破壊神の決闘安請け合い(相手は明日死ぬ)
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「な、何ですってぇ……!?」
「イ・ヤ・だって言ったんだよ、ぶぅーっ!」
頬がピクピクと動き、青筋が立つほどの怒りの形相を浮かべたエルザは、今にも殺さんとばかりにシヴァを睨みつけるが、シヴァはどこ吹く風とばかりに変顔を繰り返した。
瞬間、エルザの手のひらに魔法陣が浮かび上がり、それをシヴァに顔に突き付けたが、それでも彼の態度は変わらない。
「言い訳を聞こうかしら? 納得が出来る理由なら、命だけは助けてあげる」
「いや、理由も何も……会って1日目だけど、正直に言ってこのクラスの連中のこと、嫌いだし」
「……は、はぁっ!?」
これまでエルザは権力者である父公爵に花よ蝶よと愛でられ育ってきた。周囲の人間も、極めて高い家柄の貴族の娘である彼女に面と向かって逆らい、ましてや嫌いなどと言ってくるものなど一人も居なかったのだ。
だというのにだ。今日会ったばかりの平民からこうもあっけらかんと言われては、これまで万人に愛されているという自負を抱いていたエルザのプライドはズタボロ。傍でその様子を見ていたセラもアタフタとしている。
「だってさぁ……セラに向かって陰でこそこそ悪口言ってる陰険な連中に、それを増長させる教師。それを先導する女。こんなん好きになれって方が無茶だろ」
「な……! そ、そんな生ゴミ同然の混血チビを下に敷いただけで私に歯向かうっていうの!?」
「そういうところが嫌われる要因だって、何で気付かないかね?」
理由はただ、血が尊いか卑しいかだけ。シヴァは別に高貴な血筋をバカにする気はないのだが、貴族が下民を愚弄する理由にはならないという考えの持ち主だ。それ以前に、不当に虐げられることを良しとはしない主義でもある。
なのに、意気揚々と入学した学校にいる生徒や教師が明確な弱者を寄ってたかって虐げるような学校に入ったと分かって、本気ではいる学校を間違えたと若干後悔している。
もっとも、そのおかげでセラと出会えたのだから結果的にはプラスでもあるのだが。
「ぶっちゃけた話、俺は《滅びの賢者》なんて称号はどうでもいいし、別段魔法を学びたくて学校に通い始めた訳じゃない。ただ単に友達とか欲しかったから、学校に通い始めただけなんだよ」
「……あら? あれだけ偉そうに言っておきながら、取り巻きの1人もいないのね?」
シヴァが自ら露呈した弱みに付け込み、エルザは厭らしい嘲笑を浮かべる。
「俺が欲しいのは友達ね、取り巻きじゃなくて。……まぁ、気心知れた相手っていうのが今まで1人もいなかったし、そういうのが欲しくて来た学校だけどさ……俺にだって、相手を選ぶ権利くらいあるんだぞ?」
「……それは……名門貴族であるアブロジウス家の娘である私は従うに値しないと愚弄しているのかしら……!?」
そう受け取られても可笑しくないシヴァのセリフに、エルザは肩をプルプルと震わせ、迸る怒気にセラはエルザとシヴァを交互に見ることしかできない。
「今この学校で最も《滅びの賢者》に相応しいと呼び声の高い純血の私に……それも大貴族である公爵家に楯突いてどうなるか分かっているんでしょうね!?」
「純血がどうの言うかと思えば、今度は貴族がどうのこうのと。正直な話、俺からすれば貴族だの王族だの、まったく怖くないから。そんな威光が俺に対する脅しに使えると思うなよ?」
このシヴァの発言に教室が騒然とする。ただの平民が貴族や王族を愚弄するような発言をしたのだから当然と言えば当然なのだが、例の如くシヴァからすれば大したことは言っていない。
4000年前、全人類と敵対していたシヴァだが、実際に戦っていたのは大勢の兵士や戦士、武勲を立てた英雄に至高の領域に達した魔術師ばかりで、為政者ではないのだ。
今も昔も、戦時における為政者たちの立ち位置は変わらない。中には最前線に出てくる変わり者もいるが、基本的に命がけて戦う者の後ろで威張り散らしているのが貴族や王族であるというのが、シヴァのイメージだ。
たとえ権力を楯にされたとしても負ける気はしない。武力だろうが財力だろうが人数差だろうが、それら全てを物理的に焼き尽くしてきたからこそ、シヴァは《滅びの賢者》と恐れられてきたのだ。
もし、貴族の権力でこちらを押しつぶそうというのなら、こちらは一国が音を上げるまで物理で潰す。そんな意思を宿した瞳に、エルザは少しだけ怯んだ。
「ていうか、俺ちょっと思ったんだけどさぁ」
「な、何よ?」
「貴族の子供や王族の子供がよく威張り散らすところは何度も見てきたけど……お前らってそんなに偉いの?」
「……は?」
エルザは本気で訳が分からないという顔をした。
彼女からすれば、自分の体に流れる貴族の血こそが下民に尊ばれる理由なのに、まるでその考えを根本から覆されたような気持ちだ。
