それはねーよ。約束1つくらい守ってくれよ」

「ふんっ!! どうしてアンタみたいな薄汚い混血雑種との約束を守らなきゃならないのよ?」


 どうやら約束を完全の反故にするつもりらしい。しかし、そうなればシヴァにも考えがある。


「本当の本当に約束を守るつもりはないと?」

「しつこいわよ! こんな決闘ただの戯れよ!! アンタたちに割く労力は欠片もないの!!」

「それじゃあ仕方ない……強硬手段をとるとしよう。《火焔令紋(メギアス)》」


 シヴァはエルザの首元に指を向け、魔法を発動させる。すると、エルザの首を巻きつくように赤い紋様が刻まれた。


「な、何をしたのよ!?」

「なんてことはない。今から俺が言うことを叶えなかったら、お前が死ぬ魔法をかけただけだ。死の苦痛をもう一度味わいたくなかったら俺に従うんだな」

「……はっ。何言ってるのよ、そんな高度な呪術を魔法陣や道具もなしに使えるわけが無いじゃない。何度も言うけど、私はアンタに従うつもりはぎゃあああああああああああっ!?」


 シヴァの命に背いた瞬間、エルザの全身が激しく発火し、全身が焼失。シヴァは呆れたように息を吐きながら蘇生魔法を発動した。


「だから言ったろ。賭けの代償を払わなかったら、何度でも死に続けるぞ」

「……が、はぁ……ぐぅっ」


 流石に現状を理解したのか、エルザは睨みつけながらも黙ったシヴァを見上げる。


「現状を理解できたみたいだな。で、賭けの続きなんだけど……」

「な、何よ!? 私が美しいからって、まさか奴隷にでもしようってんじゃ……!?」

「いや、普通に要らない。性格悪そうだし、別に美人でもないし」


 エルザは般若のような表情を浮かべるが、シヴァはそれを無視する。


「お前、この学校の生徒間じゃ結構幅を利かせてるんだろ? だったらさ、もう二度とセラに対する苛めがなくなるよう、全力で取り計らえよ」


 本当は土下座の一つでも強要したいところなのだが、心の籠っていない謝罪など意味がない。ならばこの賢者学校で学長の娘として教師もまともに逆らえない力を持つエルザには、もう二度とセラに苛めの手が伸びないようにしてもらった方が良いだろう。

 ……しかし、そんなシヴァの要求に対してエルザは憤怒の表情を浮かべる。

 

「はぁっ!? どうしてこの私がそんな面倒なことをギャアアアアアアアアアアアアアアッ!?」


 再びエルザの全身が燃え尽きる。シヴァは溜息をつきながら蘇生魔法を発動した。


「一度言った程度じゃわからないか? お前が俺が提示した要求に応え続けない限り、何時でもお前の体を炎が焼き尽くすぞ?」

「う……ぐぅ……!」

「そういうわけで、よろしく」


 いうだけ言って踵を返そうとするシヴァ。そんな彼の背中と義姉の姿を見比べ、最終的にはシヴァを追いかけ始めるセラを悔し涙と恐怖の涙を流しながら睨みつけるエルザは、最後の抵抗とばかりに叫んだ。


「何なのよ……何なのよ、あんたは! 何であんたみたいな規格外なのがこの学校に入学してきたのよ!?」

「何でって……昨日言ったとおり、友達欲しくて通い始めたんだよ。それに規格外ってなんだよ、俺は別にそこまで言われるほど大層なことはしていないぞ?」


 自覚のないシヴァの一言に、遂に怒りまで湧いてきたエルザは唾を飛ばしながら糾弾する。


「大層なことはしていない? 笑わせるんじゃないわよ!! 岩山を壊したり測定器を壊したり、顔色一つ変えずにクシャミだけで人を大勢殺したと思ったら今度は御伽噺の中でしか語られない蘇生魔法を使う? そんな学生が、この時代のどこにいるっていうのよ!?」

「……え? お、御伽噺? 蘇生魔法くらい、そこらへんに転がってる魔法じゃ……?」


 なんとなく感じていた周囲との認識の違い。それをエルザによって正され始めたシヴァは、始めて狼狽えたような表情を浮かべた。その表情はどこか迷子の子供のようであると、セラはそういう印象を強く受ける。


「そんなわけないでしょうが!! あんたみたいなのはね、規格外通り越して異常で異質な存在っていうのよ!!」


 瞳に恐怖と怒り、4000年前にシヴァに向けられていた感情を視線に宿して、エルザは叫ぶ。


「この学校から出ていけっ! この化け物っ!!」



他のざまぁシリーズもよろしければどうぞ。

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