模擬戦で可能な限り配慮してみた破壊神だが
沢山評価を貰って、風邪なのに思わず執筆してしまいました。これがポイントの力か。
翌日、賢者学校の第2野戦演習所にて。
大人数の魔術師によって作り出された人工の森や岩山……魔法を用いた実戦を体感するのに十分な条件を満たしたこの場所に、1年1組全員が集まっていた。
「決闘のこと、分かってるわよね? 私が勝てば……」
「あぁ、言われるまでもない。……ついでに言っておくけど、俺が勝った場合の時のこと忘れるなよ?」
「ふんっ! 本当に生意気な混血雑種ね。そんな悪趣味なチビを手元に置いておくだけのことはあるわ。あんたが勝つなんてこと、絶対にありえないんだから」
互いに火花を散らす両班のリーダー。その間にアランが立ち、軽く咳払いをする。
「それではこれより、エルザ・アブロジウス率いる第1班と、シヴァ・ブラフマン率いる第2班の模擬戦を執り行う。両チームは指定されたポイントまで移動するように」
「「はい」」
クラスメイト総勢30人の内、エルザの班員22名……クラスメイトの過半数を率いて森の中へ。対するシヴァは、唯一の班員であるセラを連れて岩山の方へと移動し始め、残りの生徒やアランは演習場の外へと移動する。
遠見の魔道具屋ら魔法やらを使って高みの見物と洒落込むつもりだろう。学生の訓練とはいえ、使用するのはれっきとした攻撃魔法だから当然と言えば当然の配慮だ。
「それにしても……俺たちの班員、全然集まらなかったな。ギリギリ班という名目だけは守れたけど」
数だけを見た戦力差は十倍以上……これがクラスカーストトップと、それに逆らった者の違いであるかと、シヴァはちょっと悲しい気持ちになった。
唯一班員になってくれたのはセラだけなのだが、実はシヴァも初めはクラスメイトを勧誘してはいた。しかしその殆どはエルザの味方をし、残った6人はというと――――
『なぁ、良かったら俺の班に――――』
『ひぃっ!? お、俺はもう別の奴と組んでるから!』
『……なぁ、俺と――――』
『こ、来ないで! 先生に言いつけるわよ!?』
とまぁ、このように怖がられているのだ。
(おかしい……そこまでビビられるようなことしたかなぁ?)
入学早々煙たがられるルートまっしぐら。本当なら初日で男友達でも作って和気藹々とした雰囲気を作りたかったのに、どうしてこうなったのかと。
いや、理由は分かっている。学校内での権力が高いエルザに逆らったからであり、そんな奴に関わりたくないというのは至極当然のことだ。
(だからって、クラスメイトと話すくらいの事はしてくれてもいいじゃん)
……もっとも、シヴァの場合別の理由もあるのだが、彼がそれを自覚する様子はない。
【……ごめんなさい】
「ん? 何でセラが謝るんだ?」
【私なんかと一緒に居るから、シヴァさんの学校生活が……】
早速クラスから浮き始めたシヴァの事を憂いているのだろう……今にも消えてしまいそうなほどに身を縮こまらせているセラの小さな体を見下ろし、どうフォローを入れたものかと悩んでから、気にしていないという風を取り繕うことにした。
「まぁ、出だしは悪いけど、どうにかするさ。それより、今は授業に集中するとしよう。これでも学生らしく、授業は真面目に本気でやるつもりだからな」
青春の切磋琢磨。それは本気と本気のぶつかり合いであると、シヴァはこの時代の本で読んで憧れていた。
取り繕ってばかりの者に心から楽しい青春は訪れない。勿論誰しも秘密にしたいことくらいはあるだろうが、秘密にする必要のない事まで取り繕っては、誰とも分かりあうことは出来ないらしい。
本気で強くなろうと賢者学校の門を叩いたものだっているだろう。ならば、シヴァも出来る限り本気で相対することで礼儀を示すまで。
「それにしても、向こうは森で、こっちは岩山か。こりゃ、貧乏くじを引いたかな?」
「……?」
シヴァの言葉に首を傾げるセラ。
「ん? あぁ、簡単に言えば、向こうは幾らでも隠れられる場所があるのに、こっちは隠れるところがない上に最初から囲まれてる状態ってこと」
地の利とは、戦場で最も重要視すべき要素の1つ。この演習所は隠れる場所がない巨大な岩山を森が取り囲んでいるような地形だ。