「いや、国の重要な舵取りとか、貴族の義務とか、俺には正直あんまりよく分からんけど、そうやって自分の将来とか犠牲にしてまで恩恵を与えてくれるから敬われるのは分かるぞ? でもそういうのって皆大人になった貴族ばかりで、子供のお前らはまだ何もしてないよな? 平民の立場からすれば、仕事らしい仕事もせず、俺らに何らかの恩恵の1つも与えてくれない奴を敬いたくないんだけど?」
「へ? ……あ……え?」
幼い頃から公爵の父が居ると知っていて、訳あって一時期は共に暮らせず平民として生きてきたが、不自由のない暮らしをして居たエルザには分からないことだが、シヴァの言葉はこの場にいる、大なり小なり貴族の子弟に虐げられた平民たちが、心の奥底で抱えていた本音だった。
「今のところは税金で裕福な暮らししているだけで、功績も実績もない奴が学校でお山の大将してても……正直、滑稽としか思えんな」
「……っ!!」
これまで貴族としての名前と、持ち前の魔法の実力を見せつければ全ての平民がひれ伏した。そんな経験しかないエルザが初めて出会った、自分を堂々と侮辱する男の存在に、彼女はほぼ反射的に手袋を投げつけた。
「こ、こんな侮辱は生まれて初めてよ……! シヴァ・ブラフマン! 私と決闘をしなさい!」
「決闘?」
もしこの場に、4000年前のシヴァを知る者が居れば、エルザのあまりにも命知らずな言動を諫めただろう。
何せ彼女が挑んだのは巨象と蟻の戦いではない。太陽に芥子粒を投げ込むような、何も生み出さず、ただ太陽に挑んだものが焼き消える結末しか待っていないのだから。
「私が勝ったらあんたは私の奴隷よ! 泣いて殺してくださいっていうような目に遭わせてやるんだから!」
「まぁ、決闘自体は構わんが……それ、俺が勝ったらどうするんだ?」
「そんなこと、天地がひっくり返ってもある訳が無いでしょ!? 本当に無礼な雑種ね!」
あれだけの魔法の威力の差を見せつけられても、依然として実力差を認めようとしないエルザは吠える。シヴァはもはや憐みすら浮かぶ瞳でエルザを見ると、もう面倒くさいとばかりに片手をパタパタと振る。
「それじゃあ、億が一にも俺が勝ったら、俺の言うことを何でも一つ聞いてもらうってのは?」
「上等よ! やれるもんならやってみればいいじゃない!」
「よし、じゃあ決闘成立ってことで……決闘のルールは?」
そう問いかけると、エルザは陰湿な笑みを浮かべる。
「明日は丁度、クラス内での模擬戦が行われるわ。各自グループを作って別のグループと対戦するのだけれど、グループの人数はグループリーダーが勧誘できるだけ増やすことが出来る。明日私が結成したグループと、あんたが結成したグループで模擬戦をして、勝った方が決闘の勝者よ」
「そんじゃあ、それでいこうか」
決闘にかこつけて、シヴァを不必要に痛めつけるのが目的なのだろう。そんなことは分かりきっているが、ここまでクラスカーストトップに楯突いたからには、勝利しなければ今後の学校生活を切り開けない。
「ふんっ。精々逃げないことね」
鼻を鳴らして立ち去っていったエルザは取り巻きたちに何かを指示している。その後ろ姿を眺めていると、セラがシヴァの袖を軽く引っ張る。
【危ないです】
「ん? 何が?」
【義姉は賢者学校でもかなり強い方で、少なくとも学年で一番らしいです。もしシヴァさんが怪我をしたら……】
シヴァは思わずポカンとした。ここ十年以上、誰かに心配をされることが無かったので虚を突かれてしまったのだ。
セラも測定で力の差を存分に見てきたはずなのだが、その眼差しに含むところはなく、本心を映し出すホワイトボードには、どこまでもシヴァの身を案じる文章が綴られていた。
「……お前はなんていうか……」
「……?」
「あー……いや、何でもない」
「? ……?」
途中で言葉を切られて続きが気になったのか、逸らされた自分の表情を覗き込もうとするセラに、シヴァはニッと笑いかけた。
「まぁ見てな。上手いことやってみるよ」
と、自信満々にシヴァが言ってのけた日の放課後。
『さ、殺人事件! 殺人事件だ! 下駄箱で生徒と思しき焼死体が2人分もっ!!!』
あんな見え見えの罠魔法陣に手を突っ込むバカはいない……そう自信満々に言ってのけたシヴァの予想を裏切り、セラの下駄箱に悪意を持ってちょっかいを掛けようとした生徒2人組が爆発炎上していた。
これには流石のセラも泣きそうに歪んだ青い表情でシヴァを見上げ、シヴァはシヴァでそれから目を逸らすことしかできない。
【ほ、本当に大丈夫なんですよね? なんか、色々と】
「多分、きっと、恐らく、大丈夫……大丈夫、だと……良い、なぁ……」
何故か、この時代の〝強さ〟に漠然とした不安を抱き始めたシヴァは、遠巻きからセラの下駄箱に生ゴミを詰めようとした2人に《生炎蘇鳥》を発動させるのだった。
他のざまぁシリーズもよろしければどうぞ。