エルザたちは森に身を隠しながら接近、四方八方からシヴァたちの初期位置を襲撃出来るのに対し、彼らの常識で考えればシヴァたちに有効な手立てがない。
おそらくアラン辺りの差し金だろう。どうにもあの担任教師はエルザを贔屓し、セラを蔑ろにしているような気がするのだ。
「多分連中は今頃、試合開始前まで待機ポイントである森から出ないように岩山を取り囲んでるんじゃないのか? ……ほら、噂をすればそこの樹に3人いる」
「っ!?」
「おひょっ!?」
シヴァの眼に映った1キロメートルは先にいるクラスメイト達を指さすと、セラは驚いてシヴァの体にしがみつく。
細く小柄な体ながらも柔らかく、優しくて甘い良い匂いが顔のすぐ下から漂ってきた。これはある意味、4000年前に体験した極限の戦いよりも危険な状況だ。
「あー……一応まだ開始前だし、攻撃してこないと思うぞ? あと、何時まで抱き着いて……」
「っ!?」
「あ!? いや!? 怒ってるわけじゃなくて!?」
自分のしたことを自覚して顔を真っ青にしながら飛びのくセラに慌てて言い訳をするシヴァ。
どうしてお前のことは俺が守ってやる……みたいなセリフを言えなかったのか。シヴァはセラの気を惹くチャンスを逃した。
『ただいまより、野戦演習を開始する。両班、状況開始!』
項垂れるシヴァを追いやるように、プーッ! という試合開始のゴングが鳴る。
それと同時に岩山を取り囲む森のあちこちから魔力の反応を感じ取ると、シヴァは何でもないという風に呟いた。
「こっちを監視しながら各班員への通信を兼ねた魔法狙撃が8人、中近戦に持ち込もうと岩山に近づいてきているのが9人、残りは魔力の反応が穏やかだから、支援要員ってところだな」
【分かるんですか?】
「大体は」
4000年前によく体験したシチュエーションだ。シヴァの命を狙いに来たどこぞの強者が徒党を組んで、必殺の陣形で取り囲んでくる。
「まぁ、数も質も全然劣るけどな」
自分の体に傷を付けたいのなら、質も量もこの億倍が必要だ。シヴァは慢心ではなく、個々の能力差を見極めた上での純然な評価を下す。
「炙り出すのは簡単だけど……森を燃やしたら流石に怒られるかな?」
4000年前までなら、邪魔な遮蔽物など全て焼き払っていたところだが、この森は学校の敷地内。燃やせば先日の測定器同様、備品を破壊したという感じになるかもしれない。
それはちょっと避けたいシヴァ。彼はこれでも優等生を目指しているのだ。
「んー……よし。連中も岩山の中腹まで登ってきてるみたいだし、狙撃手もこちらを射程距離内に入れたから、とりあえずこの邪魔な岩山をどかすだけにしよう」
「……?」
「セラ、ちょっと俺の背中にしがみついてな。足もほら、曲げて地面から離して」
いったい何を言っているのだろうかと首を傾げるセラは、言われるがままにしゃがんだシヴァの背中にしがみ付く。
シヴァの広い背中には、セラの小さな体がすっぽりと収まる。両足を上げる彼女の足場に片手を添えて、これなら巻き添えにしないだろうと1度頷いたシヴァは、岩山そのものに手のひらを当てた。
これから行われるのは、周囲にできる限り被害を与えないようにしつつ行われる、今のシヴァに出せる本気の一撃。
「《爆炎掌》」
手のひらから伝わる灼熱は岩山の中心へと浸透する。まるで焼石のように瞬時に熱される岩山に、エルザたちの悲鳴が遠くから聞こえてきた。
しかしそれで終わりではない。岩山の中心へと送られ、溜め込まれ続ける灼熱はやがて行き場を失い、爆発。標高500メートルは超えるであろう大岩は文字通り盛大に破裂した。
「きゃああああああああああああああっ!?」
「な、何だ!? い、岩山が爆発したぁ!?」
「は、破片が……破片が落ちてくるぞぉおお!? うわああああああああああああああっ!?」
木端微塵に砕け散る岩山。その巨大な岩のような破片もまた登山中だったエルザたち諸共飛び散り、無数に落ちる灼熱の隕石群のように森全体に降り注いだ。
シヴァなりに周りに配慮した結果がこれです。
